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第二話

 テロから一ヵ月経ったアフリカでカイ達は自主的に見回り等を行い、起こりえる問題の予防対策を実施していた

「アフリカ人がニュータウンに何の用だ!このテロリストめ!」

 新設されたニュータウンは移民してきた白人達や少数のアジア人の町となり、黒人である者はアメリカ人だろうと容赦無く迫害された

 過激なテロ騒動は移民してきた彼らの生活を脅かすものとなり、極端に神経質な性格となった彼らは部外者が流入してくる事を拒んだ

「やめなさい!私達はテロリストじゃありません!」

 カイとマリーはバギーに乗って周辺の町を巡っていたのだが、ニュータウンとなると住民から白い目を向けられるのだ

 その見回りの中にカイのようなアフリカンがいると石を投げつけてくる人も多い

「皆、まだ怯えているんだ。テロに巻き込まれるのが怖いんだよ」

「これも全部あの軍隊のせいよ!テロリスト共を分かりやすく挑発して政府は一体何のつもり?」

 あの事件から移民を送るという話は先送りされて百万人のアメリカ人がアフリカに取り残された形となった

 大量に移民されることによって起こるかもしれない問題が一旦収まりはしたもののテロの恐怖によって人種差別が激しいものとなっていた

 移民向けに立ち上げた新興企業はアフリカの地に建っているにも関わらずアフリカンの採用率は低い

 一方でAT部隊はテロによる大きな被害を受けたためにその力を強めて人員拡張と軍備増強を重ねて私設部隊としては巨大なものとなっていった

 首都サハラでは毎日のように銃座を付けた車が行き来しては、少しでも怪しい行動を見せたら銃口を見せびらかして脅して無抵抗な人間を警棒で殴りつけた挙句に留置所へ連行するという蛮行が繰り返されていた

 これを大統領の恐怖政治と言って批判的な声を上げる人もいるがAT部隊を恐れたのかデモが起こる事は無かった

「この国はどうなるのかしら……こんなに荒れるなんて想像も出来なかったわ。まるで誰かが糸を引いているみたいに雰囲気が変わるのね」

 

 二人は巡回を終えて次の町へ向かうと一人の白人がAT部隊に殴り倒されているところを見かけた

「今度余計な事をしたら留置所送りだぞ!分かったらさっさと消えろ!」

 遠くから見ても分かるほどボロボロにされていた金髪は口から血を流して地べたで横になったまま立ち上がろうとはしなかった

「大丈夫ですか!?一体何が……」

 バギーを傍に置いて駆けつけた二人は倒れたままの男性を介抱して体を起こそうとすると殴られたところが痛むのか、小さなうめき声を漏らしては苦い表情を見せた

「すまない……眼鏡がおちてないかな?あれが無いと君の顏すら見えなくて……」

 周りにはフレームが折れ曲がった眼鏡と中の紙を乱雑にむしり取られた紙屑と手帳、それと少し大き目なハンドカメラがスクラップのように踏み潰されて粉々になったレンズが地面で輝いていた

「ありがとう……ああ、くそ。5000ドルのカメラがなんてザマだ、中のデータが生きてるといいけど」

 男は痛む体を庇いながらゆっくりと立ち上がりゴミ同然のカメラを手に取って調べていると大きなため息をついてはカメラだったモノを放り投げて、壁を背にもたれかけてずるずると体を地面に引きずり落として見るからにショックを受けていた

「あの……貴方テレビの人でしょ?だったらお金は経費で落ちると思うし、そんなに気に病まない方が良いわ」

「ありがと、お嬢さん。だけどあのカメラは僕の財布で買った個人的なモノなんだよ、簡単に壊れないように良いものを買ったんだけど警察はいい仕事をするねぇ」

 男は自嘲気味に笑いながら内ポケットから出したタバコを咥えて火をつけた

「それはお気の毒に……ところでなんでボコボコにされていたの?アイツ等が白人を襲うなんて珍しいことよ?」

「そりゃ僕が検挙中の様子を撮っていたからさ、ATも自分達が横暴である自覚ぐらいはあるんだろうよ。それで君たちは?ここじゃ白人と黒人のカップルの方が余程珍しいけど」

「カ、カ、カップルじゃないわよ!私達は巡回してただけ!そうでしょカイ!」

 マリーは驚くほど戸惑いを見せては平常心を忘れて強引にカイへ詰め寄って同意を求めようとした

 その勢いに呑まれるがままにカイはうなずいてマリーの話に合わせた

「カイ?ひょっとして緑化プロジェクトのカイ オウカ!?いやぁ、凄いところで会えたよ。多様な民族を一つにまとめ上げ、乾いた大地を蘇らせた英雄に出会えるなんてね」

「そんな英雄だなんて……そこまで言われる程の事はしていないですよ」

「そんな謙遜はしなくてもいい。前から君を取材したいと思っていたんだよ、もうランチは済ませたかな?まだなら一緒に食べに行かないか、行きつけの良いところがあるんだ」


 男が二人を連れて来たのはアフリカらしい少し汚れた店内で焼いた肉の匂いが染みついたハンバーガーショップだった

 プレートに乗せられた大きなハンバーガーの中はステーキのように分厚い肉が香ばしい匂いと熱気を放っている

 男は豪快に肉の筋繊維を噛み千切り、大きな紙コップに並々注がれたコーラを喉に流し込んだ

「やはりここのステーキバーガーは最高だな!スパイスとジューシーに溢れた肉をコーラで流し込む。これが懐かしきアメリカンスタイルだよ!」

 遊牧が主だったアフリカには肉が定期的に提供されることが都会でしかありえない事だったが、緑化によって畜産業も盛んになり肉がメインの飲食店は以前より増えている

「そういえば自己紹介がまだだったね、僕はカルロス。テレビのカメラマンとかディレクターもやったりしてるんだ。君の事は大統領のセレモニーでも見かけたよ、僕もあの会場にいたからね」

 カルロスはソースや肉汁で汚れた手を舐めとった後にペーパーで手を拭き取ると名刺を投げるように机の上をスライドさせてカイに手渡した

「そうだ!二人はポルトガル語って分かるかな?俺、英語とスペイン語しか分からないからさぁ……」

「私分かるけど一体どうしたの?」

 カルロスはマリーに懐から取り出した小型カメラに1枚の写真を写し出して、小さな声で静かに話し始めた

「実は警察に潜入調査を仕掛けた後でね、その中にポルトガル語で書かれた資料が紛れ込んでいたのさ。おかしい話だろ?業務で使う文書なら英語が基本だよ、アメリカじゃなくともね」

「それでアイツ等に殴られていたのね、よく留置場送りにならなかったものだわ」

「違う違う、バレたわけじゃないよ。警察にもいい人はいてね、手伝ってもらって誰にも見つからず事を終えた訳だけど敷地外で偶然ATと出くわしちゃって……こっそり取っていたらああなったわけ。幸いにも潜入調査で使っていたカメラは無事だったから良かったけどね」

 マリーはカメラを受けとって写っている茶色い文書に書き込まれた小さな文字と睨み合いをしていると血の気が引いたかのように顔が青ざめていく程、様子が変わっていくのが文字が読めないカイにも伝わってきた

「何よこれ……こんなの嘘よ……」

「一体何が書き込まれているんだ。そんなに重大な事なのか!」

 全てを読み終えたマリーは唾を飲み込んで、額に流れる冷や汗を拭って深呼吸をする

「簡単にまとめるとATがその場で実刑を下す事ができる法律が次の議会で通されるらしいわ。これ本当なの?ただの警察が裁判所も通さずに実刑って正気の沙汰じゃないわ。これが実現したら司法はお終いよ」

「なんてことだ……次の議会って1週間後だぞ?そんな法律を立ち上げるなんて報告は聞いていない!わざとらしくポルトガル語で書きやがって大統領の狙いはこれか!」

 カルロスはその場で素早く立ち上がってマリーの手からカメラを奪い取るように掴み取ると走って店から出ていった

「どこへ行くんだカルロス!」

「夕方のニュースをお楽しみにしてな!こんなところで呑気にはしてらんないからな!」

 カイとマリーは引き留める隙すら見せずに颯爽と立ち去ったカルロスの背中を眺めて、仕方なく残された生ぬるいバーガーを食べるのだった

 ――――――――――――――――――――

 カルロスは自家用車を走らせてTV局へ一直線に辿り着くと真っ先に社長室へ向かった

「社長!ATのデカいヤマがとれたぜ!早速今日のニュースに回してくれ!」

 革製の椅子に腰を掛けている社長にカメラを差し出しても深いため息をつくばかりで受け取ろうとはしなかった

「カルロス……ATのネタは今後扱わないと言っただろう」

「しかし奴等の蛮行を我々が報道せずに誰がこの現状を報せるんですか!?ジャーナリストなら事実をはっきりと伝えるべきです!」

 社長は深い皺を眉間に寄せながら葉巻に火をつけて深く煙を吸い込んだ

「……私には守らなければならない家族がいる。ここで働いてくれている職員達も守らなければならない、もちろん君を含めてな」

「俺の事はいいんです!とりあえずこれを見てください!ここに書いてある事を見ればきっとその意見だって変わります!」

 顔により濃い影を落としながらカルロスのカメラを受け取った社長は渋々と中のデータを見て重たそうな瞼を見開いた

「これは……!?なんて事だ。お前これをどこで手に入れた!?」

「警察所に忍び込んで直接撮って来た。大丈夫だ、誰かが情報を漏らしたとでも言えばバレやしないよ」

「そう言う話では無い!ただでさえATから圧力をかけられていると言うのにこんな爆弾を落としてしまえばどうなるか分からん。機密情報漏洩で最悪全員逮捕もあり得る話だよ」

「いくら何でもそんな横暴な……」

「相手は大統領直属の私設警察だ、その気になれば何でも出来る力を持っている。新しい法律を立ち上げてしまうくらいにな」

 社長はカメラをカルロスに返そうと手を伸ばした

「だからと言ってここで黙るわけにはいかねぇ!俺のジャーナリズムは誰にも屈さない!」 

 カルロスがカメラを強引に奪い取って慌ただしく部屋を出ていくのを社長は何も言わずに煙を吐き出すだけだった


 廊下を足早に歩くカルロスは隠しきれない苛立ちを抑えながら手に入れたデータを公開する方法を考えていた

「よぉ、カルロス。またATに首突っ込んだのか?顔が腫れてるぜ」

「うるせぇな、なんだっていいだろうが」

 同僚に揶揄われながら自分のデスクについてパソコンにカメラのデータを入れて、放送用の原稿と資料をとりあえず打ち込んだ

 書き込んでいる最中に思いついたのはコントロール室に立て籠もり、自分だけで放映を強行する事だけだった

 それならATは自分だけしか捕まえられない上に誰にも迷惑はかけないだろうとカルロスは思っていた

 ネットワーク上に写真のデータをばら撒くように仕掛けて、アメリカにいる信頼できるツテが向こうでも放送してくれるように出来るだけ多くの友達に頼み込んだ

「頼むぜ皆、これが最後になるかもしんねぇからな。人生賭けてでもこいつは絶対に報せなきゃいけねぇ」

 夕方のニュースの時間が近づいてくるとカルロスは原稿を印刷して準備を済ませると火災報知器のスイッチを叩いて大声で叫んだ

「火事だぁー!!!!!!皆逃げろー!!!!!!」

 建物の中は困惑しながらも急いで避難する人がいち早くでも外へ逃げようと走っていく

 その混乱に紛れるようにカルロスはもぬけの殻となったコントロール室に潜り込んで一つしかない出入り口を機材で塞ぐ

 カメラをコンソールに向けたカルロスは自分自身を映しだして放送を始めた

「只今緊急で放送を回しております、私は独自に入手した対テロ部隊に関する新たな情報をここに公開します」

 カルロスはコンソールを使って画面上に直接映し出して翻訳した内容を読み上げた

 ここに記されている法案と肥大するAT部隊の力の危険性を冷静に落ち着いて、この国で何かが暗躍している事を語りかける

 そうしているうちに塞いでいた扉が揺れてバリケード代わりにしていた機材のぶつかる音が鳴る

 扉を開けようとしていたのは放送を聞いてすぐに駆けつけた数人のAT部隊だった

 特殊部隊用の槌を両手に防音仕様の分厚い扉を強引にこじ開けようと何度も何度も叩きつけるが少し凹んでヒビが入っている程度ですぐに開きそうには見えない

「皆さん聞こえていますでしょうかこの音を!肥大した権力は傲慢にも報道の自由までも奪おうとしています!もはやこれは民衆による政治などではない!大統領による独裁政治です!」

 カルロスの必死な叫びは追い詰められて覚悟を決めたところから自然に出てきたものだった

 そして扉は蹴破られて中に入ってきたAT部隊がカメラの前にいるカルロスを殴り倒してはすぐに拘束して手錠をかけて部屋の外へ無理やり引きずり出した

「へッ!留置所送りなんざ怖くねーよ!お前ら警察に司法の権利はないんだからな!俺に罪はねぇ!」

 カルロスの強がりにAT部隊の隊員達は大声で嘲り笑った

「な、何がおかしい!一体何を笑っているんだ!」

「馬鹿だなぁお前!未公開の公式文書を勝手に公開したんだ、機密漏洩で一生豚箱だよ!」

「や、やりたきゃ勝手にしろ!そうすれば俺の言った事は正しいと証明されるんだ!むしろ有難いね!」

「はいはい、牢屋で勝手にやってくれよマヌケ!」

 カルロスは後ろ手に手錠を掛けられて両腕を縛られるようにAT部隊に腕を組みつかれて拘束しながら歩調も合わせずに引きずられている

 殴られた頭部やきつく締め付けられている手首や両腕の痛みに悶えながら歩いていると目の前には社長とAT部隊が何やら話をしているようだった

「おい、お前ら。そいつは釈放だ、手錠を外せ」

「一体どういうことですか社長、そいつらと一体何の取引をしたんですか!」

 社長は何も語らずタバコを吹かしながらカルロスに背を向けてAT部隊と共に建物の外へ出て行ってしまう

「今回の機密漏洩の主犯はここの社長で、お前は脅されて仕方なく事を仕向けた哀れな下っ端なんだとよ」

 手錠を外されたカルロスは後を追いかけるように走って外に飛び出したが社長は既にAT部隊の車両に連れ込まれて走り去っていった

「お、俺のせいで……なんでアンタが……」

 突然の事に動揺を隠せないカルロスはショックのあまりに呆然として立ち尽くしていると後ろから歩いてきたATに肩を強くぶつけられて両手を地面につけた

「それにしても可哀そうな社長だな!部下があんなことをしでかしたらどのみち責任を問われるというのに、バカな奴を下に持つと大変だなこりゃ」

 カルロスに聞こえるようわざと大きな声で嫌味を言って笑うAT達に怒りを感じてはいたが、それ以上に社長を巻き込んでしまった自分の不甲斐なさで立ち上がる気力は残されていなかった

 ――――――――――――――――――――

「あそこだ!テレビ局の前にカルロスがいるよ!」

 カイとマリーは宿舎に帰ってニュースを見ていたのだが放送中にAT部隊が突入していくのを見て急いでテレビ局に駆け付けたのだ

 AT部隊と入れ替わるように建物の目の前に車を止めて、四つん這いに倒れているカルロスに駆け寄った

「無事で何よりだわカルロス、ねぇあの後何が起こったの?テレビじゃ貴方が連行されたところまでしか映らなかったから……」

 マリーは話しかけている途中でカルロスの様子がおかしい事に気づいた

 昼食の時に感じていた陽気な気分を全く感じないどころかその背中には哀愁漂う雰囲気を纏っていた

「とりあえず、こんなところで話すのもあれだし私達の宿舎に行きましょ。そっちの方が涼しいし話しやすいと思うから、ね!行くわよカイ!」

「え!?う、うん。そうだね」

 マリーはカルロスの腕を引いて半ば強引に車に乗せて自分達の宿舎にまで連れて行った


 ラウンジのソファに腰を掛けて暖かいコーヒーを差し出されたカルロスはそれを受けとって口にする

「どう?少しは落ち着いた?」

 隣に座ったマリーもコーヒーを飲んでカルロスの話を聞こうと親身に話しかけた

「ああ、もう大丈夫だ。しかし、俺はこれからどうすればいいんだ?庇ってもらっても俺にはこれ以上出来る事なんて……」

「そんなこと言わないの、貴方だから出来る事だってあるわよ。だから社長さんは貴方を逃がしたんでしょう?そうじゃなきゃ誰も自分から罪を被りに行く事なんて出来ないわ。貴方だから託せるものがあったのよ」

「俺に託せるものだって?俺は自分のジャーナリズムを押し通して他人に迷惑かけるような無謀な事をしでかした男だぞ?そんな俺に託せるものなんかあるわけないだろう」

 二人が話していると横から突然、大声を上げたカイが急いでテーブルのリモコンを手に取った

「急にどうしたのよ、びっくりするじゃない」

「大変だよ!その社長さんの緊急会見が始まるって――――」

「何だと!?」

 急いでテレビをつけて映し出されたのAT部隊に連れられて椅子に座り、周りには沢山のカメラや音声マイクを持った人に囲まれているテレビ局の社長がいた

「今回の騒動は社長であるあなたの独断で行われた放送だというんですね?」

「あの写真は捏造だというのは本当ですか!?」

 記者の質問責めを浴びる社長は表情一つ変えることなく不動としてその場が静かになるのを待っていた

「あいつら……!俺の放送をデマ扱いにする気だな!その為に社長を脅したのか!?」

 テレビを見ていたカルロスは思わず立ち上がっていたが拳を強く握りしめるだけで何もできない悔しさで歯ぎしりをしていた

「今回の騒動につきましては私の独断で部下に指示を出させて放送しました、わざわざ火災が起こったと嘘をついて職員全員を外へ出させたのは誰にも邪魔されないようにするためにこれも私の指示で誤報させたものです。その件に関しまして関係各所にご迷惑をかけてしまった事をここに深くお詫び申し上げます」

 記者のざわついた声が収まらない会見でAT部隊が静かにするように呼び掛けている

「で、では!あのポルトガル語で書かれていたあの文書も偽造したものだったのですか!」

 静かになり始めていた会場は一人の記者の発言で一気に緊張感を高めて、途端に静寂が戻ってきた

 社長は重い腰を上げるようにゆっくりと立ち上がっては鋭い眼光をレンズに突き付けて大きな声で話す

「あの写真は……新たな法を作るというあの文書は……私が入手した確かな証拠であります」

 急に立場を変えて強気に出た社長の言葉は一瞬で会場をさらにどよめかせた

 自分達に従順だと思っていた男の予想だにしなかった謀反はAT部隊の為の会見だったはずのものを急遽中断する形で終わらせざるを得なかった

 誰もが驚いた言葉に一番衝撃を受けていたのはテレビを見ていたカルロスだった

「あんなことを言っちまったらもう取り返しがつかないぞ……!」

 記者達が社長に詰め寄るように前へ前へと押し寄せる様子が映し出されているが、AT部隊は無理やり引きずるように社長を何処かへと連行していった

 その最中でも社長と言う男は目の中にある覚悟や強い信念で常に訴えかけていた

「そうか、そうなんだな!アンタがその気なら俺だって負けてらんねぇ!」

 カルロスは急に走り出して宿舎の外へ出ようとするその背中にはもう弱弱しい意気地の無い男の姿は消えていた

「もう!急にどうしたの!」

「社長が覚悟決めてジャーナリズムを貫いたんだ!俺がここでクヨクヨしてたらとんだ笑い者だぜ!」

「それでどうするつもり?何をすべきか分かったの?」

「テロリスト共に直接取材をしにいくんだ」

「僕も連れて行ってくれ!」

 意気込んでいるカルロスを呼び止めたのはいつになく真剣な表情で強く拳を握りしめていたカイだった

「ちょ、ちょっとカイ!あなたまでどうしたの!?」

「僕だってこんな現状を変えたいんです!何も出来ないでただ眺めているだけなんて嫌ですからね。出来る事はなんだってやりたいんです!」

 カルロスとカイは顔を合わせて互いの強い思いが同じモノであることを感じ取った

「お前も分かったんだな社長の意志がなんなのか……なら付いて来い!」

「付いて来いって、運転するのは僕ですよ!」

 二人は宿舎からバギーに飛び乗って颯爽と走り去っていった

 突然、意気投合する二人の勢いに戸惑っていたマリーはその後ろ姿を見送る事しか出来なかった

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