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第14話

 こいつらに指一本でも触れられたら魔力を吸収出来るのに、腕や足を縛られた状態では、触れるどころか手を伸ばすことすらままならない。

 どうせこのままじっとしておけば相手から触れてくるというのはわかっている。でもそれは嫌だ。その状況になる前にどうにか抜け出したい。


 あざがついてしまうのではないかと思うほどに腕を堅く縛り付ける麻のひも。少し体を動かすだけでもチクチクと痒いような、それでいて痛いような刺激を腕に与え続ける。


 不快だ。


「さて、どこからやるか」

「顔はほしいっすからね。無難に腕じゃないっすか?」

「そうだな」


 ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ、タバコを吹かすクズ共。


 無難に腕って何だよ……。

 正直腕をやられると今後の動き方に大きな影響を及ぼす。

 ただ、どこに剣を下ろされたところで、傷の大きさにもよるが今後の動き方に大きな影響を及ぼすという事実。

 そう考えると足とかよりはマシかもしれない。


 それでも嫌だ。


 ……なんとか腕を縛るひもの魔力を吸収することは出来ないだろうか。


 そう思い魔力を吸収してみたが、麻のひもはもうすでに死んでいる植物を使って作られたひもだ。

 すでに枯れている麻から魔力を吸い取ったところで、さらに枯れると言ったことはなかった。

 多少もろくなったかもしれないが。


「ああ、もうめんどくさい!」

「あ?」

「あ、やべ」


 何をしてもうまくいかないこの状況に思っていた感情が口から出てしまった。

 そりゃそうだろう。非常に面倒くさい。

 どれだけ性根が腐っていようともこいつらが帝国の騎士であることに変わりはない。だから出来れば傷をつけることなく脱出したかった。

 今は帝国領内。帝国領内にいる内はできるだけ帝国の人たちと敵対関係を持ちたくはない。


 しかしもう無理かもしれない。

 適度に魔力を吸収すれば、倒れている野郎はただの魔力切れだと思ってくれるかもしれない。目を覚ましたときにおそらく私の存在がばれるだろうけど、それまでにここから離れておけば問題ない。

 ただ5人全員が魔力切れともなると怪しまれる。だからやりたくはなかった。


 腕の部分に、常に掛けている身体強化魔法に加え、さらに魔力を投入して一気に強化する。

 拳をぎゅっと握り、小さく踏ん張って麻のひもを破り裂く。


「――おまえ、何をした?」

「拘束具が鉄じゃなくて良かったよ。鉄なら無理だったね」

「……お前ら、武器を取れ」


 先ほどまでのどことなく気を抜いているような顔から、一気にその様相が消えていく。

 こんなに緊迫した場面なのに、その光景がどことなく面白くて思わず笑みがこぼれてしまった。

 ただ、このこぼれた笑みは私にとって良いように作用してくれたようで、さらに奴らの焦りを加速してくれた。




 触れば勝ち。触れば勝ち。触れば勝ち。

 とにかくあいつらに触れば良い。この世界で戦闘員として従事している彼らに、今まで部屋でゴロゴロとして過ごしていた私が触れるというのは容易ではないが、どこかに触れられれば魔力を吸える。

 ただ、そのすった魔力。これを以前のように魔力を形として放出するのはあまりよろしくないかもしれない。

 このボロ小屋を破壊するのはまずいだろう。


 ならば得た魔力をすべて身体強化で使ってやろうじゃないか。

 ガリガリ? 舐めるな! 金属だろうが何だろうが引き裂けるほどに強化してやろうじゃないか!




 比較対象がないからなんともいえないが、私の魔力量はそこまで多くないと思う。

 身体強化魔法を強く使っている今、正直どのくらいの時間を戦えるのかわからない。

 そこまで持たないと考えた方が良いだろう。

 倒せば倒すほど相手の魔力を吸い取って長く発動できるが、倒せなければ魔力枯渇で倒れてしまう。

 この場で意識を失って倒れてしまった結果、何が起こるかは明らかだろう。




 こいつらはただの盗賊ではなく、戦闘経験を積んだ騎士。

 性根が腐っていようがその事実は変わらないわけで、正直隙が見えない。

 ただでさえ戦闘経験が少ない私だけど、人間との戦闘経験なんて一度もない。なんたってずっと森の中で孤独に過ごしていたのだから。


 正攻法で戦っていては無理だ。

 足につけていた身体強化を弱めていく。この狭い部屋の中で足に身体強化を掛ける意味はほぼない。

 代わりに浮いた分の魔力を手に回していく。


 相手を素手での攻撃に持って行ければ私の勝ちだ。

 おなかをグーで殴られたっていい。その隙に腕に触れられたら魔力を吸える。

 素手に持って行く方法。剣を粉々に砕けば良い。


 構えた剣、一気に踏み込んでこちらへと向かう野郎共。こちらから見て右上から振り落とされる剣は、肩の辺りをめがけてやってくる。

 その剣は先ほど果物ナイフによってえぐられた肩をさらに切りつけ、悶絶するほどの痛みとともに腕のしびれがやってくる。


 ――こりゃまずい。血液が足りないのか。神経が傷ついたのか。なぜしびれているのかはわからないが、右手がろくに使えない状態になるのは避けたい。


 とりあえずヒールだ。

 急ぐ呼吸をなんとか抑え、体を動かして攻撃を避けると同時に頭を動かして肩の傷が塞がるイメージをする。

 マルチタスクを鍛えておけば良かったと後悔するが、今はそんな物に脳のメモリーを割いている時間はない。


 完全に塞がらないながらも、なんとか血が止まるほどまでは回復できた。




 野郎の一人が飛ぶようにこちらに迫ってくる。

 私に突き刺すように向けられた剣。これは絶好の討伐チャンスである。

 私の体に垂直に飛んできた剣を一気に横から弾き飛ばす。

 剣と同時に飛んでいった巨大な図体は、壁に当たるとそのもろい壁を貫通して外へと飛び出た。

 さすがに粉々とは行かなかったが、手から離れた剣はひびが入り、今にも折れそうな状態で地面に横倒しになっている。

 弱めていた足への身体強化を強くして、一気に倒れた野郎の元に飛んでいき、首元に手を当てる。


 そして、一目散に魔力を吸い上げてはその魔力を風魔法として辺りにまき散らす。

 なぜここで風魔法を発動したのか。その理由は至ってシンプルで、小屋の外に飛び出てしまったからだ。

 騒ぎを聞きつけた他の騎士共は私を侵入者だと決めつけているらしく、追い返すまたは倒すために武器を抜いて集まっている。

 おそらくなぜ私がここにいるのか説明したところで信じてはくれないだろう。

 どんなに私が口上手でも、目の前に転がる仲間の姿を見れば敵にしか思えない。私はただここに誘拐されてきただけなのに。


 体の全体の身体強化魔法を切る。


 そして、その分で浮いた魔力と、先ほど吸い取り風魔法の余剰分の魔力をすべて足に回していく。

 少し日が傾いているかという頃。私の前方に広がる夕日に染められた木々生い茂る森。私の第2のふるさととでも言おうか。




 一気に足に力を入れ、この広大な大地を力強く蹴る。

 多少飛ぶようにしてキャンプ地から離れると、そのまま一気に森の中へと入っていった。

 森の中に入ると、少し身体強化を弱めるが、後ろを振り返ることなくそのまま魔力切れまで前進し続けた。

 少しでもあの地から離れられるように。

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