3 特級巫女が戦ったら
「霊的結界!」
ニャコの目の前で、その発射された物が弾かれる。それはどうやら種のようだった。ニャコは手を振ると、豹が前足の爪を延ばしてダグに襲いかかった。
その跳躍した豹を、地面から急激に伸びてきた何本もの蔓が、串刺しにする。豹の姿が消えた。
「うそ――こんな霊力ありえないよ…」
ニャコが驚嘆を洩らした時、地面から伸びてきた蔓がニャコの手足を捉えた。
「きゃあっ!」
蔓はニャコの手足に巻き付き、ニャコを空中に吊し上げた。
「ニャコ!」
俺は声を上げたが、身体を動かすことができない。俺は見てることしかできないのか。
俺が歯噛みした時、花人形は腕を伸ばして、ニャコの身体に蔓を巻き付けた。その蔓がニャコの首まで巻き付き、締め上げる。
「う……うぅ…」
ニャコが苦悶の表情を浮かべた。ダグが歓喜の声を上げる。
「いいね! 女が苦しむ顔は最高だ!」
「オマエは最低……」
ニャコがそう言った時だった。
突然、ニャコの全身が光り出す。
「な、なんだ?」
閃光と共ともに、ニャコの身体を取り巻いていた蔓が吹き飛んだ。
ニャコがゆっくりと地面に降り立つ。その姿は、銀白のドレスを着たように変わっていた。
「ナーゴ、ドレスモード!」
肩や腰にフレア、頭には猫耳のような突起がつき、後ろには長いしっぽが生えている。その腕は大きく膨らんだ猫の手になっていた。
「見た目が変わったくらいで――なんだってんだ!」
花人形の蔓が幾筋も襲い掛かる。
が、その瞬間、ニャコが凄まじい勢いで突進した。向かってくる蔓を、腕から長く伸びた爪で切り裂く。ニャコの動きを止めることとはできない。
「肉球パンチ!」
爪がなくなり、猫の手が巨大化する。ニャコはそれを、虫をはたくように横に振った。
「ぶおっ!」
ダグの頬が歪み、その身体が横に吹っ飛ぶ。何回転もした後――動かなくなった。ニャコが腰に手をあてて、胸を張る。
「ニャコの勝利!」
ダグの様子を確認すると、ニャコは元の姿に戻りながら俺のところへ駆け寄ってきた。
「キィ、大丈夫?」
「あぁ……。奴の様子はどうだ?」
「完全に気絶してる。ま、ニャコの肉球パンチをくらったんだから、当然だけどね!」
ニャコは鼻を膨らませて、自慢げに言った。俺は身体を起こそうとするが、やはり奴からもらったダメージが深い。
「う……」
「やっぱりダメじゃん! ちょっと動かないで」
ニャコは俺の頭に手をかざした。その手が光り、あてられてる部分が温かくなってくる。
「何をやっている?」
「治癒術。すぐに治すから待ってて」
「……そんな事もできるのか」
俺は素直に感心した。ニャコは俺の身体の負傷部分にも治癒術を施す。俺はすっかり傷が治り、体力も回復した感じで立ち上がった。
「すっかり、いいようだ。ありがとう」
「エヘヘヘ」
俺が礼を言うと、ニャコがテレ笑いをする。まだ、あどけない子供の感じだが、能力には本当に驚くしかない。
俺は倒れているダグに近づいた。やはり完全に気絶している。
「今のうちに拘束しておこう」
俺は異能を使い足に錠をはめ、後ろ手にして手錠をはめようとした。その持ちあげた右腕の手首裏に、何かある。
「なんだ?」
それは、眼だった。いや、眼球というべきか。
丸い形状で手首の裏にあり、ぎろり、と俺を睨んだかと思った瞬間、不意にボロボロと崩れて消えていった。
俺は隣のニャコに訊いた。
「なんだ、今のは?」
「え? いや、何か判らないよ?」
ニャコが首を振る。気にはなったが、とりあえず奴を拘束した。
落ち着いたところで、俺はニャコに訊いた。
「捕まっていた娘はどうした?」
「キィが助けたんだよね? キィの服着てたからすぐに判った。今、シイちゃんが保護して家に送ってる。それとヴォルガ隊長たちを呼んでくるって、シイちゃん言ってた」
「完璧だな」




