2 犯人と戦闘になったら
ダグは爽やかな見かけをかなぐり捨て、凶悪な犯罪者の顔つきで俺を睨んだ。
「俺は刑事だ。――お前を逮捕する」
「ケイジだと? ……ふざけんなっ」
ダグの目の前に、乳白色の物体が現れる。分霊体というやつだ。やはり奴は霊力使いだった。
奴のファントムは奇妙な形状だった。全身は蔓と花でできており、植物を無理やり人型にしたような格好だ。その花人形が蔓の手を急激に伸ばし、襲い掛かってきた。
俺は蔓の攻撃を横に跳んで躱し、火球を三連続で放つ。
花人形は蔓の腕を鞭のように振ると、俺の火球を全てはじき返した。そのはじき返した火球が周囲に落ち、小屋に炎がつく。
「てめぇっ、オレの家に火をつけやがったな! 殺してやる!」
花人形が蔓の腕を延ばして、振り下ろし攻撃してくる。俺は横に移動して躱すが、奴はもう一方の腕を横にしならせて攻撃する。俺は頭を低くしてそれを躱しながら、奴の本体に火球を撃ち込んだ。
が、花人形の頭に見えた部位が、急に網のように広がってダグを守る。人型に見えるが、それは全く見かけだけだ。
俺は横に移動しようとして、不意に足を取られてつまづいた。足元を見ると、花人形の足から蔓が伸びていて俺の足に絡んでいる。
「しまった!」
動きの止まった俺を、蔓の鞭が容赦なく襲う。
腹に一撃喰らった直後、頬を蔓の鞭で殴られた。
「ハハッ、ざまあねえなぁっ!」
ダグが嘲笑うように声をあげ、俺を指さす。花人形の腕が一本になり、巨大な鞭となって俺を襲った。
「ぐあっ!」
下から波のように襲い掛かる蔓の鞭は、俺ごと壁をぶち壊す。俺の身体は小屋の外へと吹っ飛ばされ、そのまま地面を転がった。
「のこのこ乗り込んできやがって。お前を殺した後に、たっぷり楽しんで、あの娘を殺してやる」
燃え上がる小屋から、ダグが凶悪な笑みを浮かべながら近づいてくる。俺は這いつくばったまま左手を向けて火球を発射した。しかし花人形は、なんなく火球を弾き飛ばす。ダグが眼を剥いた。
「きかねえなぁっ!」
駄目だ。俺の力では奴に対抗できない。ダグが俺を見下ろした。
「弱いクセに、なぁにが逮捕だ! 死にやがれ!」
上から渾身の蔓の鞭が振り下ろされる。もう、避ける術もない。
直撃を喰らった。……と、思われた瞬間、闇の中から飛び出してきたものに、蔓の鞭がちぎられた。と、甲高い声が響く。
「――危ないじゃんよー! キィ、大丈夫?」
出てきたのは乳白色の豹。声の主は、それを操るニャコだった。
「なんだ、お前は!」
ダグの怒鳴り声に、ニャコは得意げな顔で答えた。
「ニャコ! 特級巫女のニャコ・ミリアムだよ!」
ニャコはVサインをつくって、右目の傍で横にした。そして、ウィンク。……大丈夫か、こいつ。状況わかってんのか?
「知るか!」
花人形が蔓の鞭で攻撃する。ニャコが豹に叫んだ。
「ナーゴ、ソード・クロー!」
豹はジャンプすると、前足の爪が刀のように伸びる。その爪で攻撃してくる蔓を一瞬で寸断した。
「なに! こいつ――」
ダグが驚きの声をあげる間に、豹は爪で花人形をバラバラに斬り裂いた。着地した瞬間に、豹はダグに向かって跳びかかる。
「ハンマー・テイル!」
豹の尾が太くなる。と、豹は瞬時に身を翻した。その回転力で豹の尾がダグの頭部を横殴りにする。ダグの身体が吹っ飛んだ。
「強い……」
俺はニャコの強さに息を呑んだ。
「ククク……」
その瞬間、倒れたダグの身体から笑い声があがった。
バネが弾けるように、ダグの身体が跳ね上がる。その身体に蔓が巻き付いていた。
「危ねえ、危ねえ。防御してなかったら、やられるところだったぜ。……お前、バカっぽい感じの割りにやるなあ。それとも作戦だったのか?」
「バカっぽいって、なんだよ!」
ニャコが上気した顔で怒る。それを意に介した様子もなく、ダグは笑みを浮かべた。
「いいぜ……お前をぶちのめした後、たっぷり可愛がってやる」
「……気持ちわる」
ニャコが露骨に嫌そうな顔をした。と、ダグの目の前に、再び花人形が現れる。
どうやらファントムというのは、破壊されても再び出せるものらしい。恐らく、霊力が尽きなければ出せるのだろう。
花人形が腕をニャコに向ける。その腕の先は、膨らんだつぼみのようだ。と、そこからマシンガンのように何かを発射した。




