4 思いがけず戦闘したら
俺の方の武器は――着てた服がそのままなら、携帯してるはず。
俺は左腰から警棒を取り出した。アルミ製の警棒を、三段階に引き伸ばした。
「な、なんだその武器は!」
「特殊警棒65型だ」
「くそ、やる気だな!」
細い奴は打ちかかって来る。俺はその一撃を警棒で受けた。
が、次の瞬間、俺は思わぬ衝撃に沈み込んだ。
「なにっ?」
重い一撃だった。見た感じからしょぼい攻撃と思って受けたが、驚くような重さのある衝撃だった。受けるのはまずい。片手で持つ警棒では、耐えられない。
俺は相手の攻撃を躱すと、間合いに入り込んで、奴の右小手を打ち込んだ。
細い奴が、驚いた顔をしている。が、次の瞬間、不思議そうな顔をした。
「なんだ――そりゃ?」
俺は、打った相手の堅さに驚いていた。細い奴はまったく俺の打ち込みが効いた様子がなく、棒を横振りにして俺の胴に打ち込んだ。
「――ぐはぁっ!」
俺の身体が吹っ飛ぶ。俺は地面を三回転して、止まった。
「なんだ、こいつ! 全然、気力の使えない奴だ! 動きは素早いが、大したことない」
「トッポ、やっちまえ!」
細い奴は、丸いのに向けて声を上げ、丸い奴が応える。
気力、だと? なんだ、それは。あの重さや、堅さの元か。
俺は立ち上がって、警棒を構え突進した。
トッポと呼ばれた細い奴が、俺を迎撃しようと棒を振る。だが俺はそれを躱し、トッポの肩に打ち込む。奴は怯んだ顔をしたが、痛くないことを悟り、再び反撃してくる。俺は躱しては打ち、躱しては打ち込んだが、奴に効いてる素振りはない。
そのうちに、奴の突き込んだ棒が、俺の鳩尾に当たった。
「ぐふっ――」
大きな衝撃とともに、俺は後方へ吹っ飛ぶ。ニャコの悲鳴のような声があがった。
「キィ、もういいよ! 戦わないで!」
「俺は……刑事だ――」
俺は立ち上がりながら、口の端から流れる血を拭いた。
「俺の目の前で…誰も傷つけさせない」
「キィ……」
俺は警棒を腰のホルダーにしまい、スーツの内側を探った。やはり、携帯している。
「オオォッ!」
俺は気勢を上げると、奴に突進した。奴が棒で迎撃するのを躱し、俺は至近距離まで奴に迫った。
「…これなら、どうだ」
俺は奴の胴体部に向けて、取り出した拳銃を撃った。
轟音が響き、奴の身体が吹っ飛ぶ。
「ぐあっ! ぐ…な、なんだこの衝撃は――」
奴の呻き声とともに、弾丸が床に落ちる。弾丸は体内に撃ち込まれなかったらしい、だが、ボディブローを入れたくらいの衝撃は受けたようだ。
「それで充分だ」
俺は腹を抑えてる奴に迫ると、取り出した手錠を奴の右手にかけた。そしてもう一方の輪を、足首にかける。
「な! なんだこれ!」
トッポと呼ばれた奴が、慌てて身体を起こそうとするが、自分の手と足が引っかかって転ぶ。
「うわぁ、助けてくれ、マルコ!」
トッポが丸い奴に助けを求める。マルコと呼ばれた丸い奴は、俺に向かって電撃弾を発射した。
「くっ」
俺は横に跳んで躱しながら、回転して爆発の衝撃を逃がす。あの魔法って奴は、防御のしようがない。
不意に俺の眼の前に、シイファと呼ばれた水色の髪の少女が倒れているのに気づいた。シイファは上半身を起こして、俺に言った。
「キィ…これ着けて……」
シイファは指から赤い結晶の指輪を抜くと、俺に差し出した。
「なんだ、これは?」
「一番単純な…火球の魔法が使える」
「俺に――魔法が使えるのか?」
「判らないけど…やってみて……」
俺は苦し気なシイファから指輪を受け取ると、右手の小指にはめた。その瞬間、俺の中の何かが指輪に流れていく。
「なんだあ? おれっちと魔法勝負しようってのか?」
マルコが迫って来る。俺は立ち上がって、右拳を突き出し、左手でそれを支えた。俺の姿を見て、マルコがにやりと笑う。
「電撃弾を喰らえ!」
マルコの放った電撃弾が、俺に向かって飛来してくる。
俺は指輪に意識を集中させ、光弾を睨んだ。




