5 犯人が自白したら
ダグは眼を大きく開けると、勝ち誇った顔で叫んだ。
「俺の畑に埋まってるさ! 東の端のな。美しい娘を養分にして、美しい花が咲く。どうだ、最高だろ?」
「……案内しろ」
俺はダグの足錠を解くと、奴をその場所に案内させた。傍にある畑の一角で、奴は立ち止まった。
「此処だ」
「ナーゴ!」
ニャコがファントムを出して、畑を掘り始める。シイファとマルコが、短杖を出して地面の土を除去し始めた。
「――チェーちゃん!」
ほどなくして、一人の娘の顔が地面の下から現れた。
予想はしていたが、やはり最悪の結末だった。既に遅かったのだ。さらった得物を殺した後だったから、次の得物をさらった。
「チェリーナ!」
シイファが杖を捨てて駆け寄る。ニャコとシイファは、手で土をかき出し、チェリーナを掘り出していた。泣きながら遺体を掘り返す少女たちの姿に、ダグが声をあげた。
「ヒャハハッ! そいつの死に顔は最高だったぜ! 死ぬ間際には――」
俺は振り向くと、手にした鍵をダグの口の中に突っ込んだ。そして鍵をかけて、黙らせる。
「それ以上、喋るな」
俺はダグの腹に一発、パンチをお見舞いした。奴が呻いて、地面に崩れ落ちる。
「チェーちゃん…チェーちゃん……」
ニャコとシイファは、少女の亡骸を抱きしめて号泣した。
チェリーナの遺体の傍から、さらに四人の遺体が出てくる。一人はアビーと思しき少女だった。
が、俺は残りの三人の遺体を見て、衝撃を受けた。
「これは――」
老婆と娘と神父。その三人の胸に、大きな穴が空いている。
この傷は、俺が殺された傷と同じものではないのか?
よく見ると、アビーとチェリーナには、首に変色した絞殺の痕がある。しかし残りの三人にはない。…殺害方法が異なっている。
俺は振り返ると、ダグの顔にパンチをぶち込みながら、奴の口の鍵を開けた。
「いいか、余計な事を喋るな、訊かれた質問に答えろ。最初の三人を殺ったのはお前か?」
「ああ、そうさ」
「どういう方法で殺した?」
ダグが奇妙な顔をした。まるで、酔っているような顔だ。
「忘れちまったが、オレがやったのさ!」
忘れる……だと? そんなはずはない。心の鍵を開いているので、嘘は付けないはずだ。
こいつは覚えてないのだ。当然だ、自分が殺したんじゃない。こいつは娘にしか興味がないサイコパスだったはずだ。
誰かがこいつに三人を殺害したと思い込ませ、同じ場所に埋めさせた。つまり罪を被せたのだ。そしてその犯人は――俺を殺した奴である可能性がある。
不意に、肩を叩かれて俺は振り返った。ヴォルガだ。
「まあ、結果は悪かったが――今回もお前のおかげで事件解決だ。大したもんだな、お前は」
「いや……」
俺は言いよどんだ。それとも知らず、ヴォルガは笑みを浮かべる。
「なあ、キィ、この国にとどまるつもりがあるなら、俺の隊に入らないか?」
「警護隊にか?」
「ああ。まあ、考えといてくれよ」
ヴォルガはそう言うと、微笑して見せた。
遺体を回収して街に戻り、ダグはヴォルガたちが連行していった。
五人の遺体は街の教会に安置され、チェリーナの両親が呼ばれ、話すことのなくなった娘の姿と対面し号泣していた。
朝陽の射すなか、両親にニャコが声をかける。
「チェリーナを……冥界に送るね」
「お願いします」
寝台に寝かされたチェリーナを前に、ニャコが両手を広げる。ニャコの全身がうっすら光り始めると、光はチェリーナにも広がった。
不意に、チェリーナの身体から、チェリーナの姿が浮かび出す。
「な……なんだ、あれは?」
「チェリーナの霊体よ」
俺の驚きの声に、隣にいたシイファが応える。
「霊体が呪縛霊や怨霊になったりしないように、冥界へきちんと送る。――それが巫女や神父の仕事なの」
チェリーナの霊は両親と抱き合い、そしてニャコとシイファに微笑んでみせた。チェリーナの霊が昇天していく。
「さよなら、チェリーナ……」
泣きながら両親とシイファ、そしてニャコはそれを見送った。




