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10 グリードが独白をしたら

 俺は最後にグリードに言った。


「倉田剛志――実はお前に関しては調査ができてない。自衛隊内部が情報を隠していて、お前がどういう状況に置かれていたかが外部から捜査できないからだ。倉田剛志、お前に一体、何があった?」


 俺の言葉に、グリードが構えていたナイフを下ろす。

 不意にグリードは、一つ目のゴーグルを外した。

 その素顔が露わになる。精悍な顔つきの男だ。


「イラクに秘密作戦があり、俺たちは特殊部隊を編成して現地に向かった。現地では米軍のサポートが任務だったが、戦闘が予想されたため俺たちの任務は米軍に編入する形で遂行された。そして、現地では実際に戦闘に巻き込まれた。俺たちはゲリラからの襲撃を受け、被害も受けた。帰国後も、その作戦の事は決して口外しないように言われていた。それは構わない。覚悟の上で行ったからな。


 ……だが、同じ部隊にいた俺の仲間――いや俺の友の一人が、帰国してからおかしくなった。PTSD(精神外傷後ストレス障害)だ。小さな物音に怯えたり、幻覚や幻聴を見たりするようになった。そいつはある日、自殺した。――帰国後、精神状態に異常があると俺が訴えていたにも関わらず、隊では充分なケアを受けさせることもなく放置していた。俺はその責任を上官に問うた。だが、隊ではそいつが訓練の過酷さに耐えきれず自殺したと発表し、俺の問いは黙殺された。いや――黙殺じゃなかった。


 その後、俺は上官から執拗なパワハラを受けるようになった。訓練を人の三倍やらされたり、皆の前で高圧的に叱責されるなどしょっちゅうだ。格闘訓練であからさまな暴力を受けるに及んで、それでも俺は自身を鍛えてそのパワハラに耐えようとしていた。けど俺はある日、聞いたんだ。上官二人が俺を追い込んで、自殺させようとしているつもりである事を。


 …俺は国を守るために、自衛隊に入ったんだ。だが、それが何故、こんな目にあわされる? 俺が憧れ、目指したのは、そんな組織だったのか? 俺はもう何もかもが嫌になり、実際に銃を口にくわえて引き金を引く寸前だった。しかしその時だ。『指導者』の声を俺は聞いたのさ」


「グリード、やめなさい!」


 テラー博士が制止の声をあげる。俺はグリードに問うた。


「『指導者』? それは――邪神教団ヌガイラムの者だったんだな。 それは誰だ?」


 俺の問いに、グリードは軽く笑った。


「それを教えるつもりはない。俺はこの異世界で、指導者の下で存分に力を発揮する機会を得た。俺は今度こそ……意義のある戦いをする」


 グリードはそう言うと、ナイフを持つ手を再び上げた。

 俺は三幹部に言った。


「何故だ? お前たちはリワルドに絶望して転生した。せっかく得た第二の人生で、もっと良い生き方ができるはずなんじゃないのか? 何故、犯罪に手を染めようとする?」

「あたしは今度は、男たちを従えるんだよ!」


 突然、レディ・スィートが声をあげた。

 一つ目の仮面を脱ぎ捨てる。と、そこには予想にたがわない美貌が現れた。


「高橋絵美はいつも男からグズだのブスだのと言われてきた。何もしてないのに汚いもののように扱われ、蔑まれて笑われた。男たちにとっては、女は美しさだけが重要な価値だ。それに見合わなければ、何を言ってもいいと思ってる。人をダシにして笑って、それがどれだけ人の心を傷つけるか――そんな事を考えたこともない、想像力の欠片もないクズ野郎どもに、高橋絵美の人生は台無しにされた! 

 だがね……あたしはもう、男たちに傷つけられたりしない。

 知ってるかい? カマキリのメスはオスを喰うんだ」

 

 レディ・スィートは妖艶な笑みを浮かべた。


「あたしはレディ・スィート。甘美な夢を見せてあげるよ!」


 体長30cmほどもあるカマキリが、群れになって現れる。レディ・スィートのファントムだ。

 ニャコの豹のファントムが、その尻尾でカマキリの群れを払う。が、その一部が羽を広げ、レムルス王子のいる場所へ飛んでいった。


「あ、王子!」


 王子に数匹のカマキリが襲いかかろうとした時、突然、飛来して来た光の鞭がカマキリの群れを叩き潰した。


「王子は私がお守りします!」


 そこに現れたのは、アリアン・スレイだ。アリアン・スレイは退出するように見せかけて襲撃を誘っただけで、実はずっと王子の警護をしていたのだ。


「アリアン、頼む」


 俺はそれだけ言うと、三幹部に向き直った。


「お前たちの異能(ディギア)は、それぞれ自分の主力に相性が悪いものを無効化するような力だ。つまり一見すると弱点がないように見える」


「それが判ってるなら、我々に勝てるはずもないでしょう」

「それがお前たちの弱点だ」


 俺はそう言ってやった。


「つまりお前たちを主力で上回ればいい、というだけの話だ」


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