2 脱出作戦を決行したら
少しの時間の後、俺たちは配置についた。
俺は檻の中から、思いっきり叫ぶ。
「俺を此処から出せっ! 俺は無関係だ! 俺を出さないのなら、俺の母国が黙ってないぞ! 俺を此処から速く出せっっ!」
俺の渾身の怒鳴り声に、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、トッポとマルコの二人組だ。俺は入ってきた二人に怒鳴った。
「おいっ! 俺を此処から出せ! さもないと、ただじゃすまないぞ!」
二人は顔を見合わせた後、俺の方を見てにんまり笑った。
「へへ、そんな檻の中にいて、ただじゃすまないだって? どうすまないんだよ?」
俺を小馬鹿にするように、二人は俺の檻の前へ来て笑う。俺は両手を上げた。
「ん? なんの真似だ、そりゃ」
俺の向かいにある檻から、シイファとニャコが音もなく檻から出てくる。と、二人はトッポとマルコの二人に、背後から力封錠をかけた。
「――え、あ!」
「うわ、こ、これは?」
二人は気づいたが、もう遅い。二人の首に、しっかりとリストレイナーがはまっている。俺は檻からゆっくりと出た。
「これでお前たちは無力化された訳だ」
「え? 檻から出てる? お前たち、どうやって?」
「次はあんたたちが入る番だかんね」
ニャコはそう言うと、両手を前にいるトッポに向けた。トッポの身体がぐんと引かれ、背後の檻の中に入り込む。シイファが右手に持った杖を向けると、マルコの丸い身体が檻のなかに転がりこんだ。俺はすかさず前に出て、両手を檻の鍵穴に向ける。左右の手から出てきた光の鍵が、檻の鍵をかけた。
「あ、くそ! 此処から出せ!」
トッポが檻を開けようとしても、完全に鍵がかかっている。
「キィの能力は、そんな事もできるんだねぇ」
「……お前たち、手も触れずにこいつらを閉じ込めたな」
俺の言葉に、シイファが応える。
「同じように見えるかもしれないけど、原理は別。ニャコは霊力を念動力に使った。あたしは魔法の力場を使ったの。本来は魔法の詠唱が必要だけど、魔晶石に刻印された法式で詠唱なしに発動できるから、同じように見えたの」
「なるほどね。――ところで、お前たちに訊きたい」
俺の声を聴いて、トッポとマルコが眼を見開いた。
「ヴォルガってのは、どんな男だ?」
トッポとマルコは顔を見合わせると、トッポが口を開いた。
「ヴォルガ隊長は、厳しいところもあるけれど、平民出身のおいら達を一人前に扱ってくれる優しい隊長だ」
「他の警護隊は貴族出身者が多いから街で飯なんか喰わないが、ヴォルガ隊長は街の顔なじみで、みんなに好かれてるし頼られてる。おれっちたちは、ヴォルガ隊長の下だから働けるんだ」
マルコが必死の表情で続けた。やはりな。
「そうか…いい男なんだな。――おい、シイファ」
「なに?」
「こいつらが声を上げないように見張っててくれ」
「じゃあ――重圧」
そう言うとシイファは杖を二人に向けた。と、途端に上から重しを乗せたように、二人が地面に這いつくばる。
「ギュウ……な、なんで――」
「おとなしくしててくれ。ニャコ、ヴォルガは今、何処だ?」
「変わらず控え室にいるけど」
「俺が今から行って、奴を制圧する。それが終わったら出てきてくれ」
俺はそう言って部屋を出ようとした。と、ニャコが声を上げる。
「あ、ヴォルガがキィに近づいたら、知らせようか?」
「そんな事もできるのか?」
「念話もできるよ! なにせニャコは、特級巫女だからね!」
得意げに胸を張るニャコに、もう突っ込む気もなくなっていた。
「…それで、どうしたらいいんだ?」
「ニャコの絆帯を受け入れて」
ニャコが人差し指を光らせて、俺の額へと触れる。その瞬間、何かが入った気がした。
「…これ、俺の心の中まで読まれるんじゃないのか?」
「ううん。念話できるだけ。リンクを切りたいときは、そっちから切れるし。じゃあ、呼びかけてみるね」
その瞬間、俺の脳裏に声が響いた。
“聞こえる?”
“ああ、聞こえる。なるほど念話か”
どうやら俺の心まで読まれることはなく、聞かせようと思う声だけを届けられるようだ。
「キィ、これ持って行って。もう、あなたにあげるから」
シイファが、火球の指輪を差し出した。俺はそれを左手の小指にはめると、ドアを開いた。




