最終話 戦いに決着がついたら
いける。奴に攻撃が当たっている。
そう思った瞬間、俺は何かに足を取られて倒れた。
「ム――」
奴の銀髪が、床から伸びて俺の足にからみついている。
すかさず、影の拳が俺に襲い掛かった。俺は防御に剣を出す。
が、そこにヴォルガが割って入る。
「――だろうと思いましたよ」
横からもう一方の拳が最大限に巨大化し、ヴォルガの胴体を掴んだ。
「むうっ――」
ヴォルガがその手を斬ろうとするが、拳はヴォルガの胴体を握り潰すように締め上げた。
ゴキゴキ、という骨の砕ける鈍い音がする。
「ヴォルガ!」
「仲間を庇おうとする、そこに隙が出る。それが狙い目だ」
ゼグラが愉快そうに笑い、ヴォルガの身体を投げ捨てた。
「貴様!」
俺は手に斬りかかる。が、その横から身体全体を殴られた。
俺の身体が吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
「ほうらね、仲間がやられて逆上する。そこに隙が出ると教えてあげたのに。やはり愚かだから、人の話を聞かないんだな」
ゼグラは愉快そうにそう口にし、倒れているヴォルガの元に歩み寄った。
「狼くんの超回復からいただこう。そうすれば、後の者はなんとでもできる。――無論、シャルナの『ゲート』もいただきに行く」
どくん、と俺の心臓が鳴った。
「……妹を…もう一度殺すつもりか…」
俺はよろける身体を抑えつけ、立ち上がった。
「ほう、まだ立ってくるとはね。そうだ。君を殺した後、妹も君の処へ送ってあげるよ。心配いらない――一瞬で済ましてあげるから」
ゼグラがそう薄笑いを浮かべた。
全身が、逆立つように気力が立ちのぼる。急速回復していた。
「お前だけは……絶対に許さん」
一瞬で――全てのものが凍るかのような静けさを覚えた。
覚醒した。
俺の新しい力が、俺には判った。
右手を前に出す。その俺の掌の中に柄が現れる。
逆手のまま引き抜くように、俺は手を左前に動かした。
空間から、俺が引き抜いた刀身が現れる。
それは鍵の形をした剣だった。
「なんだ…それは?」
「鍵の剣」
俺は左手で柄を握ると、右手を順手に持ち替えた。
「今更…何ができるというのだ!」
ゼグラがヴォルガの身体に拳を打ち込もうとする。
俺は爆発的な発力で、一瞬で奴の眼の前に移動した。
「な……に――?」
「貴様の力を『開く』」
俺は鍵剣で、突きを繰り出した。
銀髪が壁になって、剣を防ごうとする。が、鍵剣はそれを切り『開いて』いく。
「なにっ!」
ゼグラが影の手で、鍵剣を防御しようとした。
が、鍵剣はそれも割って『開いた』。
「バカな!」
叫んだゼグラの胸に、俺は鍵剣を突き立てた。
俺たちの動きが止まる。
「――なんだ、これは?」
鍵剣を突き立てられたゼグラが、慄きの表情を浮かべる。
「何のダメージもない……」
「ゼグラ、お前の異能を『封じる』」
俺はそう告げると、差し込んだ鍵剣を横に回した。
奴の額の三つの眼が閉じ、消えていく。俺は鍵剣を引き抜いた。
「な……何だと? 私の異能を封じるだと? そんな事ができるわけ――」
俺はその言葉を言い終わる前に、ゼグラの顔に気力パンチを叩きこんでやった。
「ぐあぁっ!」
ゼグラがパンチをまともに喰らい、吹っ飛ぶ。奴は顔を抑えながら、口を開いた。
「バ、バカな! 私の無力化がなくなっている!」
ゼブラはよろめきながら立ち上がると、信じられないものを見るような眼で、俺を見た。
「……こんな事ができるとは…何なんだ、お前は――」
俺は三尖の炎の紋章を取り出した。
「俺は刑事だ。邪神教団指導者ゼグラ、暴行傷害の現行犯および、連続殺人の容疑で――お前を逮捕する」
俺は言い放った。
「ふざけるなぁっ!」
影の手を出して、ゼグラが襲いかかってくる。
俺はアースティアを一振りして奴のファントムを消すと、返す刀で奴を袈裟打ちにした。
――衝気。
ゼグラが全身を貫く衝気に、物も言えずに倒れる。
「俺は刑事だ。……ふざけてはいない」
そうして、ゼグラは完全に沈黙した。




