8 三幹部の正体が判ったら
「――キィ! ねえ、キィってば!」
俺はニャコの声に、我に返った。もうアイスはなくなっていた。
「あ…どうした?」
「もう……事件のこと、考えてたんでしょ?」
シイファが呆れたように、俺に言う。
「まあ、そうだが――副神父長のキース・ドラルデ。あいつはヌガイラムの人間だったんじゃないかと考えていたんだ」
「えぇ!」
ニャコが声をあげた。
「そ、そうなの?」
「連続殺人事件の事をニャコに頼まれて、殺された神父長は犯人に接近していた。連続殺人は、今のところテラー博士が真犯人だった可能性が高い。神父長は真実に近づき、それを隠蔽するために副神父長が口封じをした。そう考えると、つじつまがあう」
俺の説明に、シイファが口を開く。
「最初からあたしたちは、この事件に巻き込まれてたってことね。けど、じゃあ神父長様は、何故、リワルドを覗いていたのかしら?」
シイファが口にした問いに、俺の脳裏に閃くものがあった。
「そうだ!」
「わあ! なんだよ急に。びっくりするじゃん、キィ!」
「……想い出したぞ」
そうだ。俺は思い出した。シイファが俺に問う。
「想い出したって、何を?」
「グリードの正体だ」
俺は、二人に言った。
*
俺たちは教会に戻ってきていた。
「なんで、わざわざ帰って来たの? その場で話せばいいじゃん」
そう言うニャコに、俺は言った。
「事は転生に関わる話だ。あまり外部に聞かれない方がいい。…それに、俺も帰るまでに少し頭を整理したかったんだ。とりあえず、落ち着いて話そう」
俺はそう言いながら、コーヒー豆を挽き、コーヒーを淹れた。
シイファは自分でミルクを少し注いだが、俺はニャコのためにホットミルクも沸かしておいた。ニャコにはカフェ・オ・レを作ってやる。
余談だが、カフェ・オ・レはコーヒーとミルクを1:1で淹れたもの。カフェ・ラテは、エスプレッソとミルクを1:4で淹れたものだ。俺がコーヒーを淹れるようになって、二人とも自分の好みの飲み方をするようになったのだ。
「…それで、グリードの正体って?」
シイファがカップを傾けながら、俺に訊ねた。
「倉田剛志――という、リワルドの人間だ」
「え! リワルドの人なの!?」
ニャコが驚きの声あげる。その口の周りに、ミルクの白髭ができていた。俺はその様子に、思わず苦笑を洩らした。
「お前、ほんと緊張感ないな。白髭じいさんだ」
「そんな事言ったって、驚くじゃん!」
口を拭きながら抗議するニャコに、俺は話した。
「確かにな。俺も最初は、誰か思い出せなかった。だが間違いない。あれは倉田剛志、リワルドの自衛隊員――軍人だ」
シイファが、黙ったまま眉を寄せる。
「そして、俺が殺された時に追っていた連続殺人犯、黒須摩実也に殺された三人のうちの一人だ」
「え……?」
ニャコが呆然として、声を失う。シイファは、厳しい表情で俺を見つめた。
「確かなの?」
「ああ、間違いない。つまりグリードは、俺と同じ転生者だ」
ふう、とシイファが息をついた。
「そう考えると、グリードの魔法を吸収する能力の意味が判る。あれは異能だったのね」
「十中八九、間違いないだろう。そしてレディ・スイートの気力吸収、テラー博士の霊力削除もディギアだろう。つまりあの三人は転生者で――恐らく、黒須に殺された三人だ」
俺がそう言うと、その場に沈黙が降りた。
それを破って、シイファが口を開く。
「一体……なんで?」
「ニャコ、お前が俺を転生させる時、なんて言った?」
俺はニャコに話を振った。ニャコが慌てて、口を開く。
「え~と…“あなたの望む、あなたの姿で”」
「それだ」
「えぇっ? これって、転生の儀の時に、必ず唱えるおまじないみたいなもんだよ?」
「いや。お前のその言葉に導かれて、俺は自分が一番よかった17歳の姿になり、そして刑事として一番欲していた能力、『鍵』と『錠』を手に入れた。俺の異能は偶然得た力だが――これを意図して欲したら、どうする?」




