3 魔犬が一太刀浴びせたら
俺がそうロックに頼んだ時、ゼグラはテラー博士を追い詰めていた。
「君から霊力を遮断する力を得れば、私は三力の全てを無効化できる完全な存在になる。私の一部になれることを、殉教者として喜びたまえ」
「そ、そんな事のために――転生したんじゃない!」
テラー博士は仮面の投げ捨て、必死の形相で叫んだ。
だがゼグラはそれを嘲笑うかのように、微笑する。
「もともと現実に絶望して死のうとしてただろう? その続きだと思えばいいじゃないか」
影の手が地面を殴りつけ、その反動を利用してゼグラが一気にテラー博士に迫った。
「ヒッ……」
テラー博士が恐怖の表情を浮かべる。
「ロック、やってくれ!」
「わふ!」
ロックが姿を現し、尾手で持っている剣を振る。俺を拘束してる十字架の右腕部を切られ、右手だけ自由になった。俺は右手に鍵を出し、首のリストレイナーを解除した。
「ハアアアァァァ――」
俺は最大限に爆発呼吸をし、最大気力を全身から発揮した。
「ハァッ!」
俺を拘束していた両腕、両足の鉄輪が弾け飛ぶ。
俺が地面に降り立った時、ゼグラはテラー博士の死体を地面に放り捨てた時だった。
俺の方に、ゼグラが振り向く。その額に三つめの裂け目が現れ、ゼグラの額には花が咲いたように三つの眼が現れていた。
「ほう、どういう方法でかは判らんが、拘束を解いたようだね。……それでどうするキィ・ディモン? 私と戦ってみるかね?」
俺は横目で、磔にされていた場所から離れた台を見た。ご丁寧に俺の剣と魔銃が置いてある。少し離れているが、装備はあそこだ。
俺は発力して、そこへ向かった。
ゼグラが影の腕を使って跳躍移動する。俺の方じゃない。
「――判っているさ」
俺は装備を取りにいったと見せかけて、ゼグラの移動先へ先回りした。その移動先は――
「なに!」
ゼグラが驚きの声をあげる。俺は手に出した鍵で、さっきシャルナが作ったゲートを閉じた(・・・)。
「貴様! 私がゲートに向かうと判っていたのか」
ゼグラが声をあげる。俺はゼグラに言ってやった。
「お前の次の行動は読めている。お前は次にシャルナを殺し、シャルナから『ゲート』の能力を奪うつもりだ」
「フフフ……さすがだな、キィ・ディモン。まったく、その通りだ。この三力無効化に加えゲートを手に入れれば、私はもはや完全を越える。そしてキィ・ディモン。君を殺して、君の能力『錠と鍵』もいただく予定だ」
「貪欲は身を亡ぼすぞ」
俺がそう言った直後、影の腕が俺に襲いかかった。
俺は衝気を込めた掌打でそれを迎え撃つ。影の拳を通して、俺の衝気が奴の体内に浸透ずるはずだった。が、レディ・スィートから奪った異能で、俺の気力は吸い取られる。
「無駄だよ」
微笑んだゼグラが、俺の拳を弾き飛ばして影の腕で俺の胸を撃った。
「くっ――」
俺の身体が吹き飛ばされる。気力で防御してなかったら、ひとたまもない威力だ。
しかし判ったことはある。奴はこっちの攻撃は無効化できるが、防御は無効化できない。
「いつまでもつかな?」
ゼグラが影の拳を連続で叩きこんでくる。俺はそれを必死で防御し続けた。が、その時、異変が起きた。
「ぐあっ!」
突如、ゼグラが呻き声をあげた。
「わふ……」
ロックだ。背後からロックが、ゼグラの背中を強打したのだ。
ゼグラが倒れ込む。
「な……なんだというのだ?」
「わふ!」
倒れたゼグラに、姿を現したロックがもう一撃加えようと剣を振る。が、その剣を影の手が掴んだ。
「このクソイヌが!」
動きを止めたロックを、もう一方の拳が思い切り殴りつける。
「きゃん!」
ロックは一鳴きとともに吹っ飛ばされ、鍾乳洞の壁に叩きつけられた。