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9 転生者の転生前を考えたら

「あ」


 俺の問いの答えに気付いたシイファが、思わず声を洩らした。


「……前もって何の力を得るかを意識して、リワルドで死を迎え、ノワルドに転生させてもらう――」

「そういう事だ」


 あまりの話に、二人は少し呆然となっていた。

 俺は話を続けた。


「状況証拠からだけ考えた俺の推理はこうだ。邪神教団ヌガイラムは、なんらかの目的があって三人の転生者を欲した。三人の能力はこのノワルドの原理に基づいていて、それが存在しないリワルドで意識するのは難しい。恐らくだが、三人はノワルドの知識を、生前から持っていた」

「どうやって?」


 シイファの問いに、俺は答えた。


「お前たちが俺の前に姿を現しただろう?」

「異世界観覧の魔法……」


 俺は頷いた。


「そうだ。そうやって交信をし、リワルドで死んでノワルドで転生する事を了承する。あるいはだが、三人はそもそもノワルド人で、リワルドに渡った可能性もある」

「異世界渡航…? それは未だに、記録にないけど」


「あくまで可能性の一つだ。有力なのは、三人がリワルドの現実を捨てて、転生することを選択した可能性だ。連続殺人犯、黒須摩実也が三人を殺したことは間違いない。つまり黒須摩実也は、ヌガイラムの指示通りに動いたということだ」


 シイファが考えながら、口を開いた。


「そのクロスって人が、ノワルド人だったか――あるいはヌガイラムに操られたか…って事よね」


 さすがシイファだ、飲み込みが早い。


「ただ判らないのは、何故、黒須が殺したかという事だ。三人に接近してるなら、それぞれに自殺させればよかったんじゃないか?」

「あ、自殺だと転生できないんだよ」


 俺の疑問に、ニャコが答えた。


「転生っていうのは、普通だと死んだら拡散しちゃう幽子が、なんらかの偶然や念の強さで分解されなかった事で起きる現象なんだ。分解されなかった霊体が、そのまま新たな肉体を得ちゃう事で、転生が発生する。自殺するって事は、その霊体の一体性に固執してないから、分解されて拡散されちゃうんだよ」


「おお…。まるで特級巫女みたいな説明だ」

「まあねー、ニャコは特級巫女だから! …って、今、ニャコ褒められてないよね?」


 ニャコのツッコミは置いといて、俺は話を続けた。


「ちなみに倉田剛志以外の二人は、高橋絵美、寺崎統(とう)という名だ。寺崎はテラー博士に少し面影が似ている。名前も近いから、恐らく寺崎がテラー博士だろう。しかしレディ・スィートと高橋絵美は、まったくの別人のようだ」

「どう違うの?」


 シイファが訊ねた。


「レディ・スィートはナイスバディだったが、高橋絵美はひきこもりのゲーマーだった。冴えない容姿で、運動不足と不健康な生活で太っていた」

「そうなんだあ」


「しかし、自身の望む姿に転生したと考えると、むしろ倉田や寺崎の方が異例のような気がする。現実の自分の姿に、愛着があったんだろう」

「にゃるほどねえ~」


 ニャコが感心したように腕を組む。どうも緊張感に欠ける奴だ。


「しかし俺は、もう一人転生者がいると考えている」

「え? 誰?」


 俺はニャコの問いに答えた。


「テラー博士が呼んでいたんだが、『ゲート』という奴だ」

「あの、三人が急に現れたり消えたりするけど、あの空間の歪みを作ってる奴ね」


 俺はシイファに頷く。


「そうだ。最初は魔法かと思っていたが――どうもあれは異能の感じがする」

「あたしも同感だわ。あんな空間魔法、聞いたことない。それにあたしだって、狙った場所に自由に行き来できる穴を作るなんて無理だし」


 もう特級魔導士に近いと言われたシイファの言葉だ。説得力がある。やはりあれは、非常に特殊な現象だ。


「軍人の倉田が、黒須のような素人に殺されたことを、俺はリワルドにいた時から不思議に思っていた。しかし、納得済みで殺されたと考えると、つじつまがあう。黒須と、黒須に殺された三人――。この四人を改めて調べることで何か判る気がするんだが、資料は全部リワルドだ。そこでお前たちに頼みがある」


「何?」

「俺をリワルドに行かせてくれ」


 俺の言葉に、二人は真剣な眼差しで答えた。


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