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3 魔犬が呑気な奴だったら

「眼玉の組織のことは、謎のままね……」


 シイファは顎に指をあてて、息をついた。


「判ってるのは幹部と思われる三人だけだ。まず、魔力を吸収するグリード。こいつは気力使いだ。そして気力を無効化するレディ・スィート。こいつは本人はカマキリのファントムを操る霊術士だ。そして最後に現れたのがテラー博士。こいつは霊体を斬り裂く爪を持っている。そして本人は魔導士だ」

「それぞれ、自分の弱点を補強する能力を持ってるってことね。けど、あんな能力――聞いたことがない」


 シイファの言葉に、俺は言った。


「恐らく、異能(ディギア)だろう。――俺と同じくな」


 ニャコとシイファが、眼を見張る。だが、二人とも驚いた様子はない。薄々、そう感じていたようだ。ニャコが口を開いた。


「ってことは、あの三人はキィとおなじで、転生者(リィンカー)ってこと?」

「確証はないが、その可能性が高い。眼玉の組織は、意図的に転生者を作ってる可能性もある。シイファ、前にガロリア帝国が、そんな実験をしてた、っていう話をしてなかったか?」


 俺の問いにシイファは思い当たったようで、真面目な顔をした。


「……したわ。まさか、あの三人は、帝国からの工作員ってこと?」

「――か、帝国の技術を持ちだして作った組織の人間、という可能性が高いと思う。ニャコの故郷のレネ村虐殺事件は、最初、ガロリア帝国の仕業かと思われたが、ニャコの記憶により実行犯は闇ギルドの仕業と判った。しかし目玉の組織が帝国の一部なら、そこが闇ギルドに依頼したとも考えられる」

「そんな昔から――目玉の組織が動いてたの…?」


 ニャコが呆然と呟いた。その愕然とした様子に、場が沈黙に包まれた。と、不意に空いた椅子にロックが現れる。


「わふ」――自分を指さす。

「オレも、オレも――って、メシ食うんじゃないんだぞ、ロック」

「くうん」


 俺の声にがっかりした様子で、ロックは椅子から降りた。


「ロックは、呑気だなあ」


 ニャコが苦笑し、少し空気が和んだ。俺は話を続ける。


「最後に現れたテラー博士には、注意すべき点が二つある。俺は昨日、チルル副隊長の様子を見に行ったが、突入の一件の事をおぼえていなかった」

「あ……霊体を傷つけられたからだね」


 ニャコの言葉に、俺は頷いた。

  

「そうだ。奴は記憶を消せる。その事で思い当たるのが、双子のメイド、花屋のダグ、鍛冶屋のテオのいずれも、眼玉の組織のことは全く知らず、自分が眼玉を埋め込まれたことすら覚えてなかったことだ。心の扉を開いて話しているから、嘘はつけない。となると考えられるのが――」

「テラー博士に記憶を消された…ってことよね?」


 シイファの言葉に俺は頷く。


「そして、もう一つ。奴の使う重力弾の傷跡は、被弾した者に大きな穴を開ける。あれは――俺が殺された傷と、ほぼ一致するものだ」

「テラー博士が、キィを殺した犯人ってこと? けど、そんな事できるのかな?」


 ニャコの問いに、俺も頷いた。


「俺もそれが訊きたかった。このノワルドからリワルドには簡単に行き来できるのか?」


 シイファがぶんぶんと首を振る。


「とんでもない! 異世界渡航なんて、聞いたことないわ」

「けど、お前たちは俺が死ぬ時、俺を見ていたじゃないか」

「あれは異世界観覧の魔法を使ってたから。あの場にいたのは、霊体のみよ」

「霊体だけの状態で、魔法は使えるのか?」


 俺の問いに、シイファは考え込んだ。


「……試した事ないけど…原理的には使えるかも。霊体だけでも、幽子に干渉できる。ただし魔晶石が使えないから、自分が法式を詠唱するだけの理解度がないと使えない」

「重力魔法は、かなり高難度の魔法だな。誰でも使える者でもないだろう?」


 シイファは頷いた。


「ある特異点に重力場が発生するようにして、その特異点を発射する。小さなブラックホールみたいなものだわ。かなり特殊な魔法で、あたしも再現するのは難しいくらい」


「その魔法を使って、チェリーナたちより前の三人の被害者は殺されている。テラー博士か――可能性としては、同じ魔法を使える人間の仕業だな」

「もう、テラー博士なんじゃないの? あいつがボスなんだよ、きっと!」


 ニャコが声を上げるが、俺は少し考えつつ言った。


「その可能性はある。しかし奴が首領にしては、グリードやレディ・スィートの態度は、むしろ同格の幹部という雰囲気だったように思われた。何にしろ、眼玉の組織については情報がまだ少ない」


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