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4 妹の真実を告白したら

 これからは、独りで――このノワルドで生きていこう。なんとかなるはずだ…多分。

 少し歩いたところで、バタンと激しくドアの開く音がした。


「キィのバカァッ!」


 ニャコの声だ。俺は振り返った。泣きはらした顔で、ニャコが握り拳を作っている。


「誰も出ていけなんて、そんな事言ってないじゃんよ!」

「しかし……」

「勝手なんだよ! バカバカバカッ!」


 ニャコが走ってくる。俺の前までくると、鼻水をすすって、俺を見上げた。ボロボロに泣いている。


「ごめんな…ニャコ」

「本当に……ごめんだよ」


 そう言うと、ニャコは俺の胸に顔を埋めた。

 ふと見ると、ニャコの部屋からシイファが出てきている。一緒にいたらしい。シイファは俺を見ると、苦笑した。


「意外に素直なところもあるのね」


 シイファの言葉に、俺も苦笑した。


   *


 なんだか、変な雰囲気のまま、俺たちはリビングのテーブルについた。ニャコの対角線に俺とシイファが座っている。つまり俺の向かいに、シイファがいた。


「泣いたのは、ニャコがキィに頼まれたことを十分にできなくて――情けなかったから……」


 ニャコがそう、口を開いた。


「やっぱり、キィの言う通り、遊びじゃないって事…ちゃんと判ってなかったよ。キィに怒られても……仕方ないし」

「そんな事ないさ。ただ、俺が焦ってただけだ」


 ニャコは首を振った。


「なんか、この数日、キィに頼まれて事件に関わって――自分が昇天の儀以外で、人の役に立つことができるって…凄く嬉しかったの。けど、その期待に…ちゃんと応えられなかったって」


 ニャコはそう言って俯いた。


「いや……俺の想定が甘くて、ニャコへの指示が足りなかっただけだ。焦ってミスをして――それを認めたくなかったんだ」


 俺の言葉を、二人は真剣な顔で聴いていた。俺は少し深呼吸をした。俺の中で、心の揺れがあるのが判っていた。


「言い訳になるかもしれないが……ほんの少しの時間の遅れが、人の運命を大きく変えることがある。それは、取り返しのつかない事の場合もある――」


 俺は息を吸った。俺の中で、二人に話をしようという意志が沸いてきていた。


「俺の妹――さくらは、リワルドで…殺人犯に殺されたんだ」


 俺の言葉に、二人が息を呑んだ。


「15年前のあの日は……さくらがバレエで遅くなる日で、俺は両親にさくらの迎えを頼まれていた。帰りは夜の9時くらいだが、両親が二人とも迎えに行けなかったんだ。それで俺は、さくらが駅に着く9時に迎えに行くことになった。けど――」


 俺の話を、二人は固唾を呑んで聴いている。俺は話を続けた。


「――俺は自分の勉強に夢中で、気付くとギリギリの時間になっていた。俺は慌てて家を出たが、駅に着いたのは9時5分だった。5分くらいなら、さくらが遅れて到着するかもと思い、しばらく待った。だが、さくらは現れない。俺はさくらがそう言ってたように、一人で家に帰ったんだと思い、戻ることにした。けど、家にはさくらはいなかった」


 あの日、家にさくらがいるだろうと思い、俺は家に帰った。だが、家の灯りはついてなくて、俺は不吉な予感に震えたんだった。


「それから両親が帰宅して、俺はさくらが帰ってないことを告げた。両親はしばらく探したり待ったりした挙句、警察に届けた。それから一週間……さくらは見つからなかった」

「さくらさんは……?」


 シイファが、おそるおそる口を開く。俺は、真実を告げた。


「少し離れた場所にある貸倉庫――鉄でできた大きな箱だ。その中で…死体になって見つかった」


 ニャコが、驚きに眼を開き、口を手で抑える。


「他の女子高生をさらおうとして逮捕された男が、取り調べ中に自白したんだ。倉庫に女子高生を監禁したと。それで発見された時、妹は既に死体だった。――人は五日ほども水を飲まないと、死に至るらしい。さくらは、脱水症で死んでいた」

「そんな……」


「苦しかったらしく、妹は手で、鉄の壁を殴っていたらしい。発見されたとき、さくらの手は打撲で鬱血して、右手の小指は折れていた……。両親は号泣して――呆然としていた。俺は……妹が死んだのは、自分が待ち合わせ時間に五分遅れたせいだと判った」


 あの日、あの時――もう少しだけ早く出ていれば…きっと違う運命があったに違いない。


「犯人はさくらを拉致した後、暴行し、恐くなって倉庫に監禁して放置したんだ……。立派な殺人罪だ。だが弁護側は殺す意図はなかったと傷害致死にしようとした。だが結局、死は予見できるものとして殺人罪が適応された」


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