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6 妹が目覚めないままだったら

「それって彼らの言う『指導者』ね?」


 俺はシイファの言葉に頷いた。


「そうだ。そしてその『指導者』こそ、俺を殺した犯人だ」


 二人は息を呑んだ。


「そしてこの指導者が、恐らくさくらの転生にも関わっている。十五年前に転生の実験をしたが、それは恐らく失敗だったんだろう。さくらは赤ん坊として転生してしまった。ニャコ、お前は最初に会った時、『前はそういう感じだったけど、転生の儀が開発されて、自分の望む姿や年齢に転生できるようになった』と言ってたな」


 俺の問いに、ニャコが答える。


「そうだよ。多分、五年くらい前から、転生の儀の際に能動的に儀式者の霊体を送り込んで、『あなたの望む、あなたの姿で』って、相手に言う事が有効だって判ったの」

「赤ん坊として転生してしまったら、一から育てなければならず、人格も別に成長し、そしてさくらのように前世の記憶も有してない、というような例が多かったんだろう。さくらは試験的に転生させられたが、失敗だったんだ」


 俺は眠るさくらを見た。

 どれだけ、他人の手でその運命を翻弄されてきたのか。


 前世でひどい目にあわされ、ノワルドでも教団に洗脳されて育っている。

 こんな哀れな運命をたどらせるなんて、許されていいはずがない。


「……それにしても、目を覚まさないね」

「ね、この感じ――ニャコの時と似てない?」


 シイファが俺の顔を見て言った。


「ニャコが――自分の心の中に呪縛された時か」

「うん」


 シイファが頷いた。


「ニャコ、さくら――いや、シャルナの心の状態がどうなってるか判らないか?」

「ちょっと見てみる」


 俺たちは席を離れて、シャルナの傍に移動した。

 ニャコが眼を閉じて、シャルナの額に手をかざす。


「心が動いてない。普通、眠ってても心は活動してるんだよ。けど、それが感じられない」

「やはりか……。前の時のように、『魂封じの解除法』が必要なんじゃないか?」

「そうかもしれない」


 ニャコの答えに、俺は言葉を続けた。


「もう一度、ゼブリアット枢機卿を頼らなければいけないようだな」


 二人はそれに頷いた。


   *


 俺たちはシャルナを連れて、ゼブリアット枢機卿の処へ赴いた。


「この娘は知り合いの子なんだが……前に似たような状態になってしまったようなんだ。枢機卿の力をお借りしたいのですが」

「ふむ。……確かにそのようじゃな」


 ゼブリアット枢機卿は、小さな丸眼鏡の奥の眼を、興味深そうにこちらに向けた。


「この娘は、ディモン殿の知り合いの子とか? 母国の子かな?」

「……そうだ」


 嘘をつくのは苦手だ。だが、シャルナがゲートだと明かすわけにはいかない。


「前の時のように、この子の心に潜りたい。頼めるか?」

「ふむ、潜るのはディモン殿で構わんのじゃな?」

「ああ」


 枢機卿は三つ編みにした銀髪を揺らすと、ニャコへと向き直った。


「それじゃあニャコくん、霊力を貸してくれんかの」

「うん、判った!」


 シャルナをベッドに寝かせると、それを挟むように合わせ鏡を置く。その傍に椅子を置くと、俺はそこに座った。


「じゃあ、デイモン殿、この子の心音を聴くようなつもりで、頭を預けて」


 俺は言われた通り、身体を倒す。


「ニャコくん、わしがデイモン殿の霊体を取り出すから、霊力を放出して鏡の通路に送っておくれ」

「判った!」


 ゼブリアット枢機卿が、眼を閉じる。

 と、俺は自分が幽体離脱するのを感じた。その霊体が引っ張られ、俺は鏡の通路へ入り、シャルナの心へと潜った。


   *


 視界は、街を歩いている。

 知っている。これは駅から歩いて帰る道だ。歩くと結構かかるが、さくらはあの日、俺が5分遅れたばかりに歩いて帰ることにしたのだ。その日の記憶だ。


 歩いていると、向かいから来たバンが、横に止まる。 

 と、運転席から降りてきた男が、突如、視界の主――さくらを抱きかかえた。


「やめて! 何するの!」


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