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10 冷徹隊長に睨まれたら

「そのつもりがあるのは結構だ。これで被害者は四人目だ、何か判ったことでもあるのか?」


 俺がそう言うと、ヒュリアルはふと怪訝な顔を見せた。


「四人目? 何を言っている?」

「俺が冒険者たちに聴いた話では、これまでに下級、中級、上級剣士の三人が『夜の烏』によって闇斬りにあっている」


 ヒュリアルは、リックの方を見る。リックは黙って頷いた。


「警護隊で、今までの事件を把握してなかったのか?」


 俺の驚きの声に、ヒュリアルは皮肉そうな笑みを浮かべた。


「君は誤解してるようだが――王都警護隊は、平民の事件には関わらない」

「じゃあ、平民や冒険者が殺された事件は、誰が捜査するんだ?」


「捜査? そもそもそんな事が行われているのかどうか――。まあ、事件があったら、平民たちが作ってる自警団か、遺族あたりが調査をするかもしれんがな」

「王都警護隊は、王都の治安を守るのが責務じゃないのか?」


 俺の言葉を、ヒュリアルは鼻で笑った。


「我々が守るのは、王家の所有である王都だ。つまり我々は王家を守るための存在だ。王家にあだなす者から王家と王都を守るのが、我々の仕事だ。王家に配属している貴族のなかに事件があれば我々が出向くこともあるが――平民の事件に関わることはない」


 ヒュリアルに続いて、傍にいたリックが声をあげた。


「この事件はザラスが斬られたから、我々が出向いたまでだ。警護隊に逆らう事は、王家に敵対するという事だ。――必ず、犯人に思知らせてやる!」


 リックは歯ぎしりをした。

 警官殺しの事件で、警察が躍起になるのと同じ感情か。まあ気持ちは判るが――しかし平民は殺されても、誰もその事件を捜査しないという事だけはよく判った。


「しかし、今までの事件を把握せずに、どうやってこの犯人を特定するつもりだ?」


 俺の問いに、ヒュリアルが冷静な顔で答えた。


「ザラスはBランク戦闘力の、上級剣士にして下級霊道士だ。遺体に魔法や霊術を使われた形跡はない。つまり純粋な剣技だけで殺されている。間違いなく上級剣士の仕業だが、ヒュリアルは剣士審査官でもあり並みの腕ではない。上級剣士の中でも相当の遣い手だ」


 ヒュリアルは俺を見ながら、さらに話を続けた。


「この国には36人の上級剣士がいる。残りの35人のうち、貴族が20名、平民が15名。貴族はほぼ身元が割れていて、後は冒険者。35名の上級剣士の実力は把握している。これを全員、調べ直すつもりではあるが――」


 ヒュリアルはそう言うと、俺を睨んだ。


「この中に犯人がいるとは、私は思ってない。怪しいのは――最近になって入国して来た他国人だ。つまり、キィ・ディモン。お前は最も疑わしい存在だ」


 ヒュリアルの冷徹な眼が、俺に向けられる。


「どうやって王子に取り入ったかは知らんが、あまり調子に乗らぬことだな。いずれその化けの皮を剥いでやろう」


 敵意剥き出しの顔で、ヒュリアルはそう言い放った。その顔に向けて、俺は言ってやった。


「確かに客観的な眼で見れば、悪くない読みだ。ただ、俺は犯人じゃないがな」


 ヒュリアルは黙して語らない。その傍にいたリックが声をあげた。


「我々は夜の警戒をさらに強化する。勇気があるなら挑んで来ればいい、オレが返り討ちにしてやる」

「……あんたの剣士の階級は?」

「オレは上級剣士だ。ザラスとともに、審査官もやっていた」


 なるほど、狙われうる立場だ。


「そうか。せいぜい気を付けてくれ。ところで、俺も遺体を見せてもらうが?」


 ヒュリアルは冷たい表情で、俺に言った。


「勝手にするがいい。だが、剣技で殺された事は間違いのない事実だ。首に一太刀、そして袈裟に一太刀を喰らっている。致命傷になったのは首の傷で、ここを切られた事で大量の出血をした。ザラスは夜の巡回中に襲われた。充分に警戒していたにも関わらず、細かい傷はなく、長い戦闘をした様子はない。相当の腕だ」


 いい読みだ。こいつは刑事をさせたいくらいだ。俺はそう思いながら、遺体を見つめた。

首の傷は深く、ほぼ頸骨に達していた。この傷は間違いなく、頸動脈を切っただろう。ヒュリアルの言う通り、死因はこの傷による大量出血と見て言い。袈裟に斬られた傷は長く、そして深い。表面の皮膚を切って、右肺にまで達していた。


「なるほど……充分だ」


 俺はそう言うと、遺体から離れた。


「判った事でもあったかね?」

「ああ。……少しな」


 俺はそう言うと、ヒュリアルたちに背を向けた。見なくても判る。奴らは俺を凝視している。

 その視線を感じながら、俺はその場を後にした。


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