10 少女たちに風呂を炊いたら
「そうか。…それと、もう一つ言っておくことがある。――チェリーナとアビーを殺したのは、花屋のダグだ。だが、他の三人を殺したのは、別の犯人だ」
「えっ!」
今度はシイファも驚きの顔を見せた。
「あとの三人は殺害方法も別だ。そしてそれは――俺が殺された方法に酷似している」
「え? 似てるってこと?」
ニャコが疑問を口にする。しかしシイファは、深刻な顔で言った。
「それってつまり……残りの三人を殺した犯人は、キィを殺した犯人と同一人物――って事よね」
「えーっ!!」
ニャコが声をあげた。俺は口を開く。
「多分、そうだ。だが……今は、その眼玉以外に手掛かりはない。シイファ、それを知ってそうな人物はいないか?」
「……これが魔法具だとして…詳しい人物……」
シイファが思案気な顔で黙る。まだ何の確証もない、雲をつかむような話だ。俺もそれ以上、言う言葉を失った。
と、ニャコが口を開く。
「よし! こんな時は、まずご飯だよ! もう、お腹ペコペコだ!」
俺とシイファは、眼を見合わせた。と、二人して噴き出す。
「ま、そうだな。ニャコの言う通りだ、何か作ろう」
「そうね……。お腹空いたわ」
シイファの微笑みを見ながら、俺はキッチンに立った。
まずお湯を沸かしながら、ナスを切って水につける。刻んだベーコンとたまねぎ、ガーリックを炒めて、トマトをつぶす。ナスを炒めたフライパンに入れ、それが柔らかくなったところでトマトを入れる。お湯にパスタを入れ、塩を少しだけ入れる。パスタが茹で上がったら湯きりをして、塩コショウで味を調えたソースをかける。ナスとベーコンのトマトソースパスタだ。
「美味しい~」
ニャコが幸せそうな顔を浮かべる。よかった、作り甲斐のある顔だ。食事がすむと、不意にシイファが口を開いた。
「……お風呂に入りたいわ」
「風呂? 風呂があるのか、この教会?」
「あるよ~。あんまり使ってないけど」
ニャコが案内するのについていくと、確かにタイル張りの風呂がある。シイファが言った。
「あたし、家では毎日お風呂に入ってたんだけど」
「だって~、薪を割るのも燃やすのも大変なんだもん」
じ~、と、二人が俺を見る。
「……なにか? それは俺に、風呂を炊けと?」
「いいじゃあん、キィ。ねえ、お願い!」
ニャコが手を合わせると、シイファは横目で俺を見た。
「まあ、ただでこの教会に住んでるんだし」
「お前もだろ」
こいつら…。まあ、しかし薪の風呂か。俺も入りたい。
「…判った。じゃあ、風呂を炊くか」
「やったー! シイちゃん、一緒に入ろうよお」
「別に一緒じゃなくてもいいでしょ? ゆっくり入りたいんだけど?」
「え~、いいじゃあん」
そんなこんなで、俺は外に廻って薪をくべる。湯加減を見てから、ちょうどいいところで二人を呼んだ。
浴室は曇りガラスが張っており、そこから漏れる声で、結局二人一緒に入ったと判る。俺は外から声をあげた。
「大丈夫か、ぬるくないか?」
「ちょうどいいよー」
ニャコの声がした。と、突然、曇りガラスの窓が開いた。ニャコが顔を出す。胸元までギリギリだ。
「ねえ、キィ、シイちゃんってばねー、おっぱいが昔と変わんない」
おい、何を言い出してる?
「ちょっと! あんた、なに言ってるの!」
後ろからシイファが手を出して、ニャコの顔を引っ込めさせた。
「だってさあ、ちょっと感動したんだもん」
「変な理由で、あたしの胸に感動しないでよ!」
顔を出そうとするニャコを、シイファが引っ込める。シイファがバタンと曇りガラスを閉めた。何か、ニャコに怒ってる声がする。まあ、そりゃそうだろう。
しばらくすると、おとなしくなった。どうやらニャコは先にあがったらしい。と、ふと窓が開いて、シイファが顔を出した。
「……ねえ」
「なんだ、ぬるくなったか?」
シイファは首を振って、熱かったのか、赤くなった襟首を向けた。
「キィは胸が大きい女性の方が、魅力的だと思う?」
「――いや、別にあまりこだわらんが」
俺がそう答えると、シイファは何も言わずに窓をピシャンと閉めた。……なんなんだ。
異世界へ来て、少女二人の風呂焚きね……俺は何をやってるんだか。だがまあ、こんな平和も悪くはないかもしれない。




