逃げ若とサクナヒメの刀の取り扱いの違いについてのお話
日本刀の装備のやり方は実は2種類ある事はご存じでしょうか。
着物の帯の左側に刀の鞘を差す「帯刀」と、鞘に取りつけた紐で腰の左側に水平に吊るす「佩刀」があります。
ではなぜ、装備方法に違いがあるのかというと、実は帯刀と佩刀では刀自体の種類が違いがあるためなのです。
帯刀する刀は「打刀」や「脇差」で、佩刀するのは「太刀」になります。一般的には太刀は打刀より刀身が長く、反りも大きくなっています。
太刀が用いられたのは平安時代の後期から室町時代の中期ごろまで。腰に吊るした太刀は刃を下に向けていました。刀身の長い太刀を鞘から抜くためには、右手で柄を掴みながら腰を左側に捻り、左手で鞘を持って腰の捻りを戻しながら刀身を鞘から抜きます。
室町時代の後半、つまり戦国時代に入ると合戦の様式の変化と共に日本刀にも進化が求められ、徒歩戦に特化して刀身を太刀よりも短く反りも浅くして抜きやすい「打刀」が生まれました。腰の帯に差すときは刃を上にします。そうすることで、鞘から刀を抜いて斬りつけるまでを一動作で行えるようにもなりました。これがいわゆる「居合」「抜刀」です。
アニメ「逃げ上手の若君」の二話を見て気が付いたのですが、五大院宗繁は明らかに帯に刀を「差して」いました。「逃げ若」は室町幕府成立以前のお話なので、打刀はまだ存在しないはずです。
ただ、この時の宗繁はきわめて軽装ですし、太刀を吊さげるための道具を持ってなかったのかもしれない。太刀を帯刀してはいけないという決まりもありませんが、少々抜きにくいかとは思います。
そう思ってアニメ公式サイトに行ってみたのですが、キービジュアルの時行も帯刀していますし、逃若党の面々が所持している刀も反りの浅さを見るに、これはどうも「打刀」のようです。
一方、同期のアニメとして和風ファンタジーとして稲作をメインに扱っている「天穂のサクナヒメ」はどうでしょうか。
1話冒頭のシーンで石丸の刀は腰からほぼ水平に装備されていますし、田右衛門が刀を抜く場面でも刃が下を向いているのが分かります。アニメではカットされていますが、ゲームではこんなセリフもあります。
明確に「佩刀」しているのが分かりますね。
サクナヒメの舞台は日本ではありませんが、ゲームの開発者のインタビューによると室町時代の中期ぐらいをモデルにしているそうです。
田右衛門は武芸の才能は無いけれど、一応は武家の出身ということで親の代から受け継いだ太刀を持っていたのでしょう。細やかな時代考証がされているのが分かります。
一方で逃げ若の時代考証が駄目という訳ではありません。
諏訪大社の存在や犬追物など、文化面からのアプローチには目を見張るものがあります。今後あるであろう本格的な合戦シーンでの描写にも期待したいところです。