第四話
「まぁ、綺麗ですわ!アレミア様!」
「はい、私もそう思います」
侍女たちにヘアメイクをされ、美しい銀髪を靡かせ
深海の様な深い青色のドレスを着たアレミアは、今夜
夜会へと向かう。道中の馬車の記憶は髪が乱れていないか。ドレスは変に派手すぎていないか。お年頃な悩みを募らせていた。いざ、会場に着くと美しい花々が出迎え色とりどりな食事に年代物のワインなどが置いてあった。近くには、子爵から公爵家までこの国の貴族がほぼ勢揃いだった。ふと会場の隅に目を向けるとそこには、小さく手を振ったあとこちらに向かってくるテオドールがいた。
「アレミア、とても綺麗で惚れそうになったよ」
今日も今日とて、ヤバいやつだと思った。ブラコンだかシスコンだかを通り越してヤバいやつである。
「テオドール兄様もかっこいいですよ」
こうも言っておかないと機嫌を損ねてしまうとめんどくさくなるのは目に見えている。
「そうかな〜えへへ」
よし、これでしばらくは平気だろう。この夜会にはまだ、婚約者の居ない貴族令嬢が参加することがあるので、婚約者のいないテオドールは令嬢たちの憧れの存在である。そのため、短時間にも言いよられ体を捕まれ引っ張られするだろう。いくら公爵家の次男といってもここでは、騎士団の人間。護衛する立場のため貴族よりも階級は下という扱いになる。拒否が許されない。イライラしているテオドール兄様は、誰よりも怖い。そのうち、会場のどこかに死体があるんじゃないかと思うほど。そのため、今からでも機嫌を良くしておかないと。
「テオドール、妹君に変なちょっかいをかけるな」
「なんだよ、ロジェ。家族水入らずの時間だ!邪魔するな」
「話しかけている時点で妹君からしたらお前は邪魔なんだよ。学園の友人とお話されたいでしょうしお前がいると話しかけずらいんだよ。」
アレミアとテオドールの間に入ってきたロジェはやれやれという顔をしながらテオドールを引っ張っていく。彼もまた、テオドールに振り回されている人間だ。
テオドールがアレミアの護衛ということは秘密裏にマリアから聞いていた。そして、テオドールが持ち場を離れなければいけないときは、ロジェが後ろから見守ってくれるらしい。護衛体制が万全ということがここで明らかになった。アレミアは、その事を確かめたことで自身がこの会場で動きやすくなったことを実感した。
「(この会場の中に、テオドール兄様たちが警戒している人物がいる……。)」
そう考えて歩いていると誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい」
ぶつかった衝撃で吹っ飛ばされたアレミアは床に手を付いた状態で相手に謝罪をした。
「いえ、こちらこそ周りを注意して歩いていけなくてはなりませんでしたね。どこか怪我をされていませんか」
「はい、怪我はしていませんのでご心配なさらず。」
「よかった。あ、自己紹介が遅れました。私は、アーカーソン・バスコヴィルです」
「アーカーソン、、あ、学園で生徒会長をされていますよね」
「覚えていたのですね。てっきり、覚えていないかと。朝会のときいつもどこか、上の空のような顔していらっしゃるので生徒会や学園の仲間なんて興味がないのかと思っていました」
私は、そこまで薄情な人間ではないと強く言ってしまいそうなのを唾といっしょに飲み込んだ。確かに生徒会なんてものに一ミリも興味はない。だけど、クラスメイトや同学年の人、先輩・後輩は覚えている。
「あはは。そう思われても仕方ないですよね。いつも朝会のときは眠くなってしまうのでそう見えてしまうのかもしれませんね。でも、お話されたことは覚えていますよ」
「そうでしたか!私は人の前で話すのは苦手でして。それを克服しようと生徒会長になったんです」
「そうですか」
こいつ、何を言いたいのかな。彼と話していくうちに鼻の下が伸びてきたように見えた。バスコヴィル家は別に我が家スタンフォード家とつながりを必要としなくてもいいぐらいに王家からの信頼や金がある。蹴落としたい存在なのかもしれない。それか、単に彼が私のことを?いや、それはない。自意識過剰すぎる考えだ。はぁ、薬を飲んでいるもののずっと話しているのはつらすぎる。早く、外に行きたい。
「あ、アレミア様」
「すみません、少し兄に呼ばれたので失礼いたします」
視界の端に見えたアルフレード兄様の元に急いだ。だが、アルフレードの元には先客がいた。そこに居たのは、普段滅多に顔を出さない第二王子ルディック。
テオドールと同期で、アルフレードが学園時代に剣の相手をしていた人物である。ハイライトを無くした瞳に琥珀色の髪。間違いない、本人である。ルディックはアルフレードと笑みをまじえて話をしておりその場だけは和やかである。だが、アルフレードとの会話が終れば吹雪が起こったように空気が冷たくなった。静かに会場を出て庭園のベンチに腰掛け、深呼吸をする。
「(誰もいない。テオドール兄様に怒られるかな。アルフレード兄様に結局、話しかけられなかったし。)」
「そこで、何をしている?」
「あ、貴方様は、」
ルディックがベンチ近くの柱に身を預けてこちらを見ていた。そして、アレミアの隣に座ったのだ。
「おや、俺のことを知っているようだね。なら、話は早い。早くここから去る方が身のためだと思うが」
ルディックは、静かに腰に帯刀した剣に手を触れる。
「いえ。私はもう少し、この場にいたいと思います」
「なぜだ?」
「私は、人が苦手でして、人波に入ってしまうと息苦しく感じてしまうのです」
ここで、ルディックに弱みを見せては絶対にだめ。彼は、秘密裏に騎士団に情報を回し戦況を大きく変える力があると言われている。表では、テオドールの頭脳が秀でていると言われているが、実際には、テオドールがルディックの戦略を実行しているだけである。まぁ、それでもテオドールは優秀と言えるのだが、ルディックには、誰にも分からない才能があるのだ。だから、自分の弱みを知られれば何かしらの事件に巻き込まれてしまう。ただでさえ、今、病に犯されそれが恋というものなのに。
「そうなんだ。俺もそうだから気持ちよくわかるよ」
「ルディック殿下もなのですか」
「あぁ。人って匂いと目で全部、分かるんだよね。焦ってると目が泳いで。誰かの上に立ちたいと思えば身の形を作り始める。香水とかね。だから、俺は社交界が嫌いだ。取り繕って自分を殺して何になるんだか。親のため?家の伝統のため?自分の存在価値の証明?バカバカしい」
「では、私の今の姿もルディック殿下にとってはバカバカしいものなんですね」
「そうかもな。でも、そのドレスは誰かに色目を使うために着てないだろ。」
「え」
「それってテオドールとかアルフレードのために着てんだろ?そもそも公爵令嬢なら婚約者の一つや二つなんて簡単に見つかるんだから出会いをわざわざ探しに来なくてもいいし。」
「そうですね。」
「なんのために来たんだ?」
「私は、毒を飲まされたんです。その犯人がこの会場に居ると思ったのであぶりだそうと思って」
「テオドールは知ってるのか」
「勝手に私が推測しただけです。アルフレード兄様もテオドール兄様も私を囮に今、起きている事件の犯人を探っているのです。だから、ヘマは出来ないと思った。けど、今、貴方といることがヘマをしてしまったと言えるでしょう」
「はぁ。おもしろいなスタンフォード家の娘よ。」
「アレミア・スタンフォードと申します。」
「お前の顔は、覚えた。頑張って犯人を捕まえておくれ。」
「もちろんでございます」
ルディックは、新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに不気味な笑みを浮かべその場から去った。
そして、アレミアもルディックが離れて5分程度時間が経過してから会場に戻った。夜会も盛り上がりを見せてワインを運ぶ給付係があたふたとしている中、ある令嬢にワインの赤色が染み付いた。
「すみません!急いでタオルを持ってきます」
「いえ、問題ありません。貴方は大丈夫?怪我をしていない?」
「はい!問題ありません」
「そう良かった」
「寛大な心、感謝いたします」
「え、何を許してもらったと思っているの?」
「え……」
「タオルは要らないと確かに言った。けど、許すなんて一言も言っていないわ。何を勘違いしているのかしら」
「すみません」
見ていて、気色の悪いものだった。給付係はきっと地方の貴族なのかそれとも才能を買われてここに来た人間なのか。だとしても、貴族として市民にこんな仕打ちをするなんて。歩み寄ろうとしたとき、心臓が大きく動いた。
「(ぐっ……なんでこんなときに……)」
「アレミア、右のドアから会場を出なさい、うちの馬車が迎えに来ている。」
「アルフレード兄様……」
「お前の身体は限界を迎えている。オルクスが馬車の中にスタンバイしているから問題はない。それに、探していた人物が見つかった。」
「そうですか」
「だから、ここは」
「いえ。最後まで見届けます」
「そうか。無理はできるだけしてほしくはないが。」
アルフレードは、悩んだ顔した結果、テオドールを手招きアレミアの傍に付かせた。
「アルフレード、」
「テオドール、頼むぞ」
「あいよ」
アルフレードは、静かに給付係の元に行き横目でそこから離れろと訴え、給付係はそれに気づきその場から離れていく。
「アルフレード・スタンフォード様。どして、あの侍女を逃すのですか?貴族に対してあんな失敗をやらかしたのに。」
「人間は誰でも失敗から学ぶ生き物ですよ。だから貴方も反省するべきかと。」
「なるほど。そうですね。失敗というものは生きていれば付きものですものね。私たちの失敗はアレミア・スタンフォードが生きていること。」
「なぜ、アレミアを殺そうと我が家の侍女に金を渡し情報を得て毒草が使われた紅茶を送っていたのですか」
「邪魔なのよ、その子。だってスタンフォード4兄弟に近づけないし勉学もできるは容姿も端麗。天は二物を与えすぎたの。みんなそう思ってたよ。誰かがアレミアを殺さないとって。だから、みんなの代わりに私が殺して差し上げようと思ったのに。」
「家族の生死に目向きもしない人間はいないと思ったのか。」
「だから、アレミアを殺せばあんたら4兄弟が出てくるでしょ?傷心のあんたらを癒すって仕事をしようと思ったのよ。名案でしょ」
「気持ちが悪いな。お前は然るべき処置で罰する。本当はこの場で臓器をえぐり出し絞ってワインにでもしようと思ったが。俺の寛大な心で許してやろう」
アルフレードは、王邸騎士にシャナイ・バスコヴィルの身柄を確保させその場から追放した。そこで、1人拍手を送った人物が、ルディックであった。
「流石、スタンフォード公爵家次期当主 アルフレードだな。」
「ルディック殿下も人使いが荒いですね」
「そうかな?でも、こうすることで君の大事な妹の命を脅かす人物が消えたじゃないか。こんな形で逮捕されるなんて知ったら誰も手を出さないよ」
周りに聞こえるように大きな声でルディックは言った。
「あれ、君の妹。いつもの間にか居ないね。」
「テオドールが連れて行ったのではないですか」
「君は、興味無い感じ?」
「テオドールやオルクスが気にしてますから。私まで入ったらプレッシャーを感じるでしょう。」
「確かにこんな強面が起きたら横にいたら気絶するかも」
「ルディック殿下、いくら私でも傷つきますよ」
「ごめんごめん。でも、君の妹はいい瞳をしていた。まっすぐで誠実で。テオドールとは多い違いだ。君に性格は似ているんじゃないかな」
「分かりません。そこまで一緒にいたことはありませんので。」
「そうか」
興味深そうにアルフレードを見たあと、アレミアが出ていっただろう扉を見たルディックは
「あれが、未来の婚約者か。楽しみだな」
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
まだまだ、物語は続いていきますのでこれからもよろしくお願いします。