第二話
Side テオドール
さてさて、始めていこうか。犯人探しを。
まず、この粉が入っていたと思われるケース。うちの調理長は優秀でね、砂糖や塩、コーヒー豆などの保存は厨房の奥にある個室に一括している。これは危険薬物や毒などに入れ替えが出来ないようにするため父上の賛成を得て採用された仕組みだ。鍵は2つ。一つは調理長の首にかけてあるもの。もう一つは父の執務室にある。聞いてみるしかないな〜。めんどくさい。
「ね、ルドルフ。父上はいるかな?」
「いえ。旦那様は今、奥様とお茶会をしております。」
「あの夫婦はいつも仲が良くていいね。娘が大変な目に遭ってるのにさ。」
「それはそうなのですが、最近の社交界では心中を題材とした演劇が人気だそうでそれで、、」
「真似をする若人たちがいると言うことか。」
「ええ。それで密売人が儲けをあげていると。そして、この領地内でも2件の心中事件が起きているという話をされておりました。」
「まだまだ父上には安心して隠居生活を送ってもらうには時間がかかりそうだな。ありがとうルドルフ。」
「いえ。」
ルドルフ・アーゲナー。僕達、兄妹と幼馴染でアーゲナー家は古くにスタンフォード公爵家と主従関係を結びこの家に仕えてくれている。仕事ができて勤勉だ。そうそうに勉強という道をリタイアした僕とは違う。僕と同い年で冗談を言い合ったりたまに飲みに行くこともある親友である彼。幼い頃は二人でよくやんちゃをしたものだ。その度にアルフレードから怒られ父上に怒られ最後は母上に怒られるのがいつもの流れだった。担任、学年主任、校長と怒る相手のレベルがあがるような感じだ。もう、あれっきりにしたい。いや、する。ルドルフと分かれたあと、渡り廊下から見えた寄り添ってる影に近寄っていく。
「父上、少し話があるのですが。」
「お前は見えんのか。社交界の一大事件に追われやっと家に帰って来て妻に癒しを貰っている男の姿を。」
「はい。その男性は私の父上であります。」
「仕方がない。ここで話をしてくれ。侍女たちは下がっていろ」
ロルカの令で侍女たちが下がったと同時に話始める。
「先ほど、ルドルフを通して社交界で心中の演劇が流行っており若人が真似をする事件が多発していると」
「ああ。ゼノン伯爵家のお嬢さんやカイマーレ男爵のご子息などな」
「騎士団を通して毒薬のルートを制圧します。また、解毒剤も手に入れてみせます。そのために父上にアレミアと私が夜会に参加する許可をもらいに来ました。」
「なるほど。夜会で私たちの大切なアレミアを囮にして犯人をあぶり出すのだな。なら、アルフレードにも協力してもらう方が良いな。あいつは私の跡を継ぐ人間だ。今のうちからその権威を見せつけていなければ誰も救えない、守ることも出来なくなってしまう」
神妙な顔をしながら話す父上をただ見ていた。
「ここは、兄弟で上手くやりなさい。私は針が折れたときだけ力を貸してやろう。」
「はい」
相変わらず、母上の前だけかっこいい姿を見せようとする父上に少し笑いながら頷いた。
父上たちと別れたあと、騎士団で共に行動するある人物の元に向かった。
「ロジェ。頼みがある」
「はいはい。来ると思ってましたよ隊長。」
第一騎士団 副隊長 ロジェ・アーデンブルク。
騎士学校時代の友人である。
「ここに、夜会の参加者のリストを用意した。ちなみにこの中から怪しい噂を持つ人物は3人。と聞きこみ調査から絞ったんだが、」
「だが?」
「これがまた、厄介でよう。名前が違うだけで話す特徴がまるっきり同じなんだ。」
頭を抱え書類を睨みつけるロジェを見ながら思った。
「(偽名を使い貴族社会へと紛れている。または、仮面舞踏会など顔が分からなく声だけを変えればいいという状況で密売をしている…というのか)」
「ある程度の容姿は分かっている。身長は170前後で痩せ型。髪は金髪。右耳にピアスの穴の跡がある。」
「髪の長さや色を変えているか確認したのち跡があるかどうかで判断するしかないか。」
「まぁ、ピアスなんて誰でも開けるしピアスの位置が一番知りたいんだけど誰も覚えていない。てか、覚えているなんてはなから期待なんてしてないしな。」
「ドレスコードを決めてもらうようにしよう。」
「ドレスコード?なんでまた、めんどくさいことを」
「髪型は自由だが、耳にかかるぐらいまでにしピアスの穴を隠せないようにする。」
「あからさまにこいつ、俺のことを探していると疑われると思う。それよりもこうしようぜ」
ロジェは椅子から立ち上がりテオドールの耳元で囁いた。
「俺らが、密売人のフリをしてどんどん令嬢たちを避難させて行く。それを見て焦燥感を煽る。」
「なるほど。」
「で、何振り構わず話しかけた先ご令嬢が隊長の妹さんで、『なんで、生きているんだ』と思わせたあと解毒薬を手に入れ確保!」
「耳元で叫ぶな、、確かに毒を下ろしていた先の人間が平然と夜会に居れば一瞬でも動揺するだろうな」
「まぁ、この作戦は危険を伴います。てか、全部。
騎士団の中でも礼服で参加させておこう」
ロジェは両手を合わせ、はいできたと言わんばかりに
自分の机へと戻っていく。
「これから開催される夜会の全日程が貴族議会から発表されるそうですが来週の夜会が今年度の第一回目と秘密裏に聞いた。」
「わかった。」
「(今はオルクスが母上の遺伝の病の薬を使って症状を抑えているが、多少仕組まれた毒の解毒薬を使ったらこれは遺伝の病の症状を抑えられるのだろうか。また、毒と病の関係性についても知らなければならない。)」
近くのソファにドサッと座り込んで目頭に手を置く。
とりあえず、今ある仕事を終わらせるか……。
ロジェに自分の机から書類の入った紙袋を取ってきてもらい中身を取り出していく。
「(陛下は、こんなめんどくさい視察の仕事を回してくるってことは俺を辺境へと追いやりたいのか?アレミアの病を治すのが先って言ってうるさくしてたのにな)」
結局、日が暮れるまで紙袋に入った書類に追われた。
「それじゃ、先に上がりますね。」
「俺も上がる。早くアレミアに会いたい……」
「隊長の妹さんへの溺愛は狂愛っすね」
ロジェは呆れたように言った。
「(あいつ、普段は無口で愛想が無くて厳しいしズバッて言うからあまり好きではない。友達としては素直すぎるとこが心配になるけど。でも妹さんのことになると顔に出すぎる。てか、妹さんの名前を出せばどこにいても飛んでくるっていうな。はぁ、どうしたもんかね。今度、家にお邪魔したときに妹さんに話しかけて見ようかな。どんな顔するかなあいつ。ふふふ)」
「お土産でも買って帰ろうか」
騎士団の事務所をあとにし王都の楽座へと歩みを進めた。ここには貿易により各国の名産品が揃えられている。これには理由があり現王妃は無類の新しい物好きで手当り次第に輸入する癖がある。そのためこの市場には沢山の貴族や商人が集まる。
「このグラス、可愛いな」
「お!旦那、良い目をされていますね」
「いや、私の妹が使っているのを想像するとな」
「え、?」
「さらに、輝きを増すな、、これを一つ頼む」
「あ、、分かりやした、」
グラス製品を取り扱う商人からコップを購入したあと
洋菓子屋にてマカロンなどを購入。
そのまま通りを少し歩いたのちに多くの令嬢たちの注目を集めるある店を見つけた。
「ドレスも用意しとかないとな。夜会用のは家に少しはあるが女の子という存在は流行りを気にするとロジェから聞いたんだが、本当なのか」
「そうですね、気にするお嬢さんもいますが私にはアレミア様はそんなことを気にする人には見えませんね」
国一番のデザイナーである シルヴプレ・マリアナの店
プールトゥジュールにてテオドールは質問をしていた。
「テオドール様とアレミア様が夜会に参加するのですか?」
「あぁ。だが、アルフレードになるかもしれなくてな」
「それなら青いドレスにしましょうか。お二人の瞳の色は深海のような深い青ですから。もし、途中でエスコート相手が変わっても違和感は少ないと思いますしそれに皆さんのような美兄妹は結局、何を着ても似合いますから。ここは私にお任せでもいいんですよ?」
「わかった。青を基調としたドレスで頼む」
「腕がなりますね!お任せ下さい。」
こうして、夜会をのドレスの購入を済ませたのであった。
「今日もいい買い物ができたな。」
公爵家専用の馬車の中から鼻歌が聞こえてきたのは
きっと気の所為であろう。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
新たな仲間である ルドルフとロジェのこともよろしくお願いします!
次回の更新は3月の後半から4月の頭になります!