9 犯人が告白したら
「お前は、俺が此処で逮捕する」
「へっ、できるかよ!」
テオは剣を抜いてかかってきた。
こいつの言う事には一理ある。確かにテオならば、少なくともここにいるガモフたちは皆殺しにできるだろう。その素早さから、シイファたちも危ないかもしれない。
だから俺は、皆に協力を頼みつつも、戦闘には参加せない方法を選んだのだ。俺は警棒を抜くと、テオの斬りつけを受けた。
と、次の瞬間、目の前のテオが消える。いや、横に回り込んでいる。だが、俺はそれを捉えていた。
俺も足から発力して同方向に回り込む。
テオの斬撃が襲い掛かる。二撃、三撃、四撃――凄まじい速さで繰り出される攻撃を、俺は警棒でしのいだ。間合いを取ったテオが、不敵な笑みを浮かべる。
「お前、やるじゃねえか」
俺は答えない。と、そこに声が飛んできた。
「――これは、どういう事だ!」
力場の外に、ヒュリアルとリック、そしてランダーと思しき、短く髪を後ろでまとめた男がいた。声を上げたヒュリアルは、俺たちを睨んでいる。その傍にキャシーとニャコがいた。俺がキャシーに、三番隊を此処まで連れてくるように頼んだのだ。
「ここで俺を殺しても、お前にはもう逃げ場はない。諦めろ」
俺の言葉に、テオが歯ぎしりをした。
「いいや……ちょうどいい。お前を殺して、あいつらも殺してやる」
「そんなに彼らが憎いのは何故だ? お前の真の狙いは、三番隊の審査官たちだな?」
俺の言葉に、三番隊の奴らが驚きの表情を浮かべる。テオは三番隊の連中を睨みつけた。
「そうだ! 最初に斬った冒険者たちは、自分の腕が悪い癖に、おれの剣に難癖をつけてきた連中だ。奴らは肩慣らしだ。あの審査官どもを狙ったのは……奴らがカズルを殺したからだ!」
テオはそう言うと、ランダーたちを指さした。
ヒュリアルが、隣に視線を向ける。
「どういう事だ?」
「鍛冶屋の戯言です。気にする必要はありません」
短髪で屈強な身体の持ち主である、ランダーはそう言った。
「とぼけるな! お前は貴族の剣士と一緒に店に来た時、その剣士が囁いてるのを、おれは聴いたんだ。『カズルの奴は、分不相応な剣を持っていましたね』と。お前は『此処で、その話はするな』と小さく答えた」
テオは憎々し気に、ランダーを睨んでいる。
「カズルは三ヶ月前に、剣士審査を受けた。その時、平民だが腕のあったカズルは、貴族の剣士と対戦し勝った。カズルは誇らしげに、俺の店へ来て上級剣士に合格した事を報告したんだ。……だが、その三日後、カズルは何者かに惨殺された。複数人を相手にしたような――ひどい切り刻まれ方だった。おれはあんたらに犯人の捜査を頼んだが、あんたらは『平民が殺されても、それは我々の管轄外だ』と言い放った」
テオは隊長のヒュリアルを睨んだ。ヒュリアルは、変わらず冷徹な表情のままだ。
「おれは元は冒険者で、カズルはかつての仲間であり親友だった。冒険者が諍いに巻き込まれることは、それなりにある。おれも仕方がないと諦めた。そんな時、おれは三番隊が隊員審査をするという話を聞いた。平民だが警護隊に入った前例もある。おれは、普段から鍛冶屋として懇意にしてる三番隊なら、入隊できるかもしれない。そう思って、入隊審査を受けてみた。おれはその中では、誰にも負けなかった。だが、お前たちは言った。『鍛冶屋なら、身の程をわきまえろ』と。そして周りの貴族たちは、おれを笑ったんだ」
テオはギラつた目で、三番隊を睨んでいる。
「その翌々日だ。お前たちの囁きを聴いたのは。……それでおれは判った。カズルに負けた貴族たちが、集団でカズルを襲い、あんたもその中にいた事を! そう、そして最初に殺したザラスも、そこにいた一人だった。……なにが貴族だ、なにが審査官だ。汚い手を使ってカズルを殺し、おれを笑いやがって。お前らなんか、おれが本気を出せば皆殺しにできる! 生まれにあぐらをかいた、お前らの実力の薄っぺらさを、おれが暴いてやるのさ!」
テオは三番隊に向かって、そう言い放った。三番隊の連中――特にランダーは、憎しみの眼をテオに向けている。俺はテオに言った。
「何かがあるとは思ったが……事情は判った。ならば裁判の時に、そう証言するがいい。もう、おとなしく捕まるんだな」
すると割り込むように、ランダーが俺に向かって怒鳴った。
「この力場魔法を解け! ……俺が直々に、手を下してやる」
俺はランダーを、静かに睨みつけた。
「いいや。こいつは冒険者殺しの犯人として、俺が逮捕する。此処にお前たちを呼んだのは、犯人を引き渡すためじゃない。お前たちの振る舞いが、四人もの人間の死につながった事を知らせるためだ」
ヒュリアルが俺の言葉を聞いて、僅かに顔色を変えた。
「無論、殺人の責任は犯人にある。だが、そうさせた理由の一端がお前たちにもあるんだ。お前たちの尊大な態度が、死ななくてもいいはずの四人もの死につながった。その命の重さの意味を……深く考えてくれ」




