3 二人の追手がやってきたら
二人連れの男が入って来る。一人は細くて背の高い男。もう一人はボールみたいに丸い体格の男だ。二人とも簡単な鎧のようなものを身に着けた揃いの衣装であり、細い方は手に棒を持っていた。
「ニャコ・ミリアム! 隠れても無駄だ、おとなしく縛につけ!」
丸い方が手にした短い杖を向けて、そう大声を張り上げた。その杖の先には、宝石のような結晶が嵌め込んである。
「ニャコが神父長さまを殺したんじゃないってば! そんな事するわけないでしょ!」
「なら、おとなしく縛につけ。話はそれから聴く」
細い方がそう言い放った。どこかで聞いたような台詞だ。
だが、看過できない話だ。俺はシイファの方を見た。シイファが俺の視線に気付き、慌てて声をあげる。
「ニャコじゃないって! あらぬ嫌疑をかけられてるの」
「潔白ならば、しかるべき場所でそう主張すればいい。調べればちゃんと判ることだ」
「は? 調べるって何を? 警護隊に捕まって無罪で済んだ者なんかいないのよ」
どういう事だ? 此処は捜査も取り調べもしない世界なのか? それじゃあ、奉行所のあった江戸時代以下じゃないのか。
俺の感慨をよそに、二人の男は近づいてくる。
「そこの男は何だ? お前も一味なのか、それとも実行犯なのか?」
「俺は無関係だ」
「そうよ、この人は無関係。そして、ニャコも罪人じゃない」
「いいから、一緒に来い。抵抗するなら――痛い目をみるぞ」
シイファが、ぎり、と歯ぎしりをした。
「違うって言ってるじゃない……。今、捕まるわけにはいかないのよ」
シイファが前に出て、手を前に出す。不意にその手の中に、結晶のついた短杖が出てきた。それを見た丸い奴が、声を上げる。
「抵抗するつもりだな? じゃあ、容赦はしないぞ。電撃弾!」
丸い奴の短杖から光の塊のようなものが発射された。それはシイファに襲い掛かり、シイファは短杖を前へかざす。一瞬、見えない防壁で光の玉が止まるのが見えた。が、次の瞬間、それは閃光とともに爆発した。
「きゃあっ!」
シイファが悲鳴をあげて後方へ吹っ飛ぶ。シイファの身体は床に転がった。
「おい!」
俺は思わず声をあげた。
「シ……シイちゃん…」
俺の腕の中にいたニャコが意識を取り戻す。自分で立とうとするが、心もとない足取りだ。
「おい、まだ無理だろ!」
「キィは……逃げて――」
ニャコは前に進むと、そう言って振り返った。それは、恐ろしいくらい爽やかな笑顔だった。
「お前……」
「分霊体!」
ニャコの声とともに、突然、ニャコの前に一匹の乳白色の動物が現れた。豹かチーターのような、大型の猫科の生き物だ。
「お前も抵抗するつもりだな? 電撃弾!」
丸い奴は再び電撃弾を発射する。それはニャコに飛来したが、乳白色の豹が、長い尻尾を一振りしてその光弾を叩き潰した。
「チッ、霊力使いか」
「じゃあ、おいらが行かしてもらうよ」
そう言うと、細い方は棒を構えた。と、細い奴が駆け寄って来る。それに対して豹が身構えるが、細い奴は棒を振りかぶると、豹に叩きつけた。
「えやッ!」
棒の攻撃を受けた豹は、霧が晴れるように霧消した。細い奴は、さらに棒を振りかぶり、ニャコに向かって振り下ろしてきた。
「きゃ――」
ニャコが自分をかばおうと腕を上げる。次の瞬間だった。
俺は、奴の振り上げた腕を止めていた。
「な、なんだ、お前!」
俺は細い奴を、後ろに押しやる。自分でも、思いがけない行動だった。俺は奴に向かって、口を開いた。
「俺は刑事だ。女性に向かって暴力を振るうのを――見過ごすわけにはいかない」
「な――ケイジ? なんだ、それ?」
「犯罪者を捉え、市民を守る仕事だ」
俺の言葉に、細い奴は鼻白んだような顔をした。後ろの丸い奴を振り返る。
「いいから、やっちまえ!」
丸い奴の言葉に、細いのが頷いた。細いのは俺に向き直ると、今度は棒で俺に襲い掛かってきた。
振り下ろした攻撃を、俺は間合いを見切って躱す。警察学校時代に、さんざやらされた逮捕術の訓練でこういう事には慣れている。こいつの動きは一流の奴らと比べれば、全然大したことのない奴だ。