4 心の扉を開いたら
「俺は大門錠一。お前は、大門さくら――俺の妹じゃないのか?」
少女が驚いた顔をしている。
「妹? お前…何を気持ち悪いことを言ってる?」
「お前は転生者で、転生前の名は、さくらなんじゃないのか?」
少女は顔をしかめた。
「なんだお前、気持ち悪いからやめろ。わたしはお前の妹なんかじゃない。わたしはシャルナ。さくらとかいう名じゃないし、転生者でもない」
俺は、黙るしかなかった。
シイファとニャコは、立ったまま俺たちの経緯を見ている。
その沈黙の様子に、逆にシャルナと名乗った少女が声をあげた。
「なんだ、お前たち! わたしを尋問するなり拷問したりするつもりなんじゃないのか! お前たち、腐敗勢力に教えることなど、一つもないがな!」
シャルナは強がった顔で、そう声をあげた。
まだ15歳くらいの少女だ。尋問や拷問の恐ろしさの意味を少しも判っていない。強がってるだけだ。本当は怯えている。
そんな事がすぐに見て取れるほど、少女は必死だった。
「――腐敗勢力とはなんだ?」
「お前たちのような、邪教の衆のことだ。自分の本質に眼を向けず、偽りの生を生きてる者たちの総称だ」
カルト宗教だ。俺はそんな事件に関わったこともある。
カルト宗教の信者たちは、その教えの見方で世界を見るようになっていて、一般の常識や価値観が通じない。この少女は、恐らく幼い頃からその教えを刷り込まされてきたのだ。
「そう両親に教えられてきたのか?」
「親は――いない。生みの親が子供を独占的に教育することが、そもそもの腐敗の始まりだ。わたしは教団の『教親』によって育てられたエリートなんだ」
教団が家族を丸ごと抱えこむシステムだ。このタイプのカルト教団は、一族の経済基盤を根こそぎ収奪する。
「えー、パパもママもいないの? それじゃ寂しいよお」
不意にニャコが声をあげた。シャルナが驚いたように、ニャコを見る。
「別に寂しくなどない! それはお前たちの、腐った価値観だ」
「けどさあ……パパとママに甘えられえるって、子供の特権なんだよ? 世界で一番、自分のこと愛してくれる存在なんだよ」
ニャコは寂しそうに微笑んだ。
シャルナはその言葉を聞くと、驚いた顔の後に沈黙した。
「お前が教団にいた事は判った。その本拠地を話してもらおう」
俺はシャルナに告げた。途端にシャルナは顔を上げ、俺の事を睨んだ。
「誰が話すものか!」
「いや、話してもらう」
俺はシャルナに近寄った。シャルナが一瞬、怯えの表情を見せる。
「やめろ……」
俺は躊躇する気持ちを振り切って、シャルナの肩に衝気を撃ちこんだ。
「うっ――」
シャルナが一瞬で昏倒する。俺は倒れそうになる身体を支えた。
「ニャコ、治癒してくれ」
「うん」
ニャコが来て、治癒術を施す。その掌から光を浴びているうちに、シャルナがうっすらと眼を開いた。
「ん……」
俺はシャルナの目の前にしゃがみ、掌に異能の鍵を出した。
その鍵をシャルナの胸に差し込んでいく。
「お前の心の扉を開く」
俺はそう告げると、意識を取り戻したシャルナを見つめた。
「ここは――」
シャルナが辺りを見て、呟く。そして俺の顔を見て言った。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
なに――
「ここ、何処? お兄ちゃん、何してるの?」
「え……」
「ちょっと、どういう事――?」
ニャコとシイファが驚きの声をあげる。
俺は驚愕のあまり、声も出なかった。
「この人たち、誰? コスプレイヤー?」
「さくら――お前は、さくらなのか?」
俺が振り絞った声に、シャルナはきょとんとした顔で応じた。
「そうだけど…… お兄ちゃん、なに、言ってるの?」
どういう事だ? 何故、こんなことが?
考えられるとしたら――
「俺の鍵が……記憶の封印を開いてしまったのか――」
「何言ってるの、さっきから――」
シャルナはそう言いかけて、自分の手に嵌められたディストレイナーに気が付いた。
「ちょっと……これ何?」




