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3 一番隊隊長に会ってみたら

「ヴェルガノってのはもしや、王子の傍にいた二人のうちの一人か?」

「そうよ。ヴェルガノ・ゴーグ、とても優秀な霊式魔導士。それが今朝、遺体になって発見されたの」

「……状況を話せ」


 現場を見る前に概要を頭の中に入れておく。捜査の基本だ。


「王子の寝室の両隣に、ヴェルガノともう一人の護衛役、アリアン・スレイの控室があるの。ヴェルガノはその寝室で、首を吊って死んでいるのが見つかった」

「首を吊ったか…何で吊った?」

「自分のバスローブの紐みたい」

「それなら普通、自殺だろう。何故、お前はそんなに気色ばんでいるんだ?」


 俺の問いに、シイファは声を上げた。


「ヴェルガノは絶対に自殺なんかしない!」


 シイファは唇を噛む。


「……ヴェルガノは真面目すぎるくらい役目に忠実で、真にレムルス王子のことを第一に考えてる人だった。王子に近づくあたしの事も、常に警戒して注意を怠らなかった。全然、信用なんかされてなかった……。けど、それでよかったの。ヴェルガノは…そういう人だから、信用が出来た。王子もヴェルガノを信用してた――だから、ヴェルガノが王子の信用を裏切るはずがないの」 


 シイファは確信に満ちた顔で、歯を食いしばった。

 しかし、人には他人に見せない顔がある。陰でヴェルガノが、何かに悩んでいた可能性だってある。思い込みは捨てろ、俺。


   *


 まず、王宮の豪華さに、俺は驚いた。巨大で、装飾も華麗な宮殿。シイファは臆した様子もなく、どんどん進んでいく。

 ついて行くと、まず第一にヴェルガノの控室を案内された。既に遺体は、別の場所に移されているらしい。俺はまず部屋を見回した。


 一人で使うには十分すぎる程の豪華な部屋で、ベッドとチェスト衣装棚などがある。広すぎて寒すぎないかと思ったが、部屋には薪ストーブが置いてあった。


「吊ってたのは何処だ?」

「あの照明具」


 部屋の中央に、シャンデリア風の照明具がある。どうやらこれも魔動具らしい。その時、部屋に急に人が現れた。


「――おやおや、スターチ家のご令嬢シイファ殿。どうしたんですか。こんな場所で?」


 そう言ったのは、壮麗な軍服を着こんだ気障な男だった。

 紫の巻き毛を持った気障男は、シイファに微笑みかけた。


「この事件は我々、第一番隊が引き受けましたが?」

「……それで、どういう判断なの?」


 紫の巻き毛は大仰に肩をすくめる。


「判断も何も、これは自殺ですよ。それ以外ありえないでしょう?」

「だから、それが違うって言ってるじゃない!」

「ああ…それで、噂の他国人を連れてきてるわけですね」


 紫の巻き毛がそう言うと、俺の方に視線を向けた。ぶしつけな視線だ。男前だが、妙に腹の立つ顔だ。俺はシイファに訊いた。


「誰だ?」

「これはこれは初めまして。ボクはメサキド・リッケンバッハ。王都警護隊第一番隊の隊長をしております」


 シイファが答えるより先に、巻き毛が名乗った。隊長という事は、ヴォルガと同格か。


「キィ・ディモンだ」


 メサキドが俺を見て、薄笑いを浮かべる。


「ああ、キィ・ディモン! 聴いてますよ、なんでも、あのケダモノ隊長の処に入ったとか入らないとか。まあ、第五番隊はケダモノが率いる隊ですからね。平民上がりや半端者ばかりで――まあ、他国人には相応しいでしょう」

「――ありえない理由は?」


 差別発言で上機嫌になってるメサキドには応えず、俺は訊いた。


「は? 何が?」

「自殺以外、ありえない理由はなんだと訊いているんだが」


 ムッとした顔で、メサキドが口をきいた。


「当然だ。何故なら、発見された時、この部屋は外からは誰も入れない状態だったからだ」


 メサキドが歩きだす。ドアのところで立ち止まった。


「このドアは内側から鍵をかけてあった。部屋の窓も全てカーテンがかかり、鍵がしてあった。その中で首を吊ったのだ。他殺の可能性がない! まあ、シイファ殿は納得されてないようだが。ヴェルガノ殿に特別な思い入れでもありましたかな?」


 勘ぐるようにメサキドが薄笑いを浮かべる。シイファはムッとしたが、何も言わなかった。俺はシイファに訊いた。


「魔法で外から鍵をかける方法はないのか?」

「……ないと思う。見えてないと力場魔法で操作するのは難しいし、第一遮断されてるから魔力が届かない。多分、これは霊力も一緒」

「ほうらね。だから自殺なんですよ。さ、他国人も余計な口出しは止めて、ケダモノ隊長のところに戻ってもらいましょう」


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