8 髭から階級の話を聞いたら
「そう言うけど、兄貴。これでも辺境の村のモンスター退治とか行くと、頼りにされるんすよ。普通の奴はノーランクですからね」
「……なるほど。基準が判りにくいな。どういう基準で戦闘力をはかってるんだ?」
「一応、軍隊のランクが基準なんですよ」
ガモフは真面目な顔で口を開いた。
「王家の所持する十三師団は、各師団が1000人くらいです。その師団をまとめる団長は、例外なくAランクです。その下の大隊が200人クラスで、大隊長はBランク。その下の中隊は50人で、中隊長はCランク。小隊は10人で、小隊長はDランク。班長は5人をまとめてEランクです」
「なるほど。お前は、小隊長クラスの実力はある、っていう事だな」
「いやあ、それほどでも」
ガモフが照れる。少しも可愛くないが。
「実は俺、軍隊にいたんですよ」
「軍隊を辞めたのか? どうしてだ?」
「いやあ、寄宿生活だし、辺境警備に行かされるし、訓練キツいしで……。だったら自由にできる冒険者の方がいいかなって」
「軍隊と王都警護隊は別物なんだな?」
「王家の軍隊は王家の所領全部を守るものですが、その中でも王宮のある王都を守るのが王都警護隊です。王都警護隊は生え抜きで、Cランク以上の者しか入隊できません」
なるほど。――ん? ということは、あのトッポとマルコも、Cランク。つまり生え抜きって事か。…もうちょっと敬ってやるかな。
「警護隊の隊長は、Aランクなのか?」
「当然です! 総隊長のロイナート・ストラグル様はSランクです! しかもこの国に二人しかいないと言われる、特級剣士です」
ロイナート……あの金髪ストレートはそんなに凄い奴だったのか。道理で雰囲気が違うわけだ。
「二人……もう一人は誰なんだ?」
俺の問いに、ギミーが答える。
「もう一人は、もはや実在してないかもです。なにせ伝説の剣士、リュート・ライアンですから」
……そうなのか。先生は、まさに剣聖なわけだな。
「しかし、闇斬りの件は物騒だな。犯人のめぼしはついてないのか?」
「めぼしも何も、自警団が巡回して警戒を呼びかける以外に手はないですからね。けど目撃から、仇名はついてます。『夜の烏』です」
「夜の烏……」
俺はその言葉を口にした。
*
朝食を食べながら、俺は昨夜の顛末をニャコとシイファに話した。
「――という訳で、ガモフたちも『夜の烏』事件にブルっていて、見知らぬ奴を警戒していた。そこに俺と出くわしたわけだ」
ニャコが苺ジャムトーストを頬張りながら、言った。
「けどなんか、夜の烏ってヘンだね」
「どこが?」
「だって、真っ暗と真っ黒で、何も見えないじゃん!」
ニャコの答えに、シイファは眼を丸くする。俺はさらに話を添えてやった。
「実際、そうだった事からついた仇名のようだ。目撃は一瞬で、しかも完全に黒い衣装だったらしい。最初の事件が一ヶ月前。次がその二週間後で、その次が十日後、そして五日後と続いている」
「段々、間隔が狭まってきているのね」
シイファの鋭い指摘に、俺は答えてやった。
「犯人が自信をつけている証拠だ。昨日で最後の事件から五日経つ。もう犯人が動いてもおかしくない。ガモフたちに、犯人を捕まえてくれないかと懇願されたので、進展があったら情報をよこすように言っておいた」
俺がそう口にした瞬間、隣室の礼拝堂の方から声がした。
「ニャコ・ミリアム! 巫女のニャコ・ミリアムはいるか!」
「あれ、呼ばれてる?」
ニャコはそう言いながら席を立つ。声のただならぬ気配に、俺とシイファも立ち上がって後についた。
礼拝堂にいたのは、王都警護隊の隊服を着た長身の男だった。ニャコを見て、口を開く。
「巫女のニャコ・ミリアムか?」
「そうだよ」
「王都警護隊三番隊のリック・メルヒャだ。一緒に来てもらいたい」
「どうしたの?」
男は厳しい顔でニャコに言った。
「闇斬りが出た。冒険者たちからは『夜の烏』と呼ばれてるらしい。しかし……斬られたのは、我が隊員だ」
ニャコが振り返って、俺の顔を見た。
*
巫女の助手、という体で俺はニャコについていった。シイファは教育係の仕事があるから、と言ってついてはこなかった。
男に連れられて行ったのは、王都の今まで足を踏み入れたことのない地域だった。どうやらその辺が、三番隊のエリアらしかった。そのエリアの教会に、隊服を着た男の遺体が寝かされている。その傍に、一人の男が立っていた。




