7 夜の店で乱闘したら
こいつも俺の腕を抱えてる。気力を重さに乗せて相手に預けるのが重要なら、掌でなくてもいいんじゃないか? 俺は肘の先から気力を発した。
「げぅっ!」
いきなり、太っちょの身体が床に落ちる。つまり、気力を発する場所は何処でも構わない。俺は腰にしがみついてる細目に、少し膝を落として腰から気力を与えてやった。
「むぐっ!」
細眼が床に落ちた。後は正面に立つ髭だ。
「お、お前、何しやがった?」
髭が慄きながら、俺の顔を見る。俺は近くのテーブルに置いてある、使ってない大き目のスプーンを手に取った。髭に近づく。
「な、なんだってんだ……」
俺はつまんだスプーンを、髭のぶ厚い胸にちょんと乗せた。
俺は静かに呼吸をした。そこから一気に気力を乗せる。
「ぐはぁっっ!!」
髭が吹っ飛んで、後ろのテーブルをひっくり返した。
できた。俺にも、武器を通して気力を加えることができた。確信があった。これをやれば、鉄塊であの岩を鳴らせるに違いない。
その確信がもてた俺は、上機嫌になって笑みを洩らした。
店にいた連中は、驚いた様子で俺を見ている。俺は髭を見た。
「お前たちのおかげでコツを掴んだ。礼を言わせてもらうぞ」
俺はへたり込んでいる髭に近づいた。
「おい」
「ヒッ、ヒィッ!」
ビビる髭に、俺は手を差し出した。
「ありがとう。お前らのおかげで、大事なことが判った。一杯、奢らせてくれ」
「え? えぇ?」
困惑する髭に、俺は笑いかけてやった。
*
その後は、キャシーがぷんぷん怒って、俺がどう関わったかを髭の一味に説明した。
「――というわけで、ディモンさんは、わたしの恩人なのよ!」
「す、すいません兄貴、そうとも知らず……」
髭が俺にそう謝る。いきなり兄貴扱いか。
「いや、最近、怪しい事件が起こっていて、それで見知らぬ奴を警戒してたんですよ」
そう言ったのは――なんか、見覚えのない顔だ。
「…こんな奴、いたか?」
「あ~! また、オレのこと忘れられてる! く~」
その特徴のない奴は、そう言って悔しがる。どうやら俺を殴る連中にいたらしいが――悪いが、まったく印象にない。
「それはそうと、怪しい事件とは何だ?」
「闇斬りが立て続けに起きてるんですよ」
髭が俺にそう言った。闇斬りって――闇討ちと辻斬りの組み合わせみたいなものか?
「斬られてるのは剣士ばかりで、最初がDランクの剣士、それからCランクの剣士が二人斬られたばかりなんです」
「ちょっと待て。Dランクとか言ったが、それは上級とか下級とは別なのか?」
「そうですよ、兄貴ぃ」
出っ歯が訳知り顔で口を出す。
「上・中・下の階級は剣士や魔導士に、特化した階級です。けどランクは総合的な戦闘力ですから、剣術と魔法とか、体術と霊術とかを組み合わせた総合的な実力が測られるんです」
「Dランクの剣士ってのは、どれくらいの実力なんだ?」
「最初に斬られたのは、下級剣士でDランクの冒険者です。それで、二番目の被害者はCランクの中級剣士。この前斬られたのは、上級剣士で下級魔導士の、総合Cランクの冒険者です」
段々、被害者の格が上がっている。俺は別の疑問が沸いた。
「……冒険者ってのは何だ? 未知の極地を冒険したりするのか?」
「嫌だなあ。冒険者と言えば、モンスターを退治して魔石や霊骨を収集したりして、クエストを完了させたりする仕事でしょ。かくいうオレたちも、冒険者のパーティーです!」
「……お前たちが?」
俺が疑惑を投げると、髭に倣って五人が立ち上がり名乗りを上げった。
「俺はリーダー、ガモフ!」髭だ。
「おれは、ギミーです!」出っ歯。
「オリは、グロッサー」細目。
「オレはゲレス」特徴のない奴。
「おらぁ、ゴルアだ」太っちょ。そして五人で声を揃える。
「俺たちは、『グレート・ガイズ』!」
……ああ、そう。自分でグレートを名乗るってのも微妙だが。席から立ってポーズ決める五人に、俺は声をかけた。
「まあ、いいから座れ。ガモフ、お前は何ランクなんだ?」
「俺はDランクで、他の奴はEランクです!」
最下層パーティーじゃないか。俺は呆れてガモフに言った。
「お前、よくそれで喧嘩を売る気になったな」




