出会い
いつもは肩より長い髪を雑に結びバイトに行くけど、
今日は京との約束がある。
前髪とサイドの髪をセットしてハーフアップにして
女子みたいに団子を作る。
俺の普段着はあまり女受けが良くないらしい。
京のお下がりの服を着て香水をつけて
肩掛けのサイドバッグにサングラスを用意して
ホビーショップのバイトへと向かった。
チリンチリン
太陽「おはようございます」
店長「おっ!太陽君!今日はキマってるね!
終わったらデートかい?」
太陽「いえ、友達と遊びに行くんです」
(友達って言っていいのか怪しいところだが…)
店長「そうかい!まだ若いんだから
たくさん遊んでこいよ!ハッハッハッ」
失礼な言い方、店長はただの太ったおっさんだ。
だが子供が好きで、趣味でホビーショップをやっているし、ちびっ子達には大人気だ。
悩める若者が迷い込むと、親身に話をするところも見たことがある。
ヤンキー達もこの店に来るが
盗みをするやつはいない。と言うより、盗難者を捕まえる事もある。
ある意味ヤンキーたちの方がスタッフより働いている気がする。
今日も子供達と元気に遊び回るおっさんを見ながら
たまにレジにお菓子を持ってきたり、ゲームソフトを持ってくる客の会計をしながら外を眺めていた。
ここは都心とは言えなくても都内であることは
違いない。
裏路地ゆえ大通りより通行人は減るが、常に誰かが歩いているような感じだ。
スーツを着た営業マンや
派手な髪色に目立つ色のTシャツ。
うちの店は店長のおふざけで
店の壁に一部落書きフリースペースがある。
落書きをしたついでや
写真を取ったついでに立ち寄るお客もたまに来る。
それらの人々を眺めていると
なんとなく目に止まった女子がいた。
大股で少し男っぽい動きなのに、モデルの様に店の前を歩いく。
右側が少し刈り上げされ短く、左側が非対称的に長くカットされた
アシメショートカットの髪が
歩幅に合わせてあまり見ない揺れ方をしながら
壁の前に立ち写真を撮る女子を睨んでいるように
道の真ん中を堂々と通過していった。
俺も男だったんだなぁ。
我ながら変わった趣味だなぁ……。
なんて、見えなくなった彼女の姿を思い出しながら
ボーっとしていたようだ。
どれくらい時間がたったのだろう
店長「…君、太陽君!」
太陽「あっ!はい!!」
店長「ハハ!外に誰もいないみたいだからちょっと
掃き掃除してきて!」
壁のフリースペースのせいか、都内だからか
よくポイ捨てされたゴミが落ちている。
壁を喜んでもらいたいからか、ボランティアか
店が見えなくなるくらいまでの距離を
掃除することが、この楽なバイトの中では一番の大変な仕事だ。
ゴミ拾いをしていると
さっき釘付けになった彼女が歩いていた場所に
なにか、落ちているものを見つけた。
それは不思議な形をした石で、鳥の羽がモチーフに見える。
明らかに手作りで彫られた物だ。
細い糸を編み込み、袋状になった糸の先が切れていてる。
彼女の落とし物だろうか…
俺はまた彼女が通るかもしれないと
なんとなくその石をポケットにしまった。




