第6話:持つべきは親友
「学校でもいくか!」
「いってらっしゃい純弥」
「悪い、嘘だ母さん。言ってみただけ」
今昼間だから、今から学校行っても何しに来たの? って言われちゃう。学食で昼飯食いにきたって言うしかなくなる。
ん、そういえば最近学食に顔を出していない。確か今日は……スイーツの日じゃないか。
「やべぇ、まじで学食いこっかな」
「?」
母さんには通じないか、だが俺の通う高等学校の学食には、月に一度のスイーツの日があり、その日はプロのパティシエによるオリジナルスイーツがメニューに並ぶのだ。
俺が学校に行く数少ない用事のうちの一つだが、最近忙しくてすっかり忘れていた。
「うーん、学校行こうかなぁ……」
今から行ってももう行列だろうしなぁ……行列なぁ。
「ぬらがいるじゃねぇか」
「……」
「お、居たのか。だったら話は早い。て、こらこら。めんどくさいって顔するな」
「……めんどくさい」
「めんどくさいって言うな。お前の分も買ってやるから」
「本当かっ!?」
「悪いが凛香に言った覚えは無い……て、あぁ! 泣きそうな顔するな! 買ってくるから!」
女の子って言うのはズルイ気がする。こいつのは演技だと知ってるんだけどな。
「おう、俺も頼める「だめだ」
逆におっさんは不憫なもんだな。誰がお前の頼みを聞くものか。しょんぼりしても無駄だぞ。
さて、学食でスイーツが食いたくてわざわざ昼から通学するというのも、まぁありだろ。妖怪一人まで連れて行くという計画的なところも○だ。
「……行くなんて言ってない」
「そこをお願いします!」
とにかくぬらを口説き落とすことができたので、ぬらと2人で学校を目指す。
目標はスイーツを3人前。残ってると助かるな。
そして学校、うむ懐かしき校舎よ。
「お前と居ると誰にも気づかれねぇな」
生徒から教師まで全ての人にシカトされるという徹底ぶり。これがぬらの能力じゃなかったら泣きそうになるな。
「……スカートめくってもばれないよ」
「バカやろう! そんなことするかよっ!」
「……なんで屈んでるの?」
バカやろう、避難訓練に決まっているじゃないか。
「おー純弥。一人で避難訓練か? それとも女子のスカートの中でも覗いてるのか?」
「バカっ! ちげーよ!」
つか、なぜ話しかけられたんだ? ぬらもずっと横に居るから、普通はばれないはずなんだけど。こいつはゴルゴなのか?
いや、ゴルゴではない。クラスメートの双葉薫だ。俺より長身で、俺よりイケメン。俺よりまじめに学校に通っている男だ。
「……で、そのちっさい子は?」
「弟だ」
「は? お前一人っ子だろ?」
「義理のな」
どんな嘘だよ、これギリギリだったな。こいつは俺の家族構成は把握してるんだった。迂闊だったな。動揺を隠しきれただけでもよしとするか。
「なんだ、薫もスイーツが目当てか?」
「まぁそうだが、お前もなら残念だったな」
「何がだよ」
「ソールドアウトー」
「なんだとっ!?」
早い、想定外だ。せっかくここまで来たのに、今日のスイーツはなんだったんだよ。
「特製プリン。俺は買えたが「譲れ」
「……断固拒否する」
「5個も持ってるだろ」
「悪いがこればっかりは純弥の頼みでも譲れんな」
ちっ、親友だと思っていたが。こうなれば強硬手段に出るしかないな。
「(いけ、ぬら)」
「(……能力を破られたのは初めてだ)」
「(え? じゃあ無理かよ)」
「(……舐めるな……)」
ぬらが、完全に消えた!? これが本気か……!
「じゃあな、アディオス!」
「お、おぅ。アディオス」
手の中のプリンが消滅したことに気づかない哀れな薫、ありがとう。やっぱりお前は俺の親友だ。
さて、目標のブツは手に入ったことだから、後は家に帰ってゆっくりといただくとしよう。
「帰るか、ぬら」
「っ! ……分かった」
何をびっくりしてるんだよ、いっつも俺がびっくりさせられてるのに。いきなり話しかけたからか?
まぁいいや。帰ってプリンをいただくか。
そして校門にて、俺の前に立ちはだかる男がいた。名前は双葉薫。何を隠そう俺の親友だ。
「おう薫。どうした?」
「どうしたじゃねぇよ。そのプリン、返してもらおうか」
めんどくさい男だ、気づいていたとはな。だがこっちにはぬらがいる、悪いが逃げさせてもらう。
「ぬら」
「……承知。……調和」
よし、ぬらが消えた。後は薫をどうにかしてくれるから、このプリンを持って家まで帰るだけ。
……あれ? プリンはどこだ。
「プリンをどこに隠したァ!」
「し、知らねェ!」
は、図ったな! ぬらめ!
やばいぞ、こいつめちゃくちゃ強いんだけど……
そして、俺は久しぶりに血を見た。やっぱり学校なんて行くものじゃないな。俺は反省した。
別に血も見てないして、制服も綺麗なままに全速力で逃げてきただけだけど、とりあえずぬらに腹が立つので、復讐を誓いつつ玄関をたたいた。
「おかえりー、気が利くわねー。わざわざ全員分用意してくれるなんて」
母さんが笑顔で出迎えてくれた。
「なんだかんだ、お前いいやつだなあぁー」
ミケにいたっては泣いてやがる。
「うむ、ありがたい。早くいただこうぞ」
凛香はテーブルにスタンバイしている。いつでもプリンにかぶりつける状態だ。そしてプリンを今並べているガキンチョは、
「……計算どおり」
親指を突き立てて、無表情ながら自慢げな表情で俺を見ている。計算どおりだと?
「ふざけるなぁ!」
その日は荒れた。しかしプリンはうまかった。