表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/143

4 事件検証を始めたら

「お前はスターチ家の恥さらしだ。今なら各方面にとりなして不問にしてやるから、おとなしく家に戻れ!」

「お兄様……」


 シイファは兄と呼んだ男を見ると、歯噛みをした。


「スターチ家のご令嬢、そろそろ我々を集めた本題に入ってもよろしいのでは?」


 ロイナート総隊長の言葉に、シイファは改まって口を開いた。


「申し訳ありませんが、もう少しお待ちください。もう一人、お呼びしてる方が到着なさいます」


 そう言った直後に、扉が開いた。その人物が入って来るなり、そこにいた全員が膝を折って身を屈める。俺もそれに倣って頭を下げた。シイファが頭を下げたまま声を上げた。


「レムルス王子、ご足労いただき恐悦至極に存じます」

「いいんだよ、シイファの頼み事なんて滅多にないからね。僕は嬉しいよ」


 そう答えたのは、まだ10代前半の少年だった。だが、その身に着けているもの、仕草、振る舞い。それが王族のもの特有の品を備えてる事は、俺でも判った。

 その後ろには男女の一組。どちらもすらりとした痩身だが、鍛え抜かれた雰囲気がある。王子の警護と思われた。


「みんな、これは非公式の場だ。立ち上がってくれ」


 王子の言葉に、皆が立ち上がる。シイファは続けて口を開いた。


「レムルス王子、此処にいるのは南域より来た旅人、キィ――ディモンです」


 俺の大門を、名前に合わせて変えたのか? 何故、そうする必要があるのかは、後で聴くことにするが。


「彼の者は母国にて、事件を調査するのを役目としておりました。つきましては王子も含め皆様に、彼の神父長殺しの調べをご覧いただき、正当なる裁きをいただきたいと臨んだ次第でございます」

「シイファ! 出過ぎた真似をするな!」


 シイファが兄と呼んだ男が、怒鳴り声をあげる。それに対し、王子が不機嫌な顔を見せた。


「よい、カリガム。余はそのキィ・ディモンの調べが見たい。ディモン、では始めてくれ」

「おおせのままに」


 俺は一礼すると、まずメイドの少女に訊ねた。


「まず確認したいんだが、君は夕方6時に食事を持ってきて、8時に食器を下げに来たとき、神父長の遺体を発見した。これに間違いはないか?」


 少女が頷く。俺は続けた。


「食事を持ってきた時には、神父長の顔は見ていない。扉の前に置いといてくれと言われたそうだが、その時の声は本当に神父長だった?」


 俺の質問に、少女の顔が強張る。全員の眼が少女に集中していた。


「あの……少し、お加減が悪いのかと…そう思いました」

「それは、どうして?」

「普段、神父長様は必ず直接お受け取りになり、『ありがとう、サリー』とお礼を言われるのです。わたし、それが嬉しくて…。けどあの日はそれがなく、声もくぐもった感じでした。それでわたしは、神父長様のお加減が悪いのかと思ったのです……」

「なるほど。では、神父長様の使った食器は下げたのか?」


 メイドのサリーは俺の問いに、初めて気づいたような顔をした。


「あ……いいえ」

「そうか。では、ゴミ箱に食事が捨てられているかもしれない。ないかどうか、確かめてくれないか?」

「判りました」


 サリーは答えると、小さな会釈をして走り去った。俺は残された一同を振り返る。


「さて、神父長が食事を摂ったかどうかが判らなくなりました。それを確かめる方法があります。――おい、運んでくれ!」


 俺はドアの外に呼びかけた。トッポとマルコが担架を運んでくる。二人はそれを床に置いて、シーツをはがした。


「ひっ!」


 カリガムが小さな悲鳴をあげる。それは神父長の遺体だった。


「遺体など持ってきて、どうしようというのだ?」


 ロイナートが厳しい表情で、俺に問うた。


「これから胃の内容物を調べます。心臓の弱い方は、見ないでください」


 検視官は胃の内容物を調べ、死亡推定時刻を割り出すことがある。最後の食事の時間が判っていれば、その消化具合で食後何時間で死亡したかが判るのだ。俺はヴォルガから借りたナイフを取り出した。

 と、その時、声が上がる。


「待て! 貴様、神父長様に何をするつもりだ!」


 声を上げたのは先刻、ニャコの目撃証言をした神父である。


「……遺体を傷つけるのは痛ましいことですが、これも調査に必要な事です。それに、傷は修復魔法で直してもらいます」

「そんな不敬な真似を認められると思うか!」

「調べなければ真実を知ることは叶いませんが?」


 俺はそう言って、王子の方を見る。王子が口を開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ