3 妹の顔とそっくりだったら
「まさか……」
俺の心臓が、驚愕を隠し切れず脈を打つ。
髪が黒から栗色になっているが、その顔は妹のさくらそのものだった。
“キィ、どうしたの? 何かあったの?”
“…い、いや大丈夫だ。俺の居場所の、ざっくりとした方角だけでも判らないか?”
“王宮から北西の方、念話もギリギリ届いてる感じ。――シイちゃんの話だと、オレグラの森がその辺だって”
“シイファと一緒に馬車で迎えにきてくれないか”
“ん、判った”
ニャコはそう言うと、念話を切った。
俺はゲートを凝視した。
さくらだ。間違いない。どう見ても、さくらだ。
――だが、何故だ? 何故、さくらが此処にいる?
意味が判らない。
さくらは殺されたのだ、15年前に。
此処にいるはずがない。
しかし、眼の前にいる少女は、どう見てもさくらそのものだった。
しかもその姿は、15年前の当時のままだ。
本当なら、生きていたら30歳になっているはずのさくらが、15歳くらいの姿で目の前にいる。
俺は混乱した。
*
念話で連絡を取りながら、俺は迎えに来たシイファの馬車にゲートを連れて乗りこんだ。
「その子が……『ゲート』?」
シイファが驚いた顔を見せる。
「ああ。爆弾事件の方はどうなってる?」
「王子のところに入った連絡だと、ほとんどが回収されたみたい。二個だけ見つけきれずに爆発したけど、周囲に人がいなくて被害はなかったみたいよ」
もう12時を過ぎている。とりあえず、爆破事件は終息したと見ていいだろう。ゲートがこちらにいる以上、これ以上の爆破事件を起こすこともできない。
とりあえずは、爆破事件は警護隊側の勝利と言えるか。
「ね、その子を警護隊に連れてくの?」
ニャコがロックを抱きかかえながら、俺に訊いた。
「いや……このまま教会へ行ってくれないか」
俺はそう答えた。
このままこの少女を犯人の一味として引き渡す事に――ためらいがあった。
俺は刑事だ――なのに、犯罪者を庇おうとしている。のか?
自分でも判らない。
「着いたわよ」
シイファに声をかけられて、俺はゲートを抱えて教会へ入った。
リビングのソファに寝かせる。少女はまだ目覚めない。
「ね、キィ。もういいんじゃないの?」
俺はシイファの声に、我に返った。
「どうしたの? 馬車に乗ってから、ずっと黙ったまんまだよ。何かあったの?」
シイファと――ニャコも、俺を心配そうな眼で見つめている。
こいつらには、嘘はつきたくない。
「……この子が…俺の妹、さくらにそっくりなんだ」
「え? 妹って、リワルドの?」
俺はニャコの声に頷いた。
「けど……妹さんって、大分前に亡くなったのよね?」
「ああ、15年前に監禁されて殺された。この少女は、その当時のさくらの姿に瓜二つだ。少し髪の色が違うが……後はほぼ同じだ」
「そんな事って――一体、どういう事なの?」
シイファの問いに、俺は馬車の中で考えていたことを口にした。
「考えられるのは、さくらもノワルドに転生した、という事だ。しかも俺と違って、恐らく赤ん坊として転生した。それだけが、この現象を説明できる答えだ」
「自然の転生現象があるて聞いてるけど――それって事ね?」
「自然かどうかは――まだ判らない」
俺がそう答えた時、少女が少し声をあげた。
「ん……」
少女が眼を開く。上半身を慌てて起こし、周囲を見回して俺たちを見つける。そして自分の手にディストレイナーがはまってるのを見つけると、俺たちを睨んだ。
「わたしは――捕まったのか?」
「そうだ。お前が『ゲート』である事は判っている」
俺はそう言いながら、少女の前に膝をついて目線を合わせた。
「お前……俺が誰だか判るか?」
「お前はキィ・ディモン。わたしたちの敵だ」
少女は憎々し気に俺にそう言った。
俺は堪えきれずに、少女に問うた。




