第1話:居候は狐娘
「悪くない寝心地じゃったぞ」
「……は?」
俺はどうやら畳の上で、胡坐をかいたまま寝ていたようだ。
無駄にだだっ広い巨大な和室が俺の部屋だ。そこに生活に必要なものがすべて置いてある。
だだっ広いっていうのは、相当だだっ広い。客船の大部屋ぐらい広い。そこに一人なわけだから、ちょっと寂しいな、ということで持ち込んだパソコンに熱中してしまい座ったまま寝ていた。
すると、いつの間にか一人じゃなくなっていたようだ。
足がしびれている。
謎の少女が俺の膝を枕にして寝ていたらしい。
「ふむ、この高さ、程よいかたさ。素晴らしいな、誇ってよいぞ」
「……は?」
「どうした、さっきとリアクションが変わっておらんぞ」
「……誰だ、お前?」
「すまんすまん。自己紹介が遅れたな」
ようやく謎の少女が俺の膝から頭を上げて、畳の上に座った。
この服は、あれだ。巫女さんが着ていたような袴だ。
「凛香というのが名前じゃが、九尾の狐としてのほうが有名じゃろうな」
「……は? それ尻尾か?」
なんか足の辺りにふさふさしてる狐色の何かがあると思ったら、そのまま狐の尻尾だったわけか。
なるほどなるほど。
そんなわけねぇだろ! どうせその尻尾もなんかおもちゃみたいなもんだろう。
「っ! なにをするのじゃ!」
「あら……? これマジで体にくっついてんの?」
尻尾を引っ張ったら少女の方も引っ張られてきた。
こいつマジで狐の妖怪? いやいやそんなことがあってたまるか。そう、これは夢なんだ。
もう一回寝よう。そうすれば次起きたときには、この変な少女は消えているはずだ。
「待て待て、なぜ寝ようとするのじゃ? さては信じておらんな? では証拠を見せてやろう。だからこっちを向け」
「あぁ……? もう良いって。夢に付き合ってられっかって……なぜ服を脱ごうとするんだ!」
いや、これは夢だからいっそ……
つか俺ロリコンじゃねぇから! なんでこんな夢見てんだ?
「……何を慌てておる?」
「あ、なるほど。それが真の姿ってわけね」
普通に狐の姿をしている。
いや別にまったくがっかりなんてしてないけどね。
「では証拠を見せよう。まだ正式に九尾とは成っておらんが、人一人吹き飛ばすのは容易い」
「吹っ飛ばす? てめぇ何する気だ?」
「夢だと思っておるのじゃろ?」
「ストップ! 理解した! これは現実、お前は狐の妖怪だ。なぜここにいるのか説明しようか。そしてその前に服を着て人の姿に戻ってくれ」
「まぁいいじゃろう」
狐が袴をかぶると、どうやってるのか知らないけど、袖から人の手が出てきて、いとも簡単に袴を着こなしている。
結構着るの難しいと聞くけど、これはまた画期的な着脱方法だな。
「じゃあ聞くが、なんでここにいる?」
「人界での修行のためじゃ。九尾の狐は、姿を変えて権力者をだましてその命をすってまた強くなるのじゃ」
「おい待て。じゃあ俺を殺す気か?」
「権力者というのが聞こえんかったか?」
この野郎。
「これはその段階のひとつじゃ。人界にうまく溶け込むことが絶対条件じゃからな」
「いや、俺に正体明かした時点で無理だろ」
「だからおぬしには協力者になってほしい。どうか了承してもらえんかのぅ」
「そうは言ってもなぁ」
「そのためにお人好しそうなロリコンやろうを選んできたのじゃ」
この野郎お願いするつもりねぇだろ。
よく物を頼む相手にお人好しそうとか言うよな。つかロリコンでもねぇよ!
「純弥。誰か部屋にいるの?」
やべぇ! 家には母さんがいることをすっかり忘れていた。
このままじゃ部屋まで来るじゃねぇか! まぁこの小娘一人を完全に隠す程度のスペースは余裕であるが……
こっちから頼みごとをすれば、確実に俺も頼みを聞く羽目になる。
「なるほど、母上か。ではここでわしがロリコンなおぬしに強姦されそうになった事を伝えればどうなるじゃろうな」
「さらっと脅迫するんじゃねぇ! つーかなんでしゃべり方は古臭いのにさっきからロリコンって言葉はポンポン出てくるんだよ!」
「どれ……襲われ「お願いします、なんでもするんで隠れてください」
この野郎め……
だがそれどころじゃねぇ。とりあえず押入れに押し込んでおこう。
「純弥? あれ、一人?」
「あ、あぁ。腹話術の練習してたんだ」
「そのこけしで?」
「そうそう。とりあえず準備するから出て行ってくれる?」
「分かったわ」
母さんは部屋から出て行った。
まぁこれでとりあえず脅威は去ったな。なんにしてもあいつがすんなり隠れてくれて助かった。
「にしし、さっきに言葉、忘れたとは言わさんぞ?」
「あぁはいはい。男に二言はねぇよちくしょう」
つか具体的になにやるんだろ。