8 犯人を追い込んだら
俺に襲い掛かって来た夜の烏が、驚きの声をあげた。
姿を消していたロックが、俺を守ったのだ。俺自身より、音や気配に敏感なロックの方が、夜闇に見えづらい三日月刃の攻撃を防げることは、昼間に力場魔法を使って実験済みだった。
「わふ!」
ロックが誇らしげに唸る。
「ありがとう、ロック」
そう言った瞬間、夜の烏は身を翻した。夜闇に向かって高速で駆けだす。俺はそれを追いかけた。
昼間、俺はロックと競争をして、気付いた。ロックは動く時に気力を足から発していたのだ。俺も足裏から気力を発する。一歩の大きさと速さは、今までとは比べ物にならない拡大した。
しかし、まだ夜の烏の速さに追いつかない。前を走る夜の烏は、気力を使う走法以上の速さで走っている。
“ニャコ、奴の位置を把握してるか?”
“今度は大丈夫! 今、右に曲がった”
ニャコの念話を元に、俺はT字路を右に曲がった。奴の姿が見える。俺はニャコに、遠視の視点を上空にするように言ったのだ。それまでは接近距離で見ていたが、むしろ離れた方が位置を確認できる。ニャコは確実に、街を逃げる奴の姿を追っていた。
俺は走りながら、懐から銃を取り出した。
「力場照準」
俺はレーザーを自分の背後に合わせた。気力走法に加え、力場魔法を走りに加える。倍化した速度で走る俺は、たちまち夜の烏に迫った。夜の烏は、追いすがる俺の姿を確認している。
「くっ」
夜の烏がまた角を曲がる。だが、それが俺の狙いだ。
「シイファ、今だ!」
その場所へ駆け込んだ俺は、声をあげた。
「力場領域!(フィールド)」
高台にいるシイファが、魔法を発動する。広場に駆けこんだ俺と夜の烏を、見えないシールドが包み込んだ。
「くっ、これは!」
見えない障壁に走りを閉ざされた夜の烏が、声をあげる。
その場所は建物を撤去して更地にした場所であり、周囲は壁に囲まれていた。その場所に、夜の烏を追い込んだのだ。
「夜の烏! ここまでだ!」
俺の声と同時に、周囲に一斉に明りが差す。
「へへ……兄貴、うまく追い込みましたね」
そう言って、松明を掲げるのは、ガモフだ。他のグレート・ガイズの奴らも、松明を掲げたり照明魔法を使っている。
「こ…これは……」
驚く夜の烏に、俺は言ってやった。
「お前は自由に走ってたと思っていたかもしれないが、そうじゃないのさ」
俺の言葉を受けて、ギミーが手にしていたものを見せる。それはT字型の木の棒に、大きな布を下げた『偽物の壁』だ。
「お前は壁を避けて走っていたが、それは偽物の壁で、ここまで誘導されたんだ」
「な…なんだと?」
そう。俺は奴の動きを把握しながら、奴の行先を壁でふさぐように、グレート・ガイズに指示を出す役をニャコに頼んでいたのだ。
「ついでに言っておこう。お前は『三番隊の副隊長が夜の警護で出る』と聴いて、ランダー・カルバートを狙い、詰所から出る者を狙った。だが、その噂話も、俺がガモフたちに頼んだ偽情報だ」
「き……貴様は、誰だ?」
夜の烏が、大きなくちばしを持つマスクを震わせながら問う。俺はそれに答えてやった。
「キィ・ディモン。俺は刑事だ」
「ふ――ふざけるな!」
夜の烏が両手を広げる。
「力場照準」
俺はM360を出して、力場魔法を発動する。レーザーポインターが、俺の背後から飛んでくる三日月刃を、正確に捉えていた。
「闇夜に紛れてなければ、俺でもお前の三日月刃を捉えることができる。諦めろ――鍛冶屋のテオ」
俺の言葉を聞き、ガモフたちが驚きの表情を浮かべる。夜の烏はそれを見て、小さく笑い声をあげた。
「そこまで判っていたのかい。じゃあ…隠してもしょうがないな」
烏のマスクを脱ぎ捨てて現れたのは――鍛冶屋のテオの姿だった。ただし、口髭がない。あれは偽装だった。
「しかし力場なんかで取り囲んで、おれを捕まえたつもりか? お前を殺して、力場が切れた処を皆殺しにすればいいだけの話だぜ。そして、お前には逃げ場がない」




