4 十五年前の真実を知ったら
「ロック!」
岩壁からずるりとロックの身体が地面に落ちる。
まずい。あれは明らかに全身の骨を砕かれている。
俺はロックのもとに走った。
「ロック、しっかりしろ!」
「わふ……」
薄目を開けて、ロックが俺を見る。こいつを此処で死なせるわけにはいかない。
俺は気力を発して、身体回復を施し始めた。
「大丈夫だ、今度は俺がお前を助ける番だ」
俺の言葉に、ロックが少しだけ反応する。
その回復する間に、ゼグラはシャルナのもとへ移動していた。
「さくら、逃げろ! そいつはお前を殺すつもりだ!」
「フフ……シャルナとニャコ、この二人は幼い頃から、私が深層意識に暗示の根を張っているのだ。私の言うことには、絶対に従う。――シャルナ、そこを動くな」
「はい……ゼグラ様…」
ぼんやりとした眼のシャルナが答える。
ロックの重傷は命に別状ないほどには回復させた。次はシャルナをが殺されるのを阻止しなければいけない。しかし、既にゼグラはシャルナに向かっている。俺は最大限の発力をして跳躍した。
――駄目だ、此処からでは間に合わない。
ゼグラが自分の手から、重力弾を発射した。
装備がない俺には、それを阻止する術がない。
「さくら、避けろ!」
俺の叫びも無視して、重力弾がシャルナに迫った。
直撃する――そう思った瞬間、何かが重力弾をかき消した。
「――よく判らないけど! ピンチってことだよね!」
ニャコがふらつきながら立ち上がり、重力弾を尻尾でつぶしたファントムを操っていた。
「ニャコ!」
「キィ! ……こいつ、誰?」
ニャコがゼグラを指さす。
ゼグラが微笑んで、ニャコに言った。
「判らないのかい? 私はゼブリアット枢機卿。お前を特級巫女にしたのは私だよ」
その言葉を聞いて、ニャコが顔をしかめる。
「ウソだあ~。だって、ゼブリアット様は、もっと爺ちゃんだもん」
ゼグラがあからなまに不快な表情をした。
「君が私を転生させたじゃないか」
「そうだっけ?」
「もういい! 貴様はもう用済みだ!」
影の拳がニャコを襲う。
「ナーゴ!」
ニャコのファントムが、ニャコの前でその拳を防ぐ。
その間に、俺はシャルナの傍へと接近した。
「さくら、しっかりしろ!」
俺はシャルナの肩を掴んで、その眼を見つめる。
「わたしは……シャルナ」
シャルナが虚ろな表情のまま、ぼんやりと口にした。
「きゃあっ!」
ファントム同士の戦いで競り負けたニャコが、俺の足元に転がって来る。
「なんか、あいつ、霊力を吸い取るんだけど!」
「奴はテラー博士の異能を吸収してる。次はシャルナのゲートの能力を、殺して奪うつもりだ。しかし奴も、ロックの一撃で弱ってるはずだ。奴は俺が倒す。お前はさくら――シャルナを守ってくれ」
俺の言葉に、ニャコが立ち上がる。
「判った!」
「ククク……」
ゼグラが不意に、笑い声をあげる。
「何がおかしい」
「ニャコ、君がシャルナを助けるだって? 君にとって、その娘が守るべき価値のある存在だと思ってるのかい?」
ゼグラは歪んだ笑みのまま、ニャコに言った。
「ど、どういう事だよ?」
「教えてあげよう。十五年前、そのシャルナを転生させるために、200人もの幽子が必要だった。当時はまだ合わせ鏡の技法も、霊術士を犠牲にして転生させる方法も開発されてなかったからね。純粋に――200人分の命が必要だったのだ」
「まさか……」
俺はシャルナを見て、そして呆然となるニャコを見た。
「そう! 君の村だよ! レネ村の虐殺事件は、この子を転生させるために犠牲になったのだ! つまり、その子のせいで、君の両親や村の人たちは殺されたんだよ。君はそれでも、その子を守るのかい?」
そう言い終わったゼグラが、愉快そうに微笑を浮かべる。
俺はニャコを見た。
ニャコは驚きの表情の後に、ぐしゃ、と泣き顔になった。
「ひどいよ……」




