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第40話

「マイヤはさ、これからどうするの?」

「……まだ何も分かりません。私は父に復讐をすることを目標に生きてきましたから。その目標を失った今、何をすればいいかも分かりません」


 落ち込んだような声でありながらも、どこかすっきりした声でそういうマイヤに対して「そっか」と返す。


 今私たちは砂漠の上を高速で飛行している。

 とりあえずマイヤをベルティナの町の近くまで送ろうと思っているからだ。

 私はベルティナの町へは行かないことにした。変に崇められるのはマイヤの仕事で私の仕事では無い。

 どうせ私はベルティナの町を離れるし、お金もあるから謝礼をいただいても意味が無い。

 ひどいかもしれないが、正直言って時間の無駄だ。


 砂漠の景色は変化が無い。

 一面を砂で覆われ、行っても行ってもただ薄橙色の砂地が続くだけ。

 時折見える人影も、注視しなければただの点で、景色の変化にはならない。


「あ、あの!」


 無言の空の旅。じっと景色を眺める私にマイヤが声を掛けてきた。「なに?」と返事をするが、何かもじもじと言いにくそうにしている。


「どうしたの?」

「あ、あの……。私を旅の仲間に加えてくれませんか?」

「うーん、……それは厳しいかな」


 正直こう言われることは予想できていた。

 彼女は今ベルティナに戻ってもきっと居心地が悪いだろう。

 自らが招いたことを、他人の力を借りてなんとか解決し、それを知らない住人たちに英雄として崇められる。

 居心地が悪くてベルティナを出たところで、行く先など無い。


 家は無い。居場所もない。これと行って友人もいなければ、訪ねるアテも無い。

 私に付いてきたいというを予想するのは非常に簡単だ。


「どうしてですか?」

「私に付いてくるのはもったいないよ。私は何か特別なことをするわけでも無く、ただひたすらにこの世界を彷徨う。

 私は時間に制限が無いから、心が満たされるまでその町にとどまるかもしれない。

 私は死ぬことが無いから、普通の人では到底入れないような所にも行くかもしれない。

 それこそ火山に行ってマグマの海の中を泳ぎ出すかもね。

 マイヤはそれについて来られる?」

「それは……、なんとかします」

「なんとかって?」

「えっと……」


 もっとやんわりと断る方法が合ったかもしれないが、口下手な私はこれが限界。

 必死に溶岩水泳の方法を考えるマイヤの様子をじっと見つめる。


 うーん、うーんとうねりながら頭の角度を変え続けるマイヤ。

 どうやら方法は浮かばなかったらしい。


「マイヤは他にやることがある。

 きっと君はもっと高みを目指せる。それだけの才能があるんだよ」

「才能、ですか?」


 そういうと、マイヤは少し驚いた様な表情を見せた。


「ああ。

 あれほどまでの魔方陣は、相当な手練れでもなかなか作れないだろう。マイヤはそれを成し遂げた。

 私はこの言葉があまり好きでは無いのだけれど、きっと天才なのだと思う。

 私に付いてきたら世界の損害だよ」


 なんとか空気を悪くしないようにすこしお茶目な感じで言う。


 数秒か、数十秒か、はたまた数分か。どんよりとした時間は長く感じる。

 旅について行くことを断られたのがいやだったのか、それとも何か癪に障ることがあったのか。

 それは分からないが、なんとなく落ち込んだ空気が流れ、時間が引き延ばされていく。

 そんな引き延ばされた時間を破り裂くようにマイヤが口を開く。


「でも、私には居場所がありません……」

「無いなら作ればいいんだよ」

「え?」


 そう言って私はアイテムボックスから1つの手紙を取り出す。

 マイヤが私のブレスレットを修理しているときに書いていたものだ。

 その、真っ白い封筒に、赤い蝋で閉じられた手紙をマイヤに手渡す。

 蝋にはベリネクスから貰った私の家紋がつけられている。


「これは?」

「これをベルフェリネ王国の王都にいる私に友人に渡して欲しい」

「友人に?」


 そう。と頷いて、アイテムボックスからもう1つの手紙を取り出す。

 そしてそれをそのままマイヤへと差し出す。


「少し進んで草原に入った頃、ベルティナの町周辺で分かれよう。

 そうしたらこの手紙を開けて欲しい」

「……どんなことが書いてありますか?」

「それは開けてからのお楽しみだよ。

 でも決してマイヤにとって悪いことでは無いはずだよ」

「分かりました。そのお仕事を全うします」

「まあそんなに気は張らないでね」






 そうして、短くも長くも感じる旅は終わりを迎えた。

 私たちはベルティナの町から徒歩で数時間という所の草原に降り立った。

 ベルティナはここから東の方向で、私はここから別の方向へ進もうと思う。


「本当にお世話になりました」


 そう言ってマイヤは深いお辞儀をする。


「いいんだよ。私も楽しかったからね」


 というと、マイヤも「私もです」とどこか寂しそうにつぶやいた。

 マイヤは私と違って体も心も幼い。ここで泣いても私は年相応だと思うだけで何か負の感情を抱くわけでは無い。

 しかし、マイヤは泣かない。


「じゃあ、手紙、頼んだよ」

「任せてください」

「そうそう、これを渡しておかないと」


 そういうと、アイテムボックスからとある荷物を取り出す。

 1つは皮の袋に入ったもので、もう1つは多分切れ味がいいであろう片手剣。それに、手頃なサイズの杖。


「これは?」

「見ての通りだよ」


 そういって、剣、杖、そして皮の袋という順番に渡していく。


「重っ!?」

「まあ、これくらいあってもいいでしょう。あ、そうそう。途中でジェノムとか言う男に会ったら、ギンがマイヤをベルフェリネ王国の王都へ送ってくれって。とか適当に言えば送ってくれるよ」

「ちょ、話を逸らさないでください! なんですかこの大金は!」

「まぁまぁ、私にとっちゃあ端金よ。ちなみに、もしこれを返そうとした場合は、すべてばらまきます。ああ、お金がもったいない」

「うぐっ……」




「まあ、ということで、私の友人によろしくね」

「えっと、友人って誰なんですか?」

「それはもう1つの方の手紙に書いてあるから、王都に着いたら開けて」

「はぁ、分かりました」


 どことなくあきれ顔を浮かべるマイヤに、右手を伸ばす。

 マイヤは一瞬驚いたような顔を見せるが、すぐにどこかニヤニヤするような顔になり、私の右手を握り返した。


「今までありがとう。いずれ私もベルフェリネの王都に行くから、そのときにまた会おう」

「はい。絶対ですよ」

「私は約束は守る。何か困ったことがあればジェノムか私の友人に言えばきっと助けてくれるよ」

「分かりました」

「じゃあ、達者で」

「はい。ギンさんも」


 そう言って、もう1度堅く堅く手を握って、私たちはそれぞれ別の方向へと歩いて行った。






 バスタブで空を飛ぶのはダサいということで、例にならって箒に跨ぎながら空を飛んでいる。

 移り変わる景色は非常に美しい。

 豊かな緑が広がる草原には、のびのびと動物たちが自由に暮らしている。

 一見変化がなさそうに見える森にも、植生やギャップなどの穴、枯れ木などの色の違いなど、案外見ていて飽きないものだ。


 マイヤと別れてから多分数ヶ月くらい経過したと思う。

 曖昧なのは私がカレンダーを持っていないからだ。


 私は今、海岸沿いに沿って箒を走らせている。

 地平線に沈む太陽を眺めながら食べるご飯はおいしいし、光を反射してキラキラ宝石のように輝く海水はとても美しい。


 マイヤはもうとっくに王都に着いただろう。

 王都で今どうなっているかは分からないけれど、きっとベリネクスならなんとかしてくれているはずだ。

 私の短い旅の相棒は私の信頼する友に任せ、私はのんきに、自由気ままにまだ見ぬ絶景を求めてのびのびと、旅を続けることにするよ。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

少しでも面白いと感じましたら、ブックマークや下の星からの評価などしてくれるとうれしいです。


これにて第2章が終了しました。


ここから少し閑話を挟んで第3章に入っていこうと思います。

少しリアルが忙しくて、小説を書いている時間があまり取れないのですが、なんとか早めに投稿できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

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