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5 犯人を特定したら

「許す。キィ・ディモン。そなたの好きに調べてみよ」

「ありがたき、お言葉」


 俺は一礼すると、神父長の左腹にナイフを入れ、胃が見えるように切開した。ニャコとシイファは眼を逸らしている。俺はさらに、その胃を切り開いた。


「――誰か、確認を」

「私が見よう」


 ロイナート総隊長が傍までやってきた。俺は声を上げる。


「ご覧のとおり、胃の中は空っぽです」

「……どういう事?」


 ニャコが首を傾げた。


「6時に食事を持ってきているのに、殺された7時までそれを食べてない――というのは不自然です。むしろこう考えるべきでしょう。食事を持ってきた時に、神父長は既に殺されていた。サリーに返事をしたのは、部屋にいた犯人だったと」


 その時、ロビーにメイドのサリーが戻ってきた。


「ありました! ゴミ箱に食事のすべてが廃棄されてました。けど、食器は綺麗に洗われて、しまってありました」

「つまり犯人は食事が届く前に神父長を殺し、その時にサリーが食事を持ってきた。その時、部屋にいるように返事をし、その後に食事を食べたように見せかけるために、食事を廃棄し食器を片付けた。――ニャコ、お前は6時頃に何処にいた?」

「ニャコは自警団の人たちと話をしてた。沢山の人に会ってるから、みんな覚えてるはず」


 ニャコの答えを聞いて、俺は一同に言った。


「つまりニャコにはアリバイ――犯罪現場における不在証明が成立します。ニャコは犯人じゃありません」


 なるほど、と王子が納得したように深く頷く。


「ニャコが犯人でないならば、ニャコが来た時に神父長の部屋に死体がなかった事が事実となります。犯人は殺した後に遺体を移動させて痕跡を消し、ニャコが帰った後に罪をきせるために再び遺体を元の部屋に戻した」

「そんな事が…可能なのか?」 


 ロイナートが訝しげな表情を見せる。俺は頷いた。


「収納珠を使えば、物品の移動は簡単です。神父長を刺した時の流血も、死んだ後ならば元の場所に還せる。――修復魔法を使って」

「生きてるうちは無理だが……死後ならば可能という事か」


 ロイナートの言葉に俺は頷いた。


「そのように部屋を往復し、ニャコに罪を被せるため、犯行時刻にロビーで歓談して見せる。台所が何処か知っており、食器を片付けていても不審に思われないのは、普段からいる神父たちだけです」


 俺は神父たちに視線を向けた。


「この中に犯人がいます」

「――ふざけるな! お前の話には、何の証拠もない!」


 俺は先ほどから声を上げてるその神父を睨んだ。


「貴方は?」

「私はキース・ドラルデ副神父長だ!」

「そうですか。しかし、案外、証拠はあるかもしれません」


 俺はそう言って、手を叩いた。すると扉が開いて、ヴォルガの部下が神父長の霊鏡を持ってくる。今までの話は、時間稼ぎだ。


「な――なんのつもりだ!」

「それは何処にあった?」

「副神父長の部屋です」

「ど、どうやって私の部屋に入った?」


 実は俺が事前に、神父たちの部屋すべての鍵を開けておいたのだ。が、それは言わない。


「どなたか、この霊鏡に、修復魔法をかけてもらえませんか?」

「では、私がやろう」


 ロイナートが出てきて、手をかざす。最初、部屋の様子を映していた鏡の表面は、すぐにこの部屋まで移動する景色を逆行してみせた。そしてニャコが移動した景色まで、早戻しで過ぎていく。


「や、やめろ!」


 ドラルデ副神父長が声をあげる。王子が感心したように言う。


「霊鏡というのは、以前写したものを見せるのか」

「これに気付いたのは直前でしたが――そろそろ犯行時刻です」


 出てきたのは、血の付いたナイフを持つ副神父長だった。倒れた神父長が立ち上がり、ドラルデのナイフに刺さりにいく。


「うわあぁぁっ」


 絶叫するドラルデに、ロイナートが告げた。


「ドラルデ副神父長、貴殿を逮捕する。――ヴォルガ!」


 怯えた表情のドラルデを左右からトッポとマルコが腕を掴み、ヴォルガが首にリストレイナーをはめた。俺はドラルデに問うた。


「あんたは霊鏡が過去を写すことを知ってたから、慌てて回収しようとした。どうして、こんな事をしたんだ?」

「……信者の娘に手を出した事を、神父長に責められた」


 ドラルデは凄まじい形相で俺を睨んだ。俺の良く知る――犯罪者の眼だ。だが、不意にその表情が和らぐ。


「……これで、恐れる日々から解放される」


 ドラルデはそう言うと、マルコの持つ腕を振り払い、何かを口に含んだ。そして……一瞬でドラルデは絶命した。


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