9 双子を逮捕したら
「もしかしたらだけど……」
シイファは考えながら、言葉を紡いでいった。
「この子たちの霊力も魔力も、高すぎた……。二人とも上級近くの力を持ってた。けど、それだけの力を持ってるなら、全然、別の仕事をしてるはず。もしかしたら、その眼玉は持ち主を操っただけじゃなく、その能力も高めたのかもしれない」
さすがシイファだ。事態の飲み込みが早い上に、そこからより深い洞察を進めてる。
「鋭い見通しだな、シイファ。いい刑事になれるぞ」
「なに、それ?」
「いや、それはいいとして……この事はまだ伏せておいた方がいい。これを誘導した何者かが――何処にいるのか判らない以上な」
俺の言葉に、シイファは真剣な眼差しを返して頷いた。
俺は念話でニャコに話しかける。
“ニャコ、今どこにいる?”
“こっちの鎖が全然動かなくなったから、そっちに向かってる。ネリーダも一緒”
ほどなくして、部屋にニャコとネリーダが現れた。
「ネリーダ、リストレイナーを二人につけてくれ」
「あ……はい」
状況に驚いたネリーダだったが、すぐに二人の首にリストレイナーを嵌めた。
「ニャコ、二人の治癒を頼む。――ほどほどにな」
「うん、まかしといて」
命に別状がないほどに回復したところで、俺は二人に訊いた。
「密閉した場所で炭を燃やしてヴェルガノを弱らせる作戦は、どっちが考えたんだ?」
「さあ? エイミーじゃない?」
「え~、ネイミーだったでしょ?」
「そうかなあ、そうだったかも」
「まあ、どっちでもいいじゃない。ねえ」
二人の少女はそう言って微笑みあう。
やはり、そうだ。彼女たちは、犯行の計画を自分で考えてはいない。誰かが――この双子を唆して、犯行をさせた。
ふと見ると、シイファが厳しい顔で俺を見ている。俺は小さく頷いた。
*
しばらくして、メサキドがやってきた。メサキドは紫の巻き毛をかき上げて、俺に言った。
「フフ…キィ・ディモン。やるじゃないか、ヴェルガノ殺しの犯人を捕らえるとは」
「やったのは俺じゃない、シイファだ。それは別として、あんたに頼みたいことがあるんだが」
「なんだ?」
不思議そうな顔をしているメサキドに、俺は言った。
「このヴェルガノ殺しの犯人逮捕は、第一番隊の手柄ということにしてほしいんだが」
「……なんだってっ?」
メサキドが驚愕の声をあげる。
「そして俺が特別捜査官になったことも、あんたと――此処にいるネリーダだけの極秘情報にしてほしい。頼めるだろうか?」
「どうして、そんな事を頼む? 手柄も任官も名誉な話だろうが」
「この先の捜査を進めるのに、俺は目立たないほうがいい。ある意味、俺は危険を避ける態度だが……それを許してもらえるか?」
俺の言葉を聞くと、メサキドは少し考えたあとに、興奮した顔で俺の手を握った。
「判った! 君のその志、ボクも協力させてもらおう! うむ、この犯人は我が第一番隊での逮捕ということにしておこう。なに、我々は正面から危険を引き受ける立場だ、案ずることはない!」
メサキドはそう言うと、俺の手を握ったままブンブン振って笑い声を上げた。……こいつは、そんなに悪い奴じゃない。俺は手を放すと、シイファに言った。
「という訳でシイファ、王子には特別捜査官は秘密裏に行動すると伝えてくれ。そして、事件は一番隊の活躍で解決したと」
「……はいはい、判りました」
シイファは軽く苦笑を洩らして、そう答えた。
*
事件の事後処理を済ませて教会に帰ったのは、夜が明けてもう昼近くだった。
「ふぅ~、疲れたね~」
ニャコが椅子に腰かけて、ぐったりと身体を預ける。俺はシイファも座ったところで、口を開いた。
「二人に話しておきたいことがあるんだが」
「なに?」
ニャコは無邪気な目で見ているが、シイファは察したようだった。俺は双子の腕に、あの眼玉があったことを話した。シイファが、凍結させた眼玉をテーブルの上に出す。
「うぇっ、気持ちわる」
「もう凍結じゃなくて、凝固魔法で固定したから、これ以上型崩れすることはないわ」




