7 そんな簡単な話じゃなかったら
さすがのシイファも、動きでは俺に追いつかない。
俺は手に鍵を出し、シイファの胸に差し込もうとした。
「ちょっと! 何するの!」
しかし、驚くような速さで、俺の手が払われる。
シイファが胸を抑えたまま赤くなって、俺の方を睨んでいる。
「あ、あんた今、あたしの胸に触ろうとしたでしょ!」
「ち、違う、誤解だ」
「変態! スケベ!」
「いや、俺は刑――」
弁解しようとして、俺の脳裏の何かが急に閃いた。
「俺は、お前のおっぱいが昔と変わらないことを知っている!」
俺はシイファに怒鳴った。
シイファが驚きに眼を丸くする。と、次の瞬間、真っ赤になって胸を抑えながら怒鳴り返してきた。
「ななな、なんで、あんたがそんな事知ってんのよ!」
「なんで、知ってるか――よく思い出してみてくれ」
「思い出すって……あんたと、そんな関係じゃないでしょ!」
シイファが声をあげた。
と、シイファが眼を見開く。
と思うと、シイファは急に上を向いた。
聞こえはしないが、何かがパチンと弾けた気がした。
ゆっくりと、顔が降りてくる。
「……キィ?」
「シイファ、想い出したか」
シイファが怪訝な顔をしている。
「どうしたの? あたし、何でこんな処にいるの?」
「よかった。どうやら正気を取り戻したようだな」
俺は息をついた。と、突然、シイファが声をあげる。
「――あ! キィ、大変なのよ! ゼブリアット枢機卿が、あたしにいきなりファントムで仕掛けてきたのよ! ゼブリアット枢機卿が、指導者なのかも!」
「悪いが、話は大分そこから進んでいる。奴が黒幕なのは、既に判っている」
俺はそう言いながら、近くにうずくまっていたロックの傍に行った。まだ身体回復が完璧じゃないロックの治療を始める。
「ちょっと! ロック、ひどい重傷じゃない!」
「とりあえず命の心配はない。帰れるところまで治癒する」
「そんな事言って、キィだって傷だらけじゃない」
半分以上、シイファの攻撃によるものだがな。
そう思ったが、とりあえず言わないでおいた。
俺とシイファはロックを連れて、ニャコとシャルナのいる処へ移動した。ニャコが俺たちを見て声をあげる。
「シイちゃん! 正気に戻ったんだね」
「ごめん、ニャコ……」
ニャコはシイファに駆け寄ると、ガバッと抱きついた。
「心配かけたね、ニャコ。ニャコは大丈夫?」
「だいじょーぶ」
ニャコは鼻をすすりながら、そう答えた。
俺はシャルナに近づいた。シャルナは依然、ぼうっとした顔つきで立っている。
「暗示が解けないようだな」
俺の言葉に、ニャコがシイファから離れてやってきた。
「さっき霊力で探ってみたんだけど、暗示の根が深すぎてすぐに解けない感じ。全力でやったら判らないけど、今、ニャコもあんまり霊力ないし」
「そうか。――此処から脱出しないと、回復もできないな」
「けど……どっちが出口かなんて、まったく判りそうにないわ」
シイファが鍾乳洞を見回して言う。確かにそうだ。
「よーし、ここはニャコの勘で……」
「下手に動くと迷うだけだ。脱出できる方法は一つ――ゲートを使うことだ」
俺の言葉に、二人の視線がシャルナに向けられた。
「ねえ、あたしたちを此処から連れ出してよ」
「お前たちは……敵…」
シイファの言葉に、シャルナはぼんやりと答えるだけだ。
「ちょっと! あなただって、此処から出ないといけないでしょ?」
シイファが両肩を掴んでゆするが、シャルナに変化はない。
「やはり暗示を解かないと駄目だな」
「なんかキーワードとかで解けないのかな? おっぱいの話するとか」
ニャコの言葉に、俺は首を振った。
「いや…そんな簡単なものじゃないだろう」
「なんか、あたしが簡単な女みたいじゃない!」
シイファの抗議を無視して、俺はさっきシイファにしようとした事を想い出した。
「さっきシイファの暗示を、俺の鍵で『解除』しようとしたんだ。それを試してみる」
「あ……胸を触りにきたんじゃないのね」
俺は掌に鍵を生み出し、それをシャルナの胸に寄せた。
鍵を鎖骨下に差し込み、回す。




