表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/143

2 巫女と魔導士が名乗ったら

「何が起きてるのか、説明してくれ。此処は何処だ? そして君らは何者だ?」


 二人の少女は顔を見合わす。と、ピンク髪の少女が、俺の方を向いた。


「はじめまして、特級巫女のニャコ・ミリアムです! あなたを転生させました!」


 ニャコと名乗った少女が、にっかりと笑う。


「転生? …って、輪廻転生(りんねてんしょう)とかの話か? 何を言っている?」

「この娘のバカっぽい感じだと信じられないかもしれないけど、この子は本当に特級巫女で、あなたをリワルドから、このノワルドへ転生させた。つまり、あなたは異世界に生まれ変わったのよ。あ、あたしはシイファ・スターチ。上級魔導士よ」


 鏡を抱えた水色の髪の少女が、そう言い添える。

 が、魔導士? なんだ? ロクに漫画も読まない俺に、そんな荒唐無稽な話を信じろと言うのか? いや、これは何かウラがある。


「……お前たち、俺に何をした? 幻覚剤か、麻薬でもうったのか?」


「ちょっとー、せっかく死にそうなところを助けたのに、ひどい言いようじゃない」

「…ヘンね。なんかリワルドでは異世界転生ものの話が流行っていて、すんなり納得するって聞いたんだけど」


「子供のいたずらはここまでにしろ。此処は何処だ? 俺の追っていた奴は何処へ逃げた?」


 俺は少し凄みをもたせて少女たちに問うた。しかしシイファと名乗った方は、澄ました顔で言った。


「子供っていうけど、あなたもそう変わらない歳なのよ。後ろの鏡を見てごらんなさい」


 何? 俺はシイファが指さした背後を振り返る。そこには全身が映るほどの大きな鏡が置いてあった。

 そこに映る自分の姿に、俺は息を呑んだ。


「これは……。俺が、若返っている?」


 俺は32歳独身の刑事で、歳よりも老けて見えたはずだ。悲惨な事件を目の当たりにし続けたせいだろうが、暴力団相手には舐められなくてちょうどよかった。


 その俺の姿が、恐らく17、8歳までに戻っている。スーツを着てはいるが、若すぎて似合ってない。これは――俺が警察学校に入る前くらいの自分だ。


「どう? 転生したって納得した?」


 俺は鏡に顔を寄せて、自分の顔を見つめてみた。眉間に刻まれた皺がない。俺はふと気づいて、スーツの片腕を脱ぎ、シャツの袖をまくった。右腕には強盗犯と格闘した時の、5cmほどの傷跡がある。が、それが無くなっていた。


「……傷がない。これは…どういう事だ?」

「だからあ、転生したんだってば」


「転生ってのは、赤ん坊に生まれ変わることを言うんじゃないのか?」

「あ、前はねー、そういう感じだったんだけど、新しく転生の術が開発されて、自分の望む年齢や姿に生まれ変われるようになったんだよ。へへん」


 得意げなピンク髪――ニャコの言葉をそこそこに、俺は周囲を見回した。場所は教会のような、聖堂の内部のようだった。窓の作りや内装品が西洋風で、和風ではない。俺は窓に近寄って、外を眺めてみた。

 周辺は石造りの建物が並ぶ街並みだった。ヨーロッパの何処かと言われても、納得するだろう。少なくとも、日本の風景ではない。


「此処が……何処だって?」

「ノワルド。あなたがいた世界は便宜上、リワルドって呼ばれてる。あなたは異世界から転生したの」

「俺が追っていた犯人は――いや、前の世界の俺はどうなった?」

「残念だけど……」


 シイファは最後の言葉を濁す。つまり、死んだ、という事か。

 俺は犯人を追ってる最中に殉職し、犯人にも逃げられた。……そういう事か。


「ねえ、あなたなんて名前なの?」


 沈んだ気持ちになっている俺に、ニャコが訊ねた。


「大門錠一」

「ダイモンジョウイチ? 言いづらい名前。呼び名はないの?」

「俺は、昔からキィと呼ばれてた。キィは鍵なんだがな」

「じゃあ、キィって呼ぶことにするね……」


 ニャコはそう言った途端に、急に膝から崩れ落ちた。


「おい、お前!」


 俺は慌てて駆け寄り、ニャコを抱き支えた。ニャコの身体はぐったりしている。シイファが傍に寄って、口を開いた。


「無理もないわ。いくら霊力が高いからって、一人で転生の術を施したんだもの。立ってるのがおかしいくらい」

「……そんなに大変な事なのか?」

「一人で行うなんて、聞いた事ないわ。いくら霊鏡の合わせ鏡を使ったからって――」


 シイファがそう話した時、不意に聖堂の扉が開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ