9話 鬼の居ぬ間にラブコメ。
「ん?」
朝、羽乃が部屋に来なかった。
いや、本望であるのだが、なにかおかしい。
何だ?
押してダメなら引いてみろ作戦か?
僕は押されても引かれても、落ちる気は無いのだが、
居間に行っても、いつものように朝ごはんを作る羽乃の姿は無い。
でも、義父さんは、いつも通りコーヒー片手に新聞を読んでいた。
なんというか、何の捻りもないザ・サラリーマンって感じだ。
「父さん、羽乃は?」
「熱があるらしい。」
「ほーん、」
……珍しいことも有るもんだ。
ん、待てよ?
これは、好機では?
僕が仮に、羽乃の居ない一日でイイ感じィの女友達を作れれば!
勝てる!
僕の青春は、目の前だ!
「そ、それでだな……」
「ん?」
義父さんは、まだ何かあるようで、僕に話しかけてきた。
なんだ?早く言ってくれ。
僕は、どんな風にこの一日を過ごすかに、脳内フルスロットルで思考を巡らせてるんだ、邪魔しないでくれ。思考は戦場を駆けるランスロットの如くだ(?)
羽乃が居ない学校の一日!どう使おうが僕の勝手だが、無駄には出来ない。
「羽乃が、心配だから今日は頼も休んでくれないか?」
「え……」
なんだと……?
いやいやいやいや、そうはならんやろ!
僕の貴重な一日を羽乃の看病に当てるだと?
そんなの、ダメだ!
「いや、それは……ちょっと、」
「……な、なんでだ?」
なんでかって?
そんなの、羽乃の居ない学校生活を一日でも体験したいからだ!
でも、流石にそうは言えない。
そうだ!学生には出席日数というものが存在するんだ!
「えっと、ほら単位とかあるじゃん?」
「……確かに、そうか、」
おお!
諦めてくれそうな流れ!
こんな、頭の回る僕を褒めてくれ!
「そ、それなら大丈夫だ!」
「え?」
何をもって大丈夫なの?
思わず疑問を声に出してしまった。
何を考えてるんだ僕の義父は。
「それは、こっちの方で、ちょこちょこっと……」
は?
どういうことだ?
義父さんに、僕の出席日数を改ざんする力があると言っているのか?
それとも、親が先生に訴えれば欠席にならないとでも勘違いしてるのだろうか?
どちらにせよ、意味が分からない。
「ん?意味が分からないんだが、どういうこと?」
「……だから、理事長に頼んどくからさ!」
「……は?理事長?」
「ほら、俺と理事長って仲良いじゃん?」
……?
いや、初耳ですけど?
ほら?じゃねえよ、初めて知ったわ。
待てよ、ということは僕と羽乃が、同じクラスになったのも義父さんのせいなのか?
理事長に頼んで、同じクラスにして貰ったってことか?
だから、クラス発表の日に羽乃は、あんなに余裕そうだったのか……。
なるほどな、
うっひょー、謎が解けたぜ!
……んな、こと言ってる場合では無い、
どうにか、学校に行かせて貰わなくちゃ、僕の青春が!
「ってことで、学校には連絡しといたから!父さんは仕事に行くね!」
「え、ちょっと待っ」
言い終わる前に、義父さんは消えていた。
やはり、メタルスライムだ。
なんというか、はぐれメタル感もある。
どうしよう。
本当に僕は学校に、行ってはいけないのか?
いや、今からでも学校に連絡してーーーーー
〜数分後〜
『えっと、唐草くんは出席停止になってるから来ちゃダメだよ?』
「は?」
電話の奥で先生は言った。
出席停止だと?
出席停止ってのは、あの伝説の出席停止か?
インフルエンザの時にしか、お目に掛かれないヤツではないか……。
どうやら諦めるしか無いようだ。
「はぁ、お粥でも作るか、」
こうして、僕の、鬼の居ぬ間にラブコメ作戦は静かに幕を下ろし、代わりに妹看病イベントが始まったのであった。
てか、僕の義父さんは何者なんだ?
謎は深まるばかりだった。
今でこそ出席停止なんかは某コロナの影響で良く聞きますが、コロナが流行る前は出席停止なんかお目にかかれなかったですよね…