表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/53

第18話

「よし。とりあえず進もう」


 硬い肉を食べ終え、この岩場を越えるために再び歩き始める。

 ごろっとした不安定な岩の上を、何度も何度も踏みつけながらゆっくり一歩一歩歩いて行く。

 始めの方は痛かった足も、なんとなく岩の上の歩き方に慣れてきたのか、それとも体がその痛みになれてきたのか、気がついたときにははじめほどの痛みは感じなくなっていた。


 さすがにこの環境に慣れたわけではないのだが、少し鼻歌を歌う余裕も出てきた。序盤は緊張して見えていなかったのだが、この岩場という私にとって過酷な環境でも、ここに住む生物はいる。

 岩の隙間からトカゲが顔を出していたり、わずかに生える草にバッタがしがみついていたり。

 そういった豊かな自然に目を向けていると、前方に岩場の終わりが見えてきた。


 昼食を食べた場所から歩き出して体感10分経過していないだろうという頃だった。


「岩場を越えてから昼食にすれば良かった……」


 起伏のせいで見えていなかったのだが、どうやら昼食を食べた地点はこの岩場の終点手前だったらしい。

 まあ過ぎてしまったことをたらたらと長引かせるような性格でもないので、あの絶景の下で食事を取れてよかったと割り切ることにする。






 岩場を越えたところに広がっていたのは、岩場に入る前と同じような森。

 ただ、以前に比べて地面まで光が差し込むような森になっている。


 針葉樹の割合が減り、広葉樹の割合が増えた森は、少し新鮮に感じる。どことなく日本ぽさをかんじる森で、なぜか懐かしさを覚える。

 今までのジメジメした森とは違って、なんとなく爽やかで明るい森。


 全体的に葉は黄緑っぽく、探知魔法を使わなくてもわかるほどに動物の量が増えている。

 木々に反響する鳥のさえずりや、多方面から響いてくるリスの鳴き声。どことなく以前より軽いように聞こえる木々のざわめき。

 以前の森にも一応蝉セミはいたのだが、時折聞こえてくる程度だった。

 ただ、この森には多くの蝉が生息しているようで、やはり懐かしさを覚えるとともに暑苦しさを感じる。

 ……蝉にはおしっこを掛けられたという嫌な記憶があるので、できるだけ木のそばには近づかないようにしたい。




 現在地を地図に照らし合わせてみると、村が近くまで迫ってきているのがわかった。このペースで歩き進めていれば今日の日暮れ頃には到着できるだろう。

 ただ、日暮れ頃に到着しても村の売店なんかは閉まっているだろうし、小さな農村に宿があるとは考えられない。

 宿があったとしても私は泊まれない。


 なんて言ったってお金を一銭たりとも持っていないのだから。

 それに村に滞在するというのは追われている身からするとあまりやりたくない。

 なので今日はこのまま村には進まない。


 ひとまず今日は少し進んで拠点をたて、それから買い取ってもらう用の動物を狩っておく。食べる用じゃないから半日くらいアイテムボックスに入れっぱでも良いと思う。

 後はお風呂に入りたい。

 今私は汗臭いはずだし、この汚れまみれの状態で村には行きたくないからね。


 明日、早朝に森を出て村へと向かう。

 それですぐに買い取りや買い物を済ませてさっさと村を発つ。ここから街道を進んでいけば別の村に着くようだけど、街道なんてリスキーすぎて通れない。

 それに街道は南西の方に向かっているから、私が今向かっている西とは少し方角が異なる。

 正直今から緊張している。


 緊張する要因なんて山ほどある。

 この世界に来て初めての村だし、あの下劣な騎士共を除けば初めての人だ。

 森の先にある村は山を大回りする街道しか道が通っていないから、おそらく情報は回っていないはずだけど、帝国側も森を一直線に抜けたらこの村に着くということはわかっているはずだ。

 騎士たちが待ち伏せしている可能性もゼロではない。


 心臓のバクバクがとまらない。

 でも大丈夫。私なら大丈夫だ。     

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ