2 拳銃の改造を頼んだら
食後、俺は別の事を思い出して、シイファに言った。
「シイファ、頼みたい事があるんだが」
「なに?」
俺は拳銃を取り出した。日本警察が採用する『M360サクラ』だ。銃身の短い太っちょな感じのリボルバーだが、俺は嫌いじゃない。前に貰った火球の指輪と一緒に、机の上に置く。
「この拳銃に、火球の魔晶石を嵌め込めないか? この銃口から魔法が撃ち出せるといいんだが。できれば弾速を速めたい」
「見せて――重た! ん~、職人に頼めばできると思うけど…」
シイファはそう言いながらトリガーを引く。もう弾は入ってないから安心だが、ちょっとギョッとした。カシャン、と音を立ててシリンダーが回る。
「へ~、これ引くと、一個ずつ穴が動くのね。この穴に魔晶石を嵌め込むとして……穴は五つ開いてるよ。他の穴に別の魔法入れる? キィにも勉強が必要だけど」
「勉強が必要なのか……」
気力が使えるだけでなく、魔法も必要に応じて使い分け、その威力も高める方がいいに違いない。
「そうだな。学習もして、魔法の力も高めたいところだ。シイファ、教えてもらえるか?」
俺がそう言うと、シイファはここぞとばかりの得意顔を見せた。
「いいわよ。なにせあたしは王子の教育係なんですから。ちょっと、お高くつきますけどー」
「有料なのかよ」
俺たちのやりとりに、ニャコが傍で爆笑した。
*
三日もヴォルガと格闘戦をやってると、少し判ってきた。
常に満タンに気力を充実させるのではなく、打つ時には打つ拳や蹴り足に気力を込める。打たれる時には、そのタイミングに合わせて気力を充実させる。そうやって必要な時に大きな力を出すことが必要なのだ。
――とはいえ、まだ負傷率は俺の方が俄然高い。ヴォルガの蹴りで肋骨を折られた俺は、レスターに治療を受けていた。その治療をしながら、レスターが不意に口を開く。
「……時に、訊きたいのですが」
なんだ? レスターは眼鏡の真ん中を中指で上げると、顔を赤らめながら言葉を続けた。
「スターチ家のご令嬢と、一緒に暮らしているというのは――本当ですか?」
スターチ家のご令嬢?
「ああ……シイファのことか。そうだ。ニャコも含めた三人暮らしだがな」
「ど、どのようなご関係で?」
……これは本当の事は言えないやつだ。
「シイファとニャコは親友で、俺はただの居候だ」
「そ、そうですか」
明らかにホッとしたような顔で息をついている。
「シイファは、そんなに有名なのか?」
「当然です! スターチ家といえば『建国の九賢候』の一つ『青の智賢』の家ですから。そのご令嬢シイファ様は、17歳にして上級魔導士になる天才魔導士にして、第三王子レムルス様の教育係。魔導士でシイファ様の事を知らぬ者はおりません!」
「……お前って、魔導士だったのか? 気力使ってるじゃないか」
俺は全然、別の事が気になって、レスターにそう言った。
「自分は魔導体術士です。武器も使わないでもないですが、気力も魔力も使うのが自分の戦い方です」
「じゃあ、お前と格闘戦でもよかったんじゃ?」
俺がそう言うと、レスターはフフンと笑った。
「自分は、殴る蹴るというやり方ではありませんからね――」
レスターがその話の続きをしようとした時、不意に駆け込んできた影がある。シイファだった。
「――し、シイファ様?」
驚くレスターを無視して、シイファは俺の手をとった。
「キィ、一緒に来て! 早く!」
「お、おう」
ぎりぎり肋骨が治ったところで、俺は手を引かれるままシイファの後に従った。
*
俺の手を握ったまま走るシイファに、俺は声をかけた。
「おい、もう手はいんじゃないか? かえって走りづらい」
「あ――」
ようやく気付いたシイファが、顔を赤らめて手を離す。すぐにシイファが止めてある馬車にたどり着いた。
「出して」
乗り込んだシイファが御者に声をかけると、馬車が動き出す。俺は向かい席に座るシイファに、改めて訊いた。
「そんなに慌てて、どうしたってんだ?」
「王子の護衛役――ヴェルガノが死んだのよ」




