6 爆弾の解析をしたら
「……やはりか」
俺は思わず呟いた。
「どうした、ディモンくん?」
「新たな爆破予告が出されたらしい」
「なんだって?」
セレスが驚きの声をあげる。
これが政治的テロなら、犯行声明が出されるだろう。その上で新たな犯行予告をしてくる。俺はそこまでは予想していた。
俺はレイラに念話した。
“俺とセレスは、こちらの爆発物を回収してそっちへ戻る。この爆発物が、サンプルになるだろう”
“判ったわ、予告の詳細はもどってからね”
念話でも色っぽいレイラの声が途絶えると、俺はセレスに言った。
「俺たちは爆発物を回収して本部に戻ろう。爆発物の解析は――あんたを頼りにしてる」
「うむ。了解だ」
セレスは真面目な顔で頷いた。
警護隊本部に戻ると、既に他の隊長たちはいなかった。
ロイナートが俺に、一枚の紙を差し出した。
「子供を使って、これが警護隊本部に届いた」
俺は紙を手に取る。
『中央広場の爆破は、我々にとってほんの小手調べに過ぎない。
我々の力を甘くみないことだ。
我々はまだ力を持っている。
今日の正午までに、昨日、君たちが逮捕したデスコルピオ、およびブラック・ボアの構成員、全員の釈放を要求する 』
俺は一読すると、ロイナートを見た。
「どうするつもりだ、ロイナート?」
「テロリストの要求に応じるつもりはない」
「正午といえば――あと二時間ほどだ。正午に新たな爆破を起こすつもりだろう。しかも、一ヵ所とは限らない」
俺の言葉にロイナートは頷いた。
「ああ。各隊長たちには、隊員総出で人が多く集まる場所を中心に、爆発物を探すように言ってある。――セレス、四番隊には副隊長に既に指示を出してある」
ロイナートは傍にいたセレスにそう言った。セレスは頷く。
「チルルに任せておけば、そちらは大丈夫です。ボクたちは、この爆発物を回収して来たんですが」
セレスはそう言うと、回収した爆発物の残骸をテーブルに広げて見せた。
「爆発を起こしたのは、この中央部にセットされたニトロニアという物質ですが、扱いが難しいのであまり使用されてません」
「扱いが難しいとは?」
俺の問いに、セレスが答える。
「ニトロニアは通称『魔爆硝石』と言われるもので、魔力を感知すると爆発するものです。魔導士が魔法の威力を上げる武器として、大戦時にガロリア帝国が武器使用を試みましたが、扱いの難しさを考えて放棄されたのです」
「普通に魔法使ったほうが早い、という事か」
「そう! しかしボクの魔動機人ブラッカーならば、この問題もクリアできる可能性がある!」
思わず握り拳を作って声を上げたセレスに、ロイナートが冷静に声を上げた。
「それはまた別の機会に報告しろ。この爆発物は、その扱いの難しい物質をどうやって実用化したのだ?」
「は! すいません、つい興奮を…。これが中々、ナイスなアイデアの代物でして。まず魔動筒を仕掛けに使ってるわけですが、これが揮発しながら微細な魔力を放出し続けます。その魔力を受けると、液体状の媒介が一つの筒内に流れ込む。これがいっぱいになると、魔力は爆発物に注ぎ込まれるわけです。この媒介液の量で、狙った時間で爆発する装置が作れるわけです」
セレスの説明に、ロイナートが深く息をついた。
「時間をおいて爆発する装置だと……? 聴いたこともない」
俺はふと思った。
このノワルドでは魔法があるから、火薬の発達の必要がなかったのだろう。当然、爆弾や時限装置なども作られない。拳銃もなかったし、第一、弾丸の威力より気力で打つ方が威力がある世界だから、銃も発達しなかった。
「時限装置、というものだな。つまりこの爆弾は、あの時間――9時頃だったな――に、爆発するようにセットされてたわけか」
「そういう事になる」
俺はセレスに訊いた。
「そして正午に爆発する時限爆弾が幾つか判らないが、仕掛けられてるわけだな。セレス、この爆発の威力は――力場魔法で抑え込める程度のものなのか?」
「ニトロニアの量から考えると、中級魔導士以上ならば大丈夫だ」
俺はセレスの話を聞いて、頷いた。