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4 巫女が月光を浴びたら

 シイファは頭の回転が速く、実務能力も高そうだ。俺は傍にあった大きな岩に腰かけた。後はヴォルガを待ってからだ。俺の傍に、ニャコも腰かける。今さら気付いたが、月明りが綺麗な夜だった。


「……ありがとね、キィ」


 ニャコが俺に、微笑みながら言った。


「いや、犯人はお前が制圧したし、俺を治療してくれた。礼を言うのは俺の方だ」

「ううん。キィがいなければ犯人は判らなかったし、あの子を助けたのもキィ。それに……神父長様の事件で助けてくれたし、犯人も見つけてくれた。神父長様が死んじゃったのは本当に悲しいけど……でも、本当のことが判ってよかった」


 その寂しげな表情で、ニャコの気持ちが判る気がした。


「神父長は、世話になった人だったのか?」


 ニャコは頷いた。


「ニャコはね、2歳の時に両親が死んじゃってから、ずっと孤児院にいたの。孤児院には何人か先生もいたけど――子供も沢山いるから、みんな忙しそうだった」

「そんなに大勢の子供がいたのか?」

「うん。孤児院にいられるのは12歳までで、13歳になったらどこかに養子に入るか、弟子入りするかしないといけないの。ニャコは誰も引き取る人がいなくて、先生たちが困ってた。……その時、神父長様が見に来てくれて、ニャコに霊力の才能があるって見つけてくれたんだ」


 ニャコは顔を上げて、月を眺めながら話を続けた。


「それで神父長様が巫女見習いにしてくれて――霊術を教えてくれたの。ニャコが巫女になれたのは、神父長様のおかげ。ニャコは本当のお父さんのこと覚えてないけど……ちょっと神父長様のこと、そんな風に思ってたんだ」


 ニャコはそう言いながら、恥ずかしそうに笑った。その笑顔のまま、涙がひとしずく伝う。

 シイファが、ニャコが神父長を殺すはずがないと断言してたのは、そういう背景があったからか。俺は納得した。


「大事な人を亡くしたのに、犯人扱いされたのか……辛かったな」

「うん……けど、もう大丈夫。今度はチェリーナを見つける番」

「そうだな。奴を無力化した上で、尋問しないと」


 俺は倒れてるダグを見た。そう言えば、巫女ってのは何をする職業なのだろう。そう疑問に思った時、向うから馬車がやってきた。

 近くで速度を緩めると、シイファが飛び降りてくる。


「ニャコ、キィ! 大丈夫だった?」

「俺は大丈夫だ。ニャコが治癒してくれた」

「エヘヘ、大丈夫だよ~」


 ニャコが笑って見せる。馬車からはトッポとマルコ、それにヴォルガが降りてきた。ヴォルガが俺に近づくと、笑いながら言った。


「今度は連続誘拐犯を捕らえたそうだな」

「俺が捕まえたんじゃない。ニャコが制圧したんだ。それに奴は殺人未遂犯でもある。リストレイナーは持ってるか?」

「ああ。――トッポ、奴に力封錠をつけろ」


 トッポがリストレイナーをダグの首につけると、奴が意識を取り戻した。


「む……あ――」


 手首足首を拘束され、リストレイナーで無力化された自分の境遇に気付いたダグは、青ざめた顔で俺たちを見回した。俺は奴に近づいて問うた。


「お前がさらった残りの五人は何処だ?」

「知らねえなあ」


 ダグは嘲るように笑みを浮かべた。と、ヴォルガが出てきて、いきなりその顔に前蹴りを喰らわせた。


「おい、強情張るんじゃねえ! さっさと白状しろ!」


 随分、乱暴だ。一昔前の警察のやり方も、こんな風だったのかもしれない。しかしダグは口の端から血を垂らしながらも、不敵な笑みを浮かべてみせた。


「知らねえよ。知らねえものは、喋りようがない」

「強がるな!」


 ヴォルガはさらに鳩尾に蹴りをいれた。

 俺はふと思い至って、傍にいたマルコに訊いてみた。


「おい、殺人未遂では死罪にはならないのか?」

「そうだなあ……喧嘩で相手が重傷でも、死ななかったら死刑にならないかも。バルディーク行きだな」


 しまった、そういう事か。それならばこいつは、死ぬほどの拷問でない限り誘拐した五人の居場所を吐くつもりはないだろう。こいつの口を割らせることはできない。

 その時、不意に俺の脳裏に閃くものがあった。

 俺はヴォルガを押しのけて、ダグに近づく。俺の手には、新しい鍵が生まれていた。その鍵を、ダグの胸に近づける。


「――な、なんだよ…」


 こいつの心の扉を開く。

 俺はダグの胸に鍵を差し込むと、横に回した。鍵が消える。


「お前に訊く。さらった五人の居場所は何処だ?」


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