5 身体回復を試みたら
起こった事件を後から解決するしかないのか? いや、俺の眼の前で、誰も死なせないために、俺は刑事になったんじゃないのか?
俺は何もできないのか?
目まぐるしい思考の後、俺は傍に来たセレスに言った。
「セレス、身体回復の技で、知ってる事を何でもいい、教えてくれ」
そうだ。レスターは俺たちを身体回復した。原理的には気道士は身体回復ができるはずだ。
セレスが眼鏡の奥の眼で、真剣な眼差しを見せる。
「隊員に聞いたことがあるが、身体回復は気力により細胞を活性化させ、自己復元力により、自身を修復させる方法だそうだ。基本は自身の身体を回復させることで、他人の身体を回復させる時は、自分の身体の一部のように他人の身体を把握し、気力をそこに循環させるイメージなのだという」
セレスの説明に、俺は感謝した。
「ありがとうセレス、やっぱりあんたは、デキる女だ」
俺はそう言うと、まずもげそうになっている少女の手首をとった。
呼吸で気力を高め、自身の細胞をまず活性化させる。
次に、手に持った女児の腕を、自身の一部のように気力を通すイメージを持つ。
「お、ディモンくん! 回復してきたぞ!」
セレスが声を上げた。
俺の手から放たれるぼんやりとした白い光が、女児の腕を再生している。うまくいってる、身体回復に成功している。
とれそうになっていた腕は、元通りにつながった。
「…よし、次はこの胸の破片を取り除きながらの回復になるが、セレス、除去を頼む。できたら手で破片を除去しつつ、力場魔法で止血しながら除去してもらいたい。できるか?」
「難しそうだが――やってみる」
セレスは女児の胸に突き刺さっている大きな破片に手をかけた。俺はその傍から、身体回復の気力を放つ。
セレスが破片をそっと動かす。どっと出血してくるが、セレスの指輪が光る。止血がなんとかうまくいってるらしい。
俺は手を真っ赤に染めながら、穴の開いた女児の胸に気力治療をあて続けた。セレスもずっと止血をしている。
やがて少しずつ、傷がふさがっていく。
しばらく治癒すると、胸の穴が完全にふさがり、女児の顔に赤みが戻って来た。
「……よし、もう大丈夫だろう」
「やった! やったぞ、ディモンくん!」
セレスは嬉しそうな声をあげ、俺を見た。眼鏡の奥の綺麗な瞳が、微かに潤んでいる。
「マーヤ! マーヤ、大丈夫なの?」
「…うん、ママ。だいじょうぶ」
女児はまだ体力が回復してないながらも、にっこりと笑った。
「お母さん、貴女も怪我をしてる。次は貴女です」
俺はそう言うと、頭を怪我してる母親を回復した。
「凄いな、ディモンくん。身体回復をぶっつけでできるようになったんだな?」
セレスが声を上げたのに対し、俺は答えた。
「ああ。あんたのおかげだ、セレス。あんたが身体回復のコツを教えてくれなければ、俺もできなかったろう。あの子供は俺が治してる間に失血死する可能性もあった。あんたが止血してくれなければ危なかったろう。助かったよ、セレス」
俺が礼を言うと、セレスは顔を赤らめて少しうつむいた。
「ボ…ボクはなにも――」
「他に重傷者はいないか、見てみよう」
「あ、うん、そうだな」
俺はその場の負傷者を見て回り、とりあえずあの女児が一番の危険状態だったことを悟った。しかし大きな怪我をしてる者もあり、その治療に俺は専念する。
その中には、アイス売りの男もいた。
「大丈夫か?」
「オレは大丈夫だけど――店が…」
男が苦々し気な顔で、露店を見る。俺が消火した露店の一つで、店は半焼していた。
「一体、何が起きた?」
「オレにも判らねけど――急にピカーッと光ったと思ったらドカン。って、轟音がして、俺は吹っ飛ばされた。で、店が燃えてたんだよ」
「そうか」
どういう爆発物かは判らないが、かなり強烈なもののようだ。
しばらくして、セレスが声をあげた。
「こっちだ! ――ディモンくん、治療班が到着したぞ」
「そうか。よし後は任せよう」
俺はそう言うと、レイラに念話した。
“レイラ、今、治療班が到着した。負傷者は23名いるが、死亡者はいない”
“そう、よかったわ。けど、今、大変な事が起きたの”
“どうした?”
“爆破予告が出されたわ”
レイラの言葉に、俺は眼を細めた。