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5 邪神教団の話を聞いたら

「そうよ」


 ベロニカは微笑んだ。シイファの眼に、少し涙がたまる。


「あたし……『貴女は少し、私から離れなさい』って言われた時、――先生から見放されたと思ってました。きっと、もう伸びしろがない、あたしに落胆したんだって……」


「そんな訳ないでしょう? 貴女はとっても、才能のある子。それに頑張り屋。けど、いくら頑張っても壁が壊せない時ってあるの。それには環境を変える事が必要だと思っただけよ。――けど、王子の教育係とは別の方向で、貴女は自分の力を解放したみたいね」


 ベロニカはそう言うと、シイファに微笑んだ後に、俺の方を見た。

 シイファは少し顔を赤らめて、俺をちらと見る。なんだ?


「まあ、それはいい事でした。今、貴女の力は、かなり特級魔導士に近いところまで来てると思いますよ」

「本当ですか?」


「ええ。基礎力が上がってるから、後は法式の理論理解を深める事が必要ね。必要な時に此処に来て、私の図書室を好きに使うといいわ。もう直接貴女に教えることはないから」

「……いいんですか?」

「もちろんですよ」


 ベロニカが微笑んだ後に、シイファは頭を深々と下げた。


「ベロニカ先生、ありがとうございます!」

「シイちゃん、よかったね」


 ニャコが嬉しそうに、シイファに言った。


「それにしてもシイファはともかく、何故、ニャコもベロニカ先生の知り合いなんだ?」

「え? シイちゃんが勉強してる時に、遊びに来てたんだよ」


 俺の問いに、なんでもないようにニャコが答える。


「先生のうちの中庭って、面白いんだよ~。なんか知らない魔道具とかもあってー、宝物屋敷みたいだったの!」


 だったの! …じゃなくて。いや、シイファからしたら、人が真剣に勉強してるのに、傍で遊んでるニャコを見てどういう気持ちだったか――。


「シイファ、苦労してるな、お前」

「判ってくれた!?」

「なに、それ。どういう意味?」


 俺たちの話に微笑んでいたベロニカが、口を開く。


「それで、今日はなんの話があるのかしら?」

「そうだ、先生、これを見てください」


 シイファに眼で促され、俺は眼玉を取り出してテーブルに置いた。


「……それは?」

「エザイ、というもののようです。これについて、何かご存知ないかと思い、先生にお尋ねしようと思ったのです」


 俺の答えに、ベロニカは少し考えると、席から立ち上がった。

 手の中に、ペンサイズの短い魔法杖をが出現する。


 それを振ると、ドアが勝手に開き、そこから一冊の本が飛んできた。本はテーブルの上に乗ると、頁をめくった後に、止まる。

 そこには、眼玉に蛇の尻尾がくっついたような挿絵が載っていた。


「これだわ! 先生、これは?」

「邪神教団『ヌガイラム』の使っていた霊具、のようね」

「邪神教団?」


 俺はベロニカに眼で訊ねる。


「ええ、邪霊神ヌガ=ヒを信仰する教団ね。その歴史は相当に古いわ。降天歴144年にはヌガ=ヒが出現し、神剣士サガが聖剣エルムを持ってこれを倒したとある」


 今は降天歴1015年。千年近く前の話だ。


「それは…神話の話ですよね?」

「それだけじゃないわ。666年にもヌガ=ヒが復活し、大勇者ロックレイが、光霊剣アークライザーでこれを倒したという記録がある。これは歴史的な事件で、このエザイという目玉は、その時、邪霊神ヌガ=ヒを復活させようとした邪神教団の教徒たちが使用したと載ってるわ」


 邪霊神? しかし俺はここで、根本的なことに気付いた。


 この世界(リワルド)で信仰されてる神って何だ? ニャコが巫女だと知ってた割りに、その根本的な信仰の元を知る機会がなかった。


 と、ベロニカが俺に微笑む。


「キィさん、貴方、転生者(リィンカー)なんでしょう?」


 俺とシイファは、驚きで目を合わす。ニャコは明るく口を開いた。


「そうなんだよ! さすがお婆ちゃん!」

「おい!」


 俺は思わず声を上げた。シイファが息をつく。ニャコは口を尖らせて言った。


「だって、本当の事なんだから、仕方ないじゃん」

「それはそうだが……」


 俺がシイファを見ると、シイファは頷き、ベロニカに言った。


「先生、ニャコが一人で転生させたんです」

「え! ニャコちゃんが、一人で!」


 ベロニカの線の眼が少し開く。よほど驚いたらしい。

 やはり、相当に凄い事のようだ。


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