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2 ボサ髪眼鏡が美人だったら

「いや、俺たちもまだ調査中で、詳しいことは判ってない。チルル、話してくれてありがとう。セレス隊長にも会っていこう」

「喜ぶと思うのデス!」


 チルルはそう言うと、隊長室に俺を案内した。


   *


「入るぞ」


 やはり薄暗い部屋に、ボサ髪の女が座っている。

 よく見ると、細い顎をした整った顔の美人だ。だがセレスはそれを隠すように、傍の眼鏡を慌ててはめた。


「や、やあ、ディモンくん、君には世話になったな!」


 セレスは片手をあげながら、作ったような明るい声を出した。


「体調はどうかと思ってな」

「うん。ニャコくんに治癒されたから、万全の状態だ。君があの男を止めなかったら、ボクは死んでいたろう。君たちには本当に感謝してる。ありがとう」


 セレスが頭を下げた。


「よせ。同じ警護隊の仲間だ。むしろ、奴を完全に止めきれなかった事を悪く思ってる。俺の読みが甘かった」

「フフ、君は完璧主義者だな」


 セレスはそう言うと、少し口元をほころばせた。


「完璧にできた事など、何もないがな。俺の料理も、いつもまだ未熟だと思う」

「そうか……。君は料理をするのか。ボクはブラッカーを完璧に作ったつもりだったのだが――あのザマで残念だった」


 少ししょげた声を出したセレスに、俺は言った。


「まあ、組織は壊滅状態だ、その事は充分誇っていい事だと思うぞ、セレス」

「そう言われると救いがあるが……しかし、ボクは思っているのだ。自分はやはり隊長などという器ではないと」


 俺は黙って、セレスの言葉を聞いた。


「うちの隊を仕切っているのは、実質、チルルくんなのだ。今回の作戦も、作戦指揮と念話連絡をチルルくんが実行してた。そのチルルくんがやられてしまったから、王子の傍に隊員たちを呼べなかったのは、明らかなボクの配置ミスだ」


「しかし眼玉の三人組は、想定外の敵だ。奴らの出現は予想できなかった。会場から逃げる構成員と、客を四番隊が確保し、通路をヴォルガ隊が封鎖してたおかげで取りこぼしが無かった。作戦自体は失敗じゃない。奴隷制の完全廃止へと、大きく前進するだろう」


 そう言う俺を、セレスはじっと見つめた。


「優しいんだな、ディモンくん…。慰めでも嬉しいよ」

「俺は刑事だ。事実を正確に理解するのが仕事さ」


 俺はそう言った後に、さらに続けた。


「あんたが隊長に相応しいかどうかは、隊員たちの反応を見れば判る。隊員たちも、チルル副隊長も……俺が見たところ、あんたを尊敬してる。隊員たちも、あんたを信頼してたから、構成員の確保に専念してた。あんたはちょっと変わった奴だが――」


 俺は席をゆっくりと立ちあがった。


「王都警護隊四番隊の隊長に相応しい人間だと…俺も思っているぞ。セレスティーナ・ノワール」


 俺がそう言うと、座ったままのセレスが上目遣いで俺を見た。やはり、そのぶ厚い眼鏡の奥の眼は、綺麗な瞳をしている。


 と、突然、セレスは勢いよく立ち上がった。


「判った! やはりボクは、ニュー・ブラッカーの製造に全力を尽くそう!」

「…いや、ちょっとじゃなく、だいぶ変ってるに修正しておこう」


 俺は少し呆れた声でそう言っておいた。


   *


 テーブルを囲んだニャコとシイファに、俺は言った。


「少し状況を整理しておこう。商人ダレスは闇ギルド『デスコルピオ』に、ガスパオ候殺しを依頼していた。それは『黄の明賢』ドライデンが開く秘密の会員パーティーをガスパオが抜けたいと言い出したからだ。また、後で判ったことだが、ダレスはガスパオを殺した後に、その妻と娘もいただくつもりだったらしい」

「さいてー」


 ニャコが口にした。まあ、異論はない。


「その主宰者であるドライデンは、眼玉をつけていた。眼玉の組織の一員だったと見ていい。そしてグリードに口封じされた」

「……多分、キィが心を開く能力を持ってるからね。逮捕者が出ると、そこから眼玉の組織のことがバレてしまう」


 俺はシイファの言葉に頷いた。


「目玉の組織と闇ギルドは、ドライデンたちを通してつながりがあった。ダレスの帳簿には、闇ギルドに娘たちを依頼した報酬が払われた記録があった。娘たちの被害者は30人以上に上り、最初は国外で奴隷として売っていたようだ」

「あ、それで人身売買組織が出てくるの?」


 ニャコの声に、俺は頷く。


「そうだ。帳簿からは何処の組織とも判別がつかなかったが、それがブラック・ボアだったことが、幹部構成員の証言から判った。そしてブラック・ボアのボスはガリーシャだ。奴は貴族の地位と金を利用し、奴隷商売を裏でしていて、しかも一緒に逃亡したところを見ると、目玉の組織の一員だと思われる」


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