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6 鍛冶屋に聴きこみしたら

 俺はヴォルガに会いに来ていた。


「なんか、三番隊の地域で、事件に首突っ込んでるって聞いたぜ」


 ヴォルガがニヤつきながら俺に言う。


「ひょんな事でな。それで犯人と遭遇したんだが、唯一の物証を残していった」


 俺は三日月形の刃物を出した。鎌の刃の部分に似ているが、鎌と違うのは三日月の内側ではなく、外側に刃がある事だ。そして何で彩色したかは判らないが、刃全体が黒くなっている。


「こういう刃物なんだ。極めて薄い」


 ヴォルガが刃物をつまんで、眼に対して横にして見る。厚さは1mmもない。


「確かに、こりゃ薄いな」

「しかし、それなりに強度はある。これは非常に特殊な仕事だ。これが造れそうな鍛冶屋を知らないか?」

「そうだな、俺たち警護隊がよく使ってるテオに聴いてみるといい」

「鍛冶屋のテオか」


 俺はヴォルガから情報を得ると、テオの鍛冶屋へと向かった。

 小さいが、剣や盾をはじめとして、様々な金属製品が並ぶテオの鍛冶屋は立派な店だった。


「鍛冶屋のテオだな?」


 茶色の髪に口髭をはやした店主は、愛想のいい笑いを浮かべた。


「へえ、そうですが? 何かご入用で?」

「これを見てほしいんだが」


 俺は三日月刃を取り出した。


「これを作れそうな鍛冶屋を知らないか?」

「知ってるも何も――」


 テオは目を丸くする。


「――こいつは、おれの作ったもんですぜ」


 テオは言った。


「いつ頃の話だ?」

「そうですねえ……一ヶ月前くらいですか」


 夜の烏が動き出した時と重なる。


「どんな奴だったか、覚えてるか?」

「覚えてますよ。フードを被って、目元はマスクで隠してましたけどね」


「マスクを着けていたのか?」

「ああ、冒険者には珍しくないですからね、そういう装飾で強く見せるんですよ。黒くて、眼のとこが赤くなってるマスクでしたね。かなり特殊な注文だったんで、こっちも腕の見せ所でしたけど」


 テオはそう言うと、顔をほころばせた。


   *


 俺はその後に、第三番隊の詰所へと向かった。

 三番隊の詰所は二階建てで、同じ警護隊なのにヴォルガの五番隊詰所より、少し豪奢な造りだった。


「何用ですか、キィ・ディモン?」


 あからさまに不快そうな顔で俺を迎えたのは、隊長のヒュリアルだ。俺はヒュリアルに訊いてみた。


「調べに進展はあったのか?」


 ヒュリアルが俺を睨む。が、俺の立場を考えて口を開いた。


「国内の上級剣士のなかに、怪しい人物はいません。貴族はもちろん、冒険者もです。特に進展があったとは言えませんね」


 この話しぶり。推察すると、こいつはリックから話を聞いていない。多分、リックは自分が夜の烏に殺されそうになったことを、隠しているのだろう。だが、その方が俺には好都合か。


「殺されたザラスは剣士審査の審査官と言っていたな? 直近で審査を行ったのはいつだ?」

「三ヶ月前くらいですが」


 時期が合わない。


「一ヶ月前くらいに、何か審査したことは?」

「一ヶ月前なら……警護隊の入隊審査をしましたが」

「ザラスとリック以外に、審査官はいるのか?」


 ヒュリアルは心なし自慢気な顔を見せる。


「優秀な我が隊にはもう一人、審査官になる者がいます。副隊長のランダー・カルバート、Bランクにして上級剣士、中級魔導士の隊員です」

「その時の審査会の名簿は残っているか?」


 ヒュリアルはあからさまに不機嫌な様子で、机の後ろの棚から紙束を取り出した。俺はそれに眼を通す。


「そうか……」


 俺は独り呟いた。


   *


 リュート・ライアンの家に向かっていると、ロックが駆けてきた。


「わふ! わふ!」


 尾手の人差し指で、必死で家の方を指す。急いで来い、ということらしい。俺はロックと走った。

 家に上がると、床にリュートが倒れていた。


「リュート先生!」


 俺はリュートに駆け寄った。脳溢血などの場合は、動かしてはいけない。――が、この世界には救急車はない。どう対処すべきだ?


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