6 凍結弾を使ったら
教会へ戻ってくると、ニャコがシイファに紙箱を差し出した。
「魔道具屋のゾーイさんが持ってきたよ。シイちゃんにって」
「あ、ありがとう――これは、キィの」
箱を俺に向かって差し出す。何かと思いながら開けてみると、俺の拳銃M360サクラだ。
「職人に頼んで魔晶石を埋め込んでもらったの。五つのうちの一つに、火球より威力を小さくして弾速を早めた『火炎弾』の魔法が入ってる。ついでに柄のところにもう一つ、魔動障壁の魔法入りの魔晶石を嵌めてもらった。キィには、まだ使えないかもだけど」
「ありがとう、シイファ」
俺は少し変わった姿になったM360を眺めた。これが俺にとっての魔法杖となる。俺は少し考えて、シイファに言った。
「シイファ、夜には王子暗殺を犯人を捕まえに行く。それまでに、もう一つ、撃った対象を凍結させるような魔法を入れることはできるか?」
「急な話ね。――ま、できなくもないけど。けど、使うにはキィも、魔法原理の理解が必要よ。火球は燃焼だから、大体の人がイメージできる。けど、その他の魔法はそれなりに原理を理解してないと、法式が入ってる魔晶石だけでは十分に扱えないわ」
シイファが説明をしてると、ニャコが眼の色を変えて割り込んできた。
「ね、ね、王子暗殺ってなに! また大事件なの?」
ニャコは鼻を膨らませて、勢い込んでいる。
「ニャコも混ぜてよ~」
「おい、遊びに行くんじゃないんだぞ。まあ、ニャコにも応援を頼もうと思ってけどな」
「任せて! なにせニャコは、特級巫女だからね!」
V!――はいいが、大丈夫か、こいつ。俺はニャコに訊ねた。
「霊力を使って、念動力と遠視を一緒に使うことはできるか?」
「ううん、ちょっと無理だね。念話くらいならともかく、念動力も遠視も霊力を凄く使う技だから、一緒に使うのは難しい」
「なるほど……だとすると、やはり凍結魔法が必要だな」
「どうしてそうなるのかは判らないけど……。じゃあ、あたしが法式刻印してる間に――キィはこれで勉強してて」
シイファが一冊の本を出す。
「なんだこれは?」
「魔法原理の初等教科書。凍結魔法と障壁魔法は、力場発生の原理と関わってるから、よく読んで」
マジか……。
「ねえねえ、ニャコは? ニャコは何してたらいい?」
「お前はメシ喰って寝て、英気を養っておけ」
「判った! ニャコ、頑張る!」
頑張ってくれ。…あとでな。
*
俺たちは所定の位置について待ち伏せをした。周囲は全くの暗闇だ。敵は王子が寝静まってからくる。数時間が経った。
“キィ、敵が来た”
霊力で、敵霊力の索敵をしていたニャコの念話が響く。俺は気配を潜めて、敵の出現を待つ。
煙突の中を通って来る金属音がする。俺は待った。
薪ストーブの扉が開き、小さな光源が見える。部屋の中を照らしているが、ベッドの位置を見つけると、光源が一気に急接近してきた。俺は潜んでいたベッドの下から這い出て、凍結弾を撃ち込む。
「凍結弾!」
襲いかかってきたものが、空中で凍結して床に落ちる。その時、控えてたニャコが照明をつけた。
床に落ちてたのは、太目の鎖だった。
先端に蛇のような口のある頭部を持ち、その頭に小さな照明具がついている。蛇のような鎖は意外に長く、とぐろを巻いている。と、もう一本の鎖が薪ストーブの入り口から飛び出てきた。
「氷結!」
予想外の動きだったが、シイファが氷結魔法で止めてくれた。
「ニャコ、遠視の視点を妨害してくれ」
「判った!」
ニャコが何か念じている。急に二本の鎖は、目的を見失ったように、うろうろとし始めた。
「ニャコはここで視点妨害をしててくれ。代役の警護も頼む」
「自分の身くらい、自分で守れます」
王子の代役を務めてくれた、一番隊の女性隊員、ネリーダが厳しい表情でそう口にした。ショートカットなのが、少年っぽい。
「しかし……これは一体?」
「霊術士が遠視をし、霊鏡にその様子を写す。もう一人、魔導士か霊術士が、鎖を操作する。チームによる犯行だ。しかしそれだけではヴェルガノほどの凄腕は、殺せない」
「じゃあ、どうやって?」
ネリーダの問いに、俺は答えてやった。




