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第三話


窓から差す日差しに照らされながら目を開けると、、

サイドテーブルに置かれたコップに少しのフルーツ。


そして、白衣に身を包んだ兄である。


「アレミア、おはよう」


「オルクスお兄様」


いつの間にか作られていたカルテに驚きながらオルクスが進めるペンの先を眺める。意外と跳ねをしっかりと書くんだな〜。はらいはそんなにだな〜。


「見すぎだ、ボケ」


「ごめんなさい、、」


オルクスお兄様は、記入を止めると私の額に手を当て

熱があるかどうかを確認する。


「熱は無さそうだな。薬の効き目はどうだ?感じるか?」


「えぇ。症状が引いて咳が出なくなってます」


「そうか。それならこのまま薬の開発を進める。副反応がこの先で出たら急いで侍女たちに知らせろ。」


「分かりました」


「アルフレードやテオドールだと私がなんとかするとか言って治療の邪魔にしかならんからな。出来ればずっと傍にいてやりたいんだが、王妃から呼ばれていてな」


「王妃殿下からですか!」


「あぁ。植物性のアレルギーを発症したようで王宮医官たちも症状が出ているらしくパニックなんだと。」


「それは、花粉症ではないですか」


「そうなんだよ。だから以前から乳製品から取れる栄養素をまとめたメモや対策をあれだけ送ったのに。めんどくさい、見捨てていいような。」


「ダメです!いくらなんでも!!」


「そうか。早めに切っておいてもいい人物だと思ったんだがな。」


一国の王妃殿下にこんなことを言うことが出来る医者は国中を探してもオルクスお兄様しかいない。この国が始まって以来の天才で、その実力は医療の国と言われている西の国の王が認めるほど。国家医療学校を首席で卒業した後に特待生で留学。そして、今。ただ血の繋がっただけの妹のためだけに家に居てもらっている。情けない。こんな貴重な存在の時間を不透明な病を患っただけで奪ってしまっている……。ごめんなさい、お兄様……。


「アレミア、それは違うぞ」


「オルクスお兄様、、、」


なんで、分かったのだろうか。私の思いが……。


「俺はただ血の繋がった妹のためというのも確かにある。だが、目の前に居る患者一人を助けられない医者では在りたくない。不透明な病?上等じゃないか。花粉症なんて今や対策なんていくらでもある。俺では無い医官でも治せる。あいつらは俺に診て欲しいだけ。国一番の医者に診てもらえるほどに貴重な存在だとアピールしたいだけの承認欲求の塊だよ。いくら王妃でももうチヤホヤされていたいだなんて許されない。だから俺は無視を決めた。今、お前だけじゃない誰かが患ってもおかしくないこの病気と向き合えるのは俺だけだろう?」


「そうですね、オルクスお兄様だけです……」


「本にも載っていないこの病気を治したらもっと医学を好きになれるかもしれないし。お前に誇ってもらえような兄になれる。アルフレードのように何でもできてテオドールみたいに剣術を使えない、出来損ないって言われてる俺だけど、お前には凄いって思ってもらいたい。」


「オルクスお兄様は、もう十分凄いですよ……好きな事に夢中になってそれを職業にして、好きの延長線を私に見せてくれたではありませんか」


「……アレミア……お前は優しいな」


オルクスは、そういうとベッドから起き上がったアレミアの肩を持ちながらベッドへと戻した。耳にかかるほどの髪から見えたのは少し赤く染まった兄の耳である。布団を顔までかけたあと、アレミアの頭を一撫でして立ち上がると、手を掴まれた。


「言い逃げはずるいです、お兄様」


「言い逃げ?この俺が?」


驚いたような顔をしたオルクスに少し笑った。

普段は絶対零度の兄の顔が動いたのだ。あるときはロボットと言われ、またあるときは石と言われるほど。テオドールなんてオルクスの顔を見ると怒った母親にそっくりだと逃げ出してしまう。だが、アレミアはそんな兄が好きだ。表情は変わらなくても家族を人一倍想っているとわかりやすいぐらいにオーラで表してくれるのだから。単に今、研究のためと言って傍にいてくれてると思うけど自分を気遣う所は嘘では無い。きっとこれまでも沢山の患者に寄り添ってきたはずなんだ。この腕で沢山の人を助けた自慢の兄。


「ほら、薬。時間だ。飲め」


掴まれていない方の腕でコップを差し出してきた。

手を離し薬を手に取り口に入れ差し出されたコップに唇を添え一気に飲み干す。


「飲みました」


「それは良かった。変な苦味もないな?」


「はい」


「それなら良かった。」


コップを置いたときに横目で見たオルクス兄様の少し疲れた顔はきっと誰が見ても恋に落ちるような消えてしまいそうに儚い顔である。なぜ、なんだ。なんで疲れていてもそんなにカッコイイのだ。テオドール兄様なんてどこに行った?騎士団一の美男子は?となるぐらいにたまにブサイクになる。私だけしかそう思わないらしい。他の令嬢たちは推しフィルターというものが発動するらしい。


「あ、そういえばドレスのことなんだが。」


「ドレス?」


「父上から夜会にテオドールと参加すると聞いてな」


「私がテオドール兄様と夜会にですか?」


「あぁ。だからドレスをどうしようかと悩んでいて。私からあいつに伝えてやろうかと思ったんだが、知らなかったのか」


「はい。夜会に出てもいいのですか」


「この調子なら間に合うだろう。だが、ドレスは緩いものにしないとダメだ。キツく締めるものはまだ、呼吸の圧迫を……」


「分かりました!ウエストのサイズなど緩めのものにしますわ」


「それでいい。何かがあってからだと遅いからな」


オルクス兄様の目が鋭い視線から柔らかい目つきへと変わった。


「オルクス兄様がテオドール兄様のことをアイツと呼ぶのを初めて聞きました。」


「歳も近い方だからな。それに、テオドールは兄らしくない。どちらかとい言うと同級生に近い感覚だ。」


「なるほど!」


「まぁ、そんなことはどうでもいい。ドレスのことは教えたしあとアレミアに伝えなきゃいけないことは多分、無いから寝ろ。」


「まだ、起きていたいです」


「まだ、調子は安定していないだ。痛いの緩和は一時的なものに過ぎない。悔しいことにな。だから寝ていろ。」


「分かりました。」


「それじゃ、おやすみ」


オルクス兄様は、部屋から出て行った…………


そして、夜会が開催される前日の晩。


激しい痛みがアレミアの体を駆け巡りベッドから上半身を起こし胸を抑えた。


「はぁはぁはぁ……」


オルクスの薬は確かに効いていたはずだったが、本人も言っていたようにそれは一時的な気休めのようなもの。病の根までは、まだ到達できていなかった。だが、オルクスの研究の成果はしっかりと出ていたはず。

痛みを最小限まで抑えられていたのだから。


「お願いだから、明日まで、持って。」


ベッド際のテーブルの上に置いてある薬を口に入れ水で流し込んだ。せめて、テオドール兄様の邪魔だけにはならないように……。そして、この病の進行を悟られないように……。薬の副作用である眠気に襲われ気を失うように眠りについた。


コンコンッ


「アレミア様、今晩のご予定なのですが」


「はい、マリア。」


「アレミア様、、あまり無理をされてはいけません。私の補助なしでベッドから起き上がりレースを縫っているなんて、、」


「少し早く起きてしまったから二度寝をしてしまうとあなたに怒られると思ってね。裁縫ぐらいなら体に支障は出ないでしょう?」


「暖かくしてなら良いですが、ブランケットも掛けずに寝巻きのままなんて、風邪を引くかもしれません!アレミア様が体調を崩されては治るものも治らなくなります!オルクス様やテオドール様、最悪はアルフレード……」


「僕がどうかしたのかな?侍女頭のマリアさん」


「アルフレード様!!いえ、アレミア様の体調が崩されたらアルフレード様が黙っていないと伝えていただけでございます。」


「懸命な判断だな。」


マリアは、顔を青くしながらアルフレードと目を合わせながら正直に言ったが、帰ってきた言葉と鋭い視線によりもう、意識を手放してしまいそうになるのを耐えながら力んでその場に立っていた。


「アレミア、用意が済んだら王城へ行くぞ。」


「もう、ですか?」


「あぁ。我が公爵家は早めに登城するようにと伝言をもらった。」


「分かりました。マリア、ドレスの用意は?」


「できております。」


「よかった。では、着替えたいのでアルフレード兄様退室になってください。」


「え、?」


「え、?ではありません!早く出ていってください!」


「あぁ、すまない。今すぐいく。」


アルフレードは、顔を真っ赤にさせて退室した。

困ったものだ。なぜ、ドレスに着替えるというのに出ていかないという選択肢を取るのだろうか。貴方の嫁では無いのだぞ。と思うアレミアであった……。


…………………………………………………………………………


ここまで読んで頂きありがとうございます。

引き続き、この物語をよろしくお願いいたします。

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