表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/143

7 夜の店で乱闘したら

 こいつも俺の腕を抱えてる。気力を重さに乗せて相手に預けるのが重要なら、掌でなくてもいいんじゃないか? 俺は肘の先から気力を発した。


「げぅっ!」


 いきなり、太っちょの身体が床に落ちる。つまり、気力を発する場所は何処でも構わない。俺は腰にしがみついてる細目に、少し膝を落として腰から気力を与えてやった。


「むぐっ!」


 細眼が床に落ちた。後は正面に立つ髭だ。


「お、お前、何しやがった?」


 髭が慄きながら、俺の顔を見る。俺は近くのテーブルに置いてある、使ってない大き目のスプーンを手に取った。髭に近づく。


「な、なんだってんだ……」


 俺はつまんだスプーンを、髭のぶ厚い胸にちょんと乗せた。

 俺は静かに呼吸をした。そこから一気に気力を乗せる。


「ぐはぁっっ!!」


 髭が吹っ飛んで、後ろのテーブルをひっくり返した。

 できた。俺にも、武器を通して気力を加えることができた。確信があった。これをやれば、鉄塊であの岩を鳴らせるに違いない。


 その確信がもてた俺は、上機嫌になって笑みを洩らした。

 店にいた連中は、驚いた様子で俺を見ている。俺は髭を見た。


「お前たちのおかげでコツを掴んだ。礼を言わせてもらうぞ」


 俺はへたり込んでいる髭に近づいた。


「おい」

「ヒッ、ヒィッ!」


 ビビる髭に、俺は手を差し出した。


「ありがとう。お前らのおかげで、大事なことが判った。一杯、奢らせてくれ」

「え? えぇ?」


 困惑する髭に、俺は笑いかけてやった。


   *


 その後は、キャシーがぷんぷん怒って、俺がどう関わったかを髭の一味に説明した。


「――というわけで、ディモンさんは、わたしの恩人なのよ!」

「す、すいません兄貴、そうとも知らず……」


 髭が俺にそう謝る。いきなり兄貴扱いか。


「いや、最近、怪しい事件が起こっていて、それで見知らぬ奴を警戒してたんですよ」


 そう言ったのは――なんか、見覚えのない顔だ。


「…こんな奴、いたか?」

「あ~! また、オレのこと忘れられてる! く~」


 その特徴のない奴は、そう言って悔しがる。どうやら俺を殴る連中にいたらしいが――悪いが、まったく印象にない。


「それはそうと、怪しい事件とは何だ?」

「闇斬りが立て続けに起きてるんですよ」


 髭が俺にそう言った。闇斬りって――闇討ちと辻斬りの組み合わせみたいなものか?


「斬られてるのは剣士ばかりで、最初がDランクの剣士、それからCランクの剣士が二人斬られたばかりなんです」

「ちょっと待て。Dランクとか言ったが、それは上級とか下級とは別なのか?」

「そうですよ、兄貴ぃ」


 出っ歯が訳知り顔で口を出す。


「上・中・下の階級は剣士や魔導士に、特化した階級です。けどランクは総合的な戦闘力ですから、剣術と魔法とか、体術と霊術とかを組み合わせた総合的な実力が測られるんです」

「Dランクの剣士ってのは、どれくらいの実力なんだ?」


「最初に斬られたのは、下級剣士でDランクの冒険者です。それで、二番目の被害者はCランクの中級剣士。この前斬られたのは、上級剣士で下級魔導士の、総合Cランクの冒険者です」


 段々、被害者の格が上がっている。俺は別の疑問が沸いた。


「……冒険者ってのは何だ? 未知の極地を冒険したりするのか?」

「嫌だなあ。冒険者と言えば、モンスターを退治して魔石や霊骨を収集したりして、クエストを完了させたりする仕事でしょ。かくいうオレたちも、冒険者のパーティーです!」

「……お前たちが?」


 俺が疑惑を投げると、髭に倣って五人が立ち上がり名乗りを上げった。


「俺はリーダー、ガモフ!」髭だ。

「おれは、ギミーです!」出っ歯。

「オリは、グロッサー」細目。

「オレはゲレス」特徴のない奴。

「おらぁ、ゴルアだ」太っちょ。そして五人で声を揃える。

「俺たちは、『グレート・ガイズ』!」


 ……ああ、そう。自分でグレートを名乗るってのも微妙だが。席から立ってポーズ決める五人に、俺は声をかけた。


「まあ、いいから座れ。ガモフ、お前は何ランクなんだ?」

「俺はDランクで、他の奴はEランクです!」


 最下層パーティーじゃないか。俺は呆れてガモフに言った。


「お前、よくそれで喧嘩を売る気になったな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ