2 指導者が本性を現したら
「さあ、行こうか。レディ、君も来なさい」
「はい、ゼグラ様」
レディ・スィートは嬉しそうに、ゼグラの傍へと寄った。
その瞬間だった。
「あ……」
レディ・スイートの唇から、血が滴る。
その豊かな胸の間に、大きな穴が空いていた。
「ど…どうして……」
信じられないものを見る目つきで、レディ・スィートがゼグラを見る。その身体が倒れそうになるところを、ゼグラが抱き支えた。
「レディ・スィート、私が転生する時、どんな力を願ったと思う?」
「え……?」
「こういう事なんだよ」
ゼグラの背中から、突如、黒い巨大な腕が姿を現した。
その巨大な影のような腕が、レディ・スィートの顔に手を伸ばす。
その手が――レディ・スィートの右目を指を突き立てた。
「ぎゃああぁぁっ!」
レディ・スィートが悲鳴をあげる。
やがてその影の手が離れる。その手には、レディ・スィートの眼玉が持たれていた。
「ゼグラ様! ――一体、何を……」
傍にいるテラー博士が、驚愕の声を洩らしている。
その手に持っている眼玉が、手の中に吸収された。
ゼグラが目を伏せる。と、その額の中央が縦に裂けた。
その裂け目が開き、そこからもう一つの眼が現れた。
ゼグラがにやりと笑う。
ゼグラがゲートに入り、俺の傍のゲートから姿を現した。
「次は君だ」
ゼグラはグリードに向かって歩いて行った。
「こ、これはどういう事だ!」
グリードはナイフを出すと、ゼグラに攻撃を仕掛けた。
が、その攻撃を影の手が止める。
「これは――気力が吸収されている!」
グリードが驚きの声をあげた瞬間、もう一方の巨大な手が、グリードの顔を掴んだ。
「ぐ――むぅ……」
「グリード!」
俺は思わず、声を上げた。
巨大な影の手でグリードを拘束したまま、ゼグラはグリードの胸に手を伸ばす。その手から、重力弾が発射され、グリードの胸に穴を開けた。
「ぐっ――が……」
影の手が頬を掴んだまま、もう一方の手でグリードのゴーグルを取る。その指が目玉に突き立てられた。
「ぐぁっ――が、が、が……」
グリードが断末魔の呻き声をあげ、やがてそれが消えた。
影の手は無造作にグリードの死体を放ると、その手には眼玉を持っていた。
眼玉は手の中に消え、ゼグラの額にもう一本亀裂が入る。
それが開くと、ゼグラの額に二つ目の眼が現れた。
「ど、どうしてですか、ゼグラ様! 何故、我々を!」
テラー博士が慄きの声をあげながら、後ずさりする。
ゼグラはその顔に美しいながらも凶悪な笑みを浮かべた。
「見ただろう? 私が望んだのは『殺した者の異能を奪う異能』だ。最初にレディ・スィートの気力吸収の力を奪い、それでグリードの魔力を吸収する力を奪った。嘘だと思うなら、君の魔法を使ってみるといい」
「ヒッ、ヒィッ!」
テラー博士が重力弾を放つ。が、その重力弾は、なんなく影の手に吸収された。
ゼグラは微笑んだ。
「君を最後に残したのはね、君が一番たやすいからだよ。君のテラー・クローも私のファントム『影の腕』の真似でしかないし、君の重力魔法は私が生み出した魔法だ。君は私の、劣化したコピーでしかない」
「だ、黙れっ! ま、まさか……最初から、我々を殺すつもりで転生させたのか?」
ゼグラが微笑った。
「無論だよ」
ゼグラが歩み寄ったのに対し、テラー博士が後ずさる。二人が俺の場所から離れていく。
そのとき不意に、声がした。
「わふ」
まさか。
「ロックなのか?」
俺は小さな声で囁いた。ハッハッと息を吐く声がする。
「ロック、俺の右腕を拘束している木を切ってくれ。頼む」
「わふ」